シティ・モビリティ

物流の2024年問題と荷待ち・荷役時間

主任研究員 水上 義宣

2024年4月1日からトラック運転手の拘束時間の上限が厳しくなる。トラック運転手の拘束時間には、荷物の順番待ちや積み降ろしなどの「荷待ち・荷役」が含まれている。拘束時間の上限規制に対応しつつ、トラック輸送力不足を回避するためには「荷待ち・荷役」の時間短縮が必要である。特に荷物の受取り手にあたる着荷主の協力が求められている。
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1.はじめに

2024年4月1日に働き方改革関連法などによってトラック運転手の業務出来る時間の上限が厳しくなることから、株式会社NX総合研究所によるとトラック輸送力が2024年度に14.2%不足すると試算1されている。このため、政府は2023年6月2日に「物流革新に向けた政策パッケージ」(以下「政策パッケージ」)を決定するとともに「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)を策定した。

政策パッケージでは「荷待ち・荷役の削減」が挙げられており、大手企業を中心に業界・分野別の自主行動計画を作成し2023年度中に取り組むことが求められている。このため、物を運ぶ「運送事業者」、運送事業者と契約し荷物を発送する「発荷主」、発送された荷物を受け取る「着荷主」の連携・協働が必要となる。

2.物流の2024年問題と運行時間

トラック運転手は2024年4月1日から働き方改革関連法により年間時間外労働時間が960時間に制限されるほか、労働者であるか否かにかかわらず「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」)を遵守する必要があり、同じく2024年4月1日に図表1のとおり改正され、業務できる時間等2が短くなる。

これにより、1日の拘束時間が13時間を超える運行は原則として認められなくなる。また、拘束時間には、年間3,300時間、月間284時間の上限もあるため、例外を使って1日13時間を超えるような運行を毎日行った場合も規制を超える恐れが出てくる。

≪図表1≫改善基準告示改正のポイント
≪図表2≫トラック1運行の平均的な内訳

平均的なトラックの運行は、図表2のとおりで、点検・点呼等23分、荷役1時間29分、附帯作業等14分となっている。これらの時間は拘束時間の長短に関係なく一定と考えられる。また、休憩時間は1時間43分で、拘束時間の長短に比例し1時間30分~2時間程度と考えられる。従って、1運行のうち運転以外に使われる時間が3時間30分~4時間程度となり、拘束時間の長短に応じた残りの時間が運転できる時間と考えられる。

大型トラックの高速道路での法定速度は80km/hであるので、渋滞などを考慮すれば70km/h程度が平均速度と考えられ、1日の拘束時間の原則である13時間でトラック運転手1人が運送できる距離は(13時間-4時間)×70km/h=630km程度となる。なお、現行では1日の拘束時間は最大16時間で、この場合(16時間-4時間)×70km/h=840km程度の運行が可能である。

東京都庁から各府県庁までの距離は図表3のとおりで、走行距離が600kmを超える東京から秋田、青森及び中四国への運行は拘束時間13時間を超える可能性が高い。特に665km~840kmの区間には香川、青森、島根、高知、広島、愛媛が位置しており、東京起点では北東北及び中四国が拘束時間短縮の影響が大きい地域となる。

≪図表3≫都府県庁間の距離

3.荷待ち・荷役時間の短縮が鍵

トラック運転手の拘束時間は原則13時間、そのうち点検・点呼等、荷役、附帯作業等、休憩が3時間30分~4時間程度であるが、このほかに運転に使用できない時間として、荷物の準備ができていなかったり積み下ろし場所が混雑していたりすることによる待ち時間である「荷待ち時間」がある。また、荷待ち時間には、時間指定にあわせるための時間調整による待ち時間も含まれる。

国土交通省の調査5によると、図表4のとおり、2020年度に荷待ちのある運行は全体の24%であり、平均荷待ち時間は1時間34分だった。従って、荷待ちのある運行では、荷待ちのない運行と比べ走行できる距離が1時間34分×70km/h=110km程度短くなる。荷待ちがない運行であれば拘束時間13時間で655km程度走行できるが、荷待ちがある運行の場合は拘束時間13時間では555km程度しか走行できない。例えば、東京~岡山間は652kmなので、荷待ちがある場合は1人の運転手で運ぶことができなくなる。

≪図表4≫荷待ちのある場合とない場合の拘束時間の違い

なお、図表4のとおり、2015年度には、荷待ちのある運行が全運行の46%、荷待ち時間1時間45分だったが、2020年度には全運行の24%に減り、荷待ち時間も1時間34分に短縮されており、昨今の運転手不足に対して一定の改善は図られている。ただし、荷役時間が全運行平均で2時間47分から1時間29分に大幅に短縮されていることを考えると、荷待ち時間の縮小幅は小さく未だ改善余地があるものと考えられる。

ガイドラインでは「荷待ち・荷役時間の合計は2時間以内」とし、「既に2時間以内の荷主事業者は1時間以内となるように努める」と定められた。平均的な荷待ち・荷役のパターンを例にとると、荷待ち時間のある事業者は、荷待ち1時間34分+荷役1時間29分=3時間2分を2時間以内に、荷待ち時間がない事業者は荷役時間1時間29分を1時間に短縮することが求められていると考えられる。なお、政策パッケージでは2023年度内に3割の運行において荷待ち・荷役時間を合計で2時間以内とすることが掲げられている。これにより2024年度不足する輸送力14.2%のうち4.5ポイントが生み出せると見込まれている。

4.物流プロセスとその課題

荷待ち・荷役時間を削減するためには、物流プロセスに係わるすべての関係者の連携・協働が必要となる。物流のプロセスは図表5のとおりで、①買い手が商品を購入し納品の依頼をする。売り手が商品を出す「発荷主」、買い手が商品を受け取る「着荷主」となる。②商品を売った発荷主は運送事業者と運送契約を交わし、商品の着荷主への運送を依頼する。依頼を受けた運送事業者は多くの場合、③下請けの運送会社に運送を発注し、自身は元請運送事業者となる。下請けも多重構造となっており、二次下請け、三次下請けと下請けが繰り返されることもある。そして④下請けが実運送事業者として実際に商品の運送を行う。このため、実運送事業者と着荷主の間では理解や調整の不足が起きやすい。また、着荷主にとっては運送の実態や課題が認識しづらく、荷待ち・荷役時間の削減が進みづらい。

図表5物流プロセス

5.荷待ち・荷役時間の削減に向けて

(1)着荷主の連携・協働が必要

図表6のとおり国土交通省の調査によれば、荷待ちの40.9%が発荷主、59.1%が着荷主で発生している。荷役も33.8%が発荷主、66.2%が着荷主で発生している。2015年度には荷待ちの発生は発荷主46.0%、着荷主54.0%、荷役の発生は発荷主48.5%、着荷主51.5%だったので、相対的に着荷主の方が荷待ち・荷役の改善が進んでいない。

また、荷待ちが発生しているか否かの把握状況を国土交通省が調査した結果が図表7である。実運送事業者では荷待ちが発生しているとの回答が73.4%あるが、元請運送事業者では荷待ちが発生していると回答したのは54.8%、把握していない等の回答が15.2%となっている。また、着荷主に「着荷主自身の拠点で荷待ちが発生しているか把握しているか」と質問した結果は、発生している20.6%、把握していない等18.5%となっているのに対し、発荷主に「着荷主の拠点で荷待ちが発生しているか把握しているか」と質問した結果は、発生している20.2%、把握していない等45.6%となっている。

≪図表6≫荷待ち・荷役の発生場所
≪図表7≫荷待ち発生の把握状況

契約上運送の改善にあたるのは元請運送事業者と発荷主であるが、着荷主での荷待ち・荷役の状況については、実運送事業者から元請運送事業者、着荷主から発荷主と辿る中で実態が不明になっていると考えられる。また、運送事業側では荷待ち発生の状況を把握していない等は元請運送事業者で15.2%に留まっているが、荷主側では着荷主の荷待ち発生の状況は発荷主の45.6%が把握しておらず、着荷主と発荷主の間の連携が特に遅れていることがわかる。

着荷主は一般に商品の購入者であることから、商品を販売した発荷主にとってもお客さまであり、発荷主から着荷主に状況把握を依頼したり改善を求めたりすることは難しい。従って、着荷主と発荷主の間の連携を進め、運送の改善を図るためには、着荷主が自身の荷待ち・荷役の状況を把握して発荷主に伝える必要がある。また、商品の購入者として要求するのではなく、物流プロセスの当事者として発荷主、運送事業者と持続可能な物流の実現に連携・協働して取組むことが重要となる。

(2)トラック予約受付システムとその課題

荷待ち・荷役時間を把握し、削減する一つの方法として「トラック予約受付システム」(「バース予約システム」とも呼ばれる)がある。これは、運送事業者またはトラック運転手が荷役時間を予約することによって、荷待ち・荷役時間を削減するシステムである(図表8)。導入する荷主側にも、物流施設の作業量を平準化し作業効率を高めることができるという利点がある。また、荷待ち・荷役時間がデータ化されることで連携が容易となる。

≪図表8≫トラック予約受付システム

しかし、経済産業省などの調査13によると、トラック予約受付システムを導入している荷主は7%、すべての拠点に導入している荷主は1%に留まっており普及は進んでいない。

≪図表9≫トラック予約受付システムの課題

経済産業省などの検討会14や大阪府での実証実験15で寄せられた意見は図表9のとおりで、荷主にとっての初期費用の問題、物流プロセス内での調整を含む運用の問題、システムの統一の問題が挙がっている。

以上より、トラック予約受付システムについては、導入によって荷主にも利益があることを広報して荷主の投資を後押しすることが必要である。

また、時間枠の調整や予約のタイミングなどの運用の改善は、荷待ち・荷役時間の把握をもとに、着荷主、発荷主、元請運送事業者と実運送事業者が予約時間のあり方や運行時間、連絡するタイミングの改善などを協働して行うことが必要と考えられる。

システムの機能や使い勝手については、システム各社が競争することで改善されている面もあるが、全日本トラック協会が案内しているトラック予約受付システム だけで12社あり、結果として複数のシステムを使う必要が生じてトラック運転手の負担となっている面もある。今後は、システム間の連携でトラック運転手が扱うシステム数が削減されることや、普及が進むことでデファクトスタンダードができることが期待される。

6.おわりに

政策パッケージにおいて、2023年度中に取り組むこととして「荷待ち・荷役の削減」「積載率向上」「モーダルシフト」「再配達削減」と「多重下請けの改善」が挙げられている。特に「荷待ち・荷役の削減」はトラック運転手が限られた拘束時間内に運ぶことができる距離に直結する。この時間の削減には改善の余地が残されている着荷主の協力が必要不可欠である。また、「積載率の向上」「モーダルシフト」も出発から到着までに時間的余裕がなければ調整する余地がなく、結局は着荷主の協力が必要不可欠である。「再配達削減」も会社と個人の違いはあるが、受取り手の協力という意味では着荷主の協力の一つである。

このように今回の政策パッケージでは、持続可能な物流の実現には運送事業者や発荷主の努力だけでは限界があり、着荷主の協力も必要であることが示された。また、政府としては「荷主企業の役員クラスに物流管理の責任者を配置することを義務づけるなどの規制的措置等の導入に向けて取り組む。」とされており、今後も荷主企業には物流に対する取組みの強化が求められる見込みだ。人口減少時代に持続可能な物流を実現するためには、物流プロセスに係わるすべての関係者の連携・協働が求められている。

  • 国土交通省・農林水産省・経済産業省 第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会(2022年11月11日) 資料1株式会社NX総合研究所「「物流の2024年問題」の影響について(2)」p.1
  • 改善基準告示では休憩を含む始業から就業までの時間を「拘束時間」とし、拘束時間数等を規制している。
  • 厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト>トラック運転者>トラック運転者の改善基準告示」https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice#about(最終閲覧日:2023年6月16日)、厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(2022年12月23日改正 厚生労働省告示第367号)」
  • 国土交通省「令和2年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.72
  • 国土交通省「令和2年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.72
  • 国土交通省「令和2年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.72
  • 経済産業省・国土交通省・農林水産省(2022.11.11)第3回持続可能な物流の実現に向けた検討会資料4p.4
  • 国土交通省「令和2年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.75,79、国土交通省「平成27年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.24,28
  • 国土交通省「令和2年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.18,19,26
  • 国土交通省(2017.4)「「トラック予約受付システム」の導入事例」p.2
  • 経済産業省・国土交通省・農林水産省 第11回 持続可能な物流の実現に向けた検討会 参考資料4 (2023.6.16)
  • 国土交通省近畿運輸局 第13回トラック輸送における取引環境・労働時間改善大阪府地方協議会 資料2-① (2021.8.17)
  • 経済産業省・国土交通省・農林水産省(2023.4.27)「荷主事業者の物流情報の把握状況等に関する実態調査結果」p.3
  • 経済産業省・国土交通省・農林水産省 第11回 持続可能な物流の実現に向けた検討会 参考資料4 (2023.6.16)
  • 国土交通省近畿運輸局 第13回トラック輸送における取引環境・労働時間改善大阪府地方協議会 資料2-① (2021.8.17)
  • 公益社団法人全日本トラック協会(2020.7一部改訂)「「トラック予約受付システム」のご案内 ~ 荷待ち時間の削減に向けて ~」

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