ポートアイランドに見る神戸市流まちづくりの行方
~(株)アシックス本社がポートアイランドから本社を移転(2024年8月27日)~

上級研究員 福嶋 一太

【内容に関するご照会先】:ページ下部の「お問い合わせ」または執筆者(福嶋:050-5471-6155)までご連絡ください。

アシックスは、兵庫県神戸市の人工島「ポートアイランド」にある本社を、再開発が進む神戸市三宮地区に移転することを決定した。本社移転日は2028年1月の予定である。アシックスは今回の本社移転の目的を、利便性が高く、新たな街のシンボルとなる三宮地区へ移転することで、エンゲージメントの向上や人材確保、多様な働き方の推進などの人的資本投資の推進であると公表している。

ポートアイランドの現状と課題

 現在のアシックス本社が置かれているポートアイランドは、平地が少ないという神戸市の地理的課題を克服するために、六甲山地を削り、その土砂を使って埋め立てられた人工島である。同島は2期に分けて開発され、そのうち1期目の北側は1981年に街びらきした。この1期目のポートアイランドは、アシックスやワールドといった神戸発祥の繊維企業が集う「神戸ファッションタウン」、「神戸国際会議場・国際展示場」「ポートピアホテル」といったコンベンション施設・宿泊施設、後述するポートピア’81の跡地を活用した遊園地「ポートピアランド」、さらにUR等の大規模マンションが併存する、当時としては珍しい、職住遊近接型のコンパクトシティを目指したものであった。そのため、ポートアイランドの人口は順調に伸びた。
しかし、1995年の阪神・淡路大震災を契機に、ファッション関連を中心に企業撤退が続き、ポートアイランドの人口は減少した。
 そのような状況に対し、神戸市は2期目の開発として、ポートアイランドの南側の開発を進めた。まず、1998年に「神戸医療産業都市」として先端医療産業が集積するエリアが設けられ、ライフサイエンス分野での企業誘致が進められている。2000年には研究開発の一大拠点として理化学研究所が開設された。さらには、2006年には神戸空港が開港し、ポートライナーが神戸空港まで延伸された。2007年には神戸学院大学などの3大学の新キャンパス・学部が誘致された。このため、ポートアイランドの人口は2000年頃から下げ止まっている。
 ポートアイランドの現在の課題は神戸ファッションタウンの衰退と居住者の高齢化である。ファッション関連企業の撤退には歯止めがかかりそうになく、前述のように神戸のファッション業界の雄の一つであるアシックスも撤退を決めてしまった。また、20~30代の若者の流出が続いており、ポートアイランドの高齢化率は神戸市全体を上回っている。

神戸市のまちづくりとポートアイランド

神戸市は、全国の大都市と同様に少子化が進展し、また、西宮市、明石市等の神戸市の周辺都市への流出、さらに神戸市も含まれる巨大経済圏の中心都市である大阪市都心への流出に歯止めが止まらず、人口が減少基調にある。その結果、2010年には政令指定都市内で5番目であった神戸市の人口は、福岡市や川崎市に抜かれ、2024年では7番目まで落ちている。一方、全国のトレンドでもある都心居住が神戸市でも進んでおり、神戸市中心部である三宮駅周辺等の神戸市中央区の人口は増加しており、その増加率は政令指定都市の区の中でも上位となっている。
 神戸市全体が人口増加基調にあったポートアイランドの街びらき時は、山地と人工島の両方で住宅の確保に成功したこともあって、神戸市の街づくりの手腕は評価されていた。ポートランドの街びらきを記念して神戸市がメインで開催した1981年の「神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア‘81)」は、当時の神戸の人口の10倍以上に当たる1,610万人の観客を動員し、その後の地方博の先駆けとなった。それとともに、新しい街としてのポートアイランドの知名度と神戸街づくりの知名度が一気に高まった。

人口が減少基調の中、神戸市の街づくりは難しい局面を迎えているといえよう。神戸市は2015年に「都心・三宮再整備 KOBE VISION」を発表して、約150の再開発ビルが建設予定(そのうち一つは前出のアシックスの本社移転先)であるなど、都心再開発に大きく舵を切った。一方で、全国の大都市が都心における職住近接を目指す中、神戸市はいわゆる「タワマン規制」を導入する等、都心での住宅建設には抑制的である。企業、各種商業施設や住宅に対する大阪市の吸引力が高まっている中、神戸市はタワマン等による職住近接を目指さず、大阪市に伍して企業や大規模商業施設の誘致に成功するのか、注目される。
 一方、職住近接のコンパクトシティであるポートアイランドの行方も気になるところだ。神戸空港は2025年の国際チャーター便の発着を皮切りに、国際線の離発着が可能な国際空港になる。そのため、海外からの往来がしやすくなり、医療関連産業のさらなる発展や神戸国際会議場・展示場を活用したMICEの増加が期待されている。都心再開発により、前出のアシックスのようにポートアイランドから都心にオフィスを移す企業が出てくる一方で、ポートアイランドでは医療関連企業やMICE関連の企業の進出が増加し、就業者の増加につながれば、ポートアイランドの人口増加につながろう。さらには、都心再開発で企業や商業施設が増加すれば、それらで働く者の居住場所としてもポートアイランドに注目が集まろう。

交通アクセスの利便性向上も重要になる

都心とポートアイランドで一体化した街づくりを成功させるには、都心の巨大ターミナルである三宮とポートアイランドを直接結び、ポートアイランド内の移動にも大きな役割を果たすポートライナーの利便性が鍵になる。幸いにも、現在のポートライナーの運行本数は最も多い時間帯で1時間28本と、東京の山手線を凌駕するほど、利便性は高い。今後は都心再開発の際に、比較的複雑とされる、ポートライナー「三宮駅」と阪神・阪急「神戸三宮駅」、JR「三ノ宮駅」、神戸市営地下鉄「三宮駅」の乗り換えがよりスムーズになるよう期待される。
 このように、神戸市の都心再開発にとって、都心で働く者の居住地までの交通アクセスは成否の鍵の一つであり、特に、現在は時間がかかるとされるポートライナーと阪神・阪急・JR・神戸市営地下鉄の乗り換えを改善することで、ポートアイランドの再興がより現実的なものになろう。

【図表1】ポートアイランドの人口推移

(出典)神戸市資料

【図表2】ポートアイランドの高齢化率(65歳以上人口の占める割合)

(出典)神戸市資料

【図表3】三宮地域・ポートアイランド近辺の路線図

(出典)各種資料より当社作成。

TOPへ戻る