三大都市圏を制する者が優位に立つ!
~2024年総裁選を党員票から読む~
議員票と党員票の合計で決まる
2024年の自民党総裁選(9月12日告示・27日投開票)は、議員票と党員票の合計で決まる。そのうち、自民党所属の国会議員(衆議院253人+参議院114人)が一人1票のため、議員票は367票となっており、27日に投票される。
一方、党員票は、最初の投票において議員票と同じく367票となっており、党員・党友の投票で決まる(投票締切りは議員投票の前日の26日。結果は国会議員投票の後に発表)。各候補者への投票数は、全国合わせて集計され、367票の党員票が「ドント式」で各候補者に配分される。国政選挙でも比例代表に採用されているドント式の詳細な説明は省略するが、得票率に応じた配分とほぼ同じと考えてよい。例えば、前回2021年の総裁選をみれば、河野氏の得票率は44.1%で、党員票の総数(382票)の44.1%は168.5票に当たるが、ドント式の結果は169票であった。
最初の投票において、議員票と党員票の合計が過半数に達した候補者がいない場合、上位2名による決戦投票に移る。決戦投票では、議員票は367票で変わらないが、党員票は各都道府県連1票となり、計47票に圧縮される。各都道府県連の1票は、党員投票の結果に基づき、決戦投票に進んだ候補者のうち得票数が多い候補者に自動的に配分される。例えば、前回2021年の総裁選では議員票と党員票の上位2名(河野氏と岸田氏)による決戦投票となったが、河野氏が39都道府県、岸田氏が8県で相手を上回ったため、決戦投票における党員票は河野氏が39票、岸田氏が9票獲得した。
最初の投票で2位までに入るには、党員票が鍵を握る
前回2021年の総裁選では、候補者が4人であったため、最初の投票における各候補者の順位を想定しやすく、決戦投票を見据えた合従連衡が進みやすかったとされる。そして決戦投票では、最初の投票において党員票で圧倒して1位に立った河野氏を、いわゆる「2位3位連合」によって議員票で圧倒した岸田氏が逆転した。
しかし、今回は、決戦投票の枠組みが想定しがたく、決戦投票に向けた合従連衡が容易ではない。このレポートの公表時点(告示の前日)で立候補者数は9人と、今の総裁選の枠組みになって以来では過去最多であるからだ。これは、2024年に入って派閥解散が進んでいるのと無縁ではなかろう。議員票と党員票が割れるのは確実だ。それゆえ、最初の投票で過半数を得る候補者が現れる可能性は薄く、焦点は最初の投票でどの候補者が2位までに入り、決戦投票に進むかに移っている。
議員票を考えると、候補者は告示の際に公表される推薦人20人以上を基礎票としているので、20人×9候補者=180人以上の議員票については、すでに投票先が概ね確定したといえる。これは議員票総数の367票の約半分に及ぶ。派閥が解散しつつある中、党員票の行方を気にする必要がないほど、議員票を大量に獲得して決戦投票に進み、決戦投票でも優位に立つことができる圧倒的な候補者は想定しがたい。
一方、党員票の行方では、日本テレビが党員・党友に限定した実施したアンケート調査(9月3・4日実施。9月5日発表。)が参考になろう。この党員・党友向けアンケートは2021年の総裁選でも行われており、実際の党員・党友票の結果とアンケート結果の差異があまりなかったからだ。アンケート結果によると、1位が28%、2位が18%、3位が17%、4位が7%と、党委員・党友票で上位とそれ以外の差は大きく、さらに、「決めていない等」が10%となっており、浮動票は少ない。このアンケート結果どおりだと、2位の候補者は党員票換算で66票獲得する計算となり、推薦者20人と合わせると、約90票を獲得することになる。議員票が割れ気味とされる中、合計90票以上獲得するためには、議員票だけでは難しく、党員票の上乗せが極めて重要となる。党員票について、態度未決定の10%の浮動票だけでなく、党員票で上位が予想される候補者の党員・党友票を奪うために、壮絶な争いとなるのは間違いない。前回2021年の総裁選に比べて、各候補者の公約が比較的割れていることも、このような背景があろう。
三大都市圏が総裁選でも総選挙でも大きな意味をもつ
前回2021年の総裁選の各都道府県別党員・党友票を見ると、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)の票数は多く(図表1)、三大都市圏計で全体の39%を占める。党員票獲得に向けては、大都市圏の党員・党友の支持が重要といえよう。
さらに、総裁選後には早期の総選挙が想定されており、今回の総裁選は総選挙の顔選びという側面が強い。2021年総選挙での小選挙区投票数を地域別に見ると、三大都市圏の票数が多く、三大都市圏計で全体の52%に上った(図表2)。また、小選挙区の選出議員数を見ても、直近の人口を反映した「10増10減」の区割り変更の結果、三大都市圏は、次の総選挙で初めて全国の半数を超える(図表3)。大都市圏の有権者の支持を得られやすいことは、総選挙の顔にふさわしい要素の一つといえよう。
【図表1】都道府県別党員・党友投票数(2021年)
(出典)自民党「令和3年総裁選挙 党員投票結果」(2021年)より当社作成
【図表2】小選挙区における都道府県別投票数(2021年)
(出典)総務省「第49回衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査(3.10.31執行)速報結果」より当社作成
【図表3】三大都市圏の小選挙区選出議員数と全国に対する割合
(出典)総務省・公職選挙法の改正に関する各資料より当社作成