不動産ビッグデータは新ビジネスの起爆剤になるか?
~登記所備付地図の無料配信サービスによるDXの推進~
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2024年4月に法務局が登記所備付地図[1]のデジタル化と無料一般公開を開始した。これまで、登記所備付地図は、法務局によって紙データでの提供が一般的だったのに加えて、不動産登記受付帳[2]や登記簿[3]は筆単位で整備されていることから、広範囲での登記状況の把握がネックとされてきた。しかし、今回の登記所備付地図のデジタル化と無料一般公開によって、物件や所有者情報などが簡易に入手できるようになる。このため、民間企業を中心に、不動産ビッグデータを介した新ビジネスに大きな期待が寄せられている。
総務省(2019)によると、デジタルを通じた新ビジネスの創出には3つのパターンがある≪図表1≫。一つは、これまで紙を介して行ってきた社内業務にデジタルツールを導入することで、業務効率化を図る「デジタイゼーション」だ。二つ目は、クライアントや顧客に対する社内外の取引きをデジタル化する「デジタライゼーション」で同様に業務効率化につながる。それに対し、三つ目は、デジタル技術の活用による新ビジネスの創出と、社会制度を変革する「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と定義される。
今回の登記所備付地図のデジタル化(デジタイゼーション)と無料一般公開は、例えば、不動産会社の買取・仲介・管理替えなどの手間を省くなど、業務効率化を後押しするだろう。一方、登記所備付地図をはじめ、例えば、公示地価、金融情報、ハザードマップ等からなる土地、建物情報を、一つの空間情報システムで紐づけるマルチベンダー(異なるメーカーや提供元の製品を複数組み合わせ使用すること)のシステム開発にも注目が集まる。既に先導的企業ではシステム開発や、クライアントに対するサービス提供にも成功している。一方で、不動産ビッグデータを介したDXの推進は緒に就いたばかりであり、今後、新ビジネスの創出につなげることが、業界全体の大きな期待となっている。
≪図表1≫デジタル・トランスフォーメーションの概念図
先導的企業であるTRUSTART株式会社は、異動データ(相続、売買、抵当権、差押等)や、建物データ(ビル、マンション、アパート等)から成る不動産ビッグデータを保有し、地積、公示価格、用途地域等、複数の地図データを組み合わせて使うマルチベンダーシステム「R.E. DATA Plus」を開発している≪図表2≫。今回の登記所備付地図をこれらのデータに紐付けることで、より多面的な事業展開が可能になった。同システムにより、例えば、不動産(買取・仲介・管理替え)、金融(富裕層開拓・ローン借り換え)、インフラ(乗り換え・電柱・鉄塔用地の地権者確認)、士業(相続税還付支援・相続登記)等、社内業務や、顧客・クライアントに対する社内外取引の業務効率化を後押している。汎用性の高い公開データを活用しており、不動産、金融業に対するサービス提供が強みだ。
≪図表2≫R.E. DATA Plusの概要
一方で、不動産ビッグデータの可能性は、既存ビジネスをターゲットにした業務効率化に限らない。例えば、社会制度の変革を目指した新ビジネス創出に視野を広げると、空き家や所有者が分からなくなった土地、建物特定のための技術的サポートや、さらには国や地方自治体の政策、計画立案のためのコンサルティング業務にまでつながる。2023年12月に施行された改正空家特措法や、今年6月に閣議決定した土地基本方針など、国の土地、建物に関する法整備も、新ビジネス創出の後押しとなるだろう。改正法では、空き家の事後対応から未然防止へと方針が転換され、空き家を早期に特定する必要性が明記されている。また、土地基本方針では、国が所有者不明土地を特定するための不動産情報基盤整備が重点施策として盛り込まれている。従って、今後、民間企業が保有する不動産ビッグデータや技術開発は、国や地方自治体の方針を決めるための伴走として、さらに注目が集まるだろう。
不動産ビッグデータは、既存ビジネスの業務効率化から社会制度の変革を伴うビジネスの創出へと視野を拡張することで、新ビジネス創出の起爆剤となり得るのではないだろうか。
- 登記所備付地図は、不動産登記法に基づき、登記所に備え付けられる地図で、各土地の位置及び区画(筆界(境界))が明記されている地図のこと。
- 不動産登記受付帳は、登記情報の変更があった物件について月単位で保存した台帳(行政文書)で、各地の法務局で開示請求をすることで誰でも取得することができる。登記情報には、登記変更の目的、申請年月日、所有不動産の種別(土地、建物、区分建物)、地番等が記載されている。
- 不動産登記簿は土地や建物の所在、面積、住所、氏名などの情報を記載した公の帳簿(登記簿)のことを言い、一般公開されている。