中国経済の今後への示唆 ~三中全会を振り返って~

上級研究員 初田 好弘

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中国共産党の重要会議である「三中全会」が7月18日に閉幕した。「三中全会」の正式な名称は、中国共産党第 20 期中央委員会第 3 回全体会議という。中国共産党の最高意思決定機関は5年に1度開催される党大会であるが、もう少し高い頻度で重要議題について話し合うため、党大会の場で選出された中央委員会が、5年間のうち概ね7回、全体会議を行う建付けとなっている。各全体会議の場で話し合う議題は概ね決まっており、「三中全会」では中期的な政治・経済方針について話し合うのが通例となっている。

今回の三中全会の内容を振り返ると、総論としては政治・経済方針の大きな軌道修正は行われなかった。以下では、各論で今後の中国経済の方向性が窺われるポイントを解説する《図表》。

まず、製造業については、昨年から力を入れている「新質生産力の向上」を掲げた。「新質生産力」とは高い品質や効率を備えた生産力を意味し、質の高い発展を重視する習近平政権が最重要課題と位置付ける分野である。今回、改めて次世代情報技術やAI、新エネルギー産業などの発展に向けて取り組んでいく姿勢を示した。一方、サービス業については、特にインダストリアル・インターネット(インダストリー4.0に相当する概念)のプラットフォームの発展を目指す文脈で、対事業所サービスへの支援に力を入れる方針が窺われる。

また、地方政府の債務拡大が問題視されている中、地方税源を増やす方針を示した。具体的には、都市整備税、教育費付加、地方教育付加を地方付加税に統合することを検討し、地方政府に一定の枠内で具体的な適用税率を決定できる権限を付与するとしている。理屈上は、地方政府の裁量で税収を増やせることになるが、栄えている地域ほど税率を上げやすいと考えると、地方政府間の歳入格差拡大につながりうる点は注意が必要だろう。

貿易に関しては、クロスボーダーサービス貿易ネガティブリストの全面実施を表明した点が興味深い。ネガティブリストが導入されると、リストに記載されていないサービス項目については、制限なく国を越えて提供を受けられることになる。これまでは一部の自由貿易試験区において限定的に実施されてきたが、全国的に実施された場合、サービス貿易が本格的に拡大する可能性がある。

目下、中国経済低迷の主因となっている不動産に関しても、いくつかの方針を打ち出した。賃貸・購入両方を奨励する住宅制度の確立は、不動産需要の喚起を意味するが、もともと持ち家志向が強い国民性がある中、賃貸需要がどの程度高まるかには疑問が残る。また、一般に、住宅価格下落が続く状況では住宅購入はためらわれると考えられ、価格が底打ちするまでは購入需要も高まりにくいと思われる。不動産市場に対するコントロール自主権を各地方政府に十分に与えるとした点は、地域ごとの実情に合わせた個別的な対応を促す「一城一策」を継続する趣旨といえよう。もっとも、2010年代後半にも同様に「一城一策」を進めていたが、その時は多くの地域で住宅価格上昇が続き、最終的に全国レベルでの価格抑制策に踏み切る事態となった。この反省を踏まえると、今後も、不動産市況を見ながら段階的に自主権を付与していくが想定される。不動産開発の融資方式と分譲住宅の前売り制度の改革については、ここ数年、未完成住宅が大量発生し、購入者への引き渡しが行えなかった問題への対応と考えられる[1]。これらの融資方式や制度は、住宅価格高騰の元凶ともいえる一方で、住宅市場の急速な発展、ひいては高い経済成長を支えてきた面もあることから、改革でどこまで踏み込めるかは注目だろう。

今回の三中全会は、通常のペースであれば昨年秋に開催されるとみられていた中、1年ほど後ずれする形での開催となった。これは、足もとで不動産不況の長期化や欧米との貿易上の対立などが生じる中、中長期的な方針の策定が難しかったためと推察される。このことは、大きな政策の方向修正が行われなかった一因でもあるだろう。内外で大きな問題を抱える中にもかかわらず、今回の三中全会で打ち出された改革は2029年までに達成することとされており、十分な猶予があるともいえない。いずれも数値目標は設定されていないことから、政治・経済環境の変化を見ながら、ある程度メリハリを付けて取り組んでいくことになるだろう。

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