バイデン氏の米大統領選挙撤退 次なる展開は
7月21日、民主党のバイデン大統領が、11月に投票が行われる米大統領選挙からの撤退を表明した。再選を目指していた現職大統領が選挙戦を降りるのは、1968年のリンドン・ジョンソン大統領以来、約50年ぶりの事態だ。とはいえ、6月末のトランプ氏とのテレビ討論会で精彩を欠いたことで、民主党内からも撤退を促す声が高まっていた中、今回の決断は避けられない状態だったといえよう。
選挙戦における次の焦点は、新たな民主党の正副大統領候補が誰になるかだ。手続き上、民主党は8月19~22日に開催される全国党大会で、正式な正副大統領候補を選出する必要がある。ここで大統領候補となるためには、代議員約4,000名の過半数の票を獲得しなければならない。通常は、各地で行われる予備選を通じて、特定の候補者が予め代議員の過半数の票を得ており、党大会の時点では既に誰が大統領候補になるかは決まっている。しかし、今回は、ほとんどの代議員から票を得ていたバイデン氏が撤退することとなったため、4,000近くの代議員票がどの候補者に流れるか次第となっている。現状の大統領候補としては、現職副大統領のハリス氏を筆頭に、ミシガン州知事のウィトマー氏、カリフォルニア州知事のニューサム氏、イリノイ州知事のプリツカー氏、ペンシルべニア州知事のシャピロ氏、運輸長官のブティジェッジ氏などの名が挙がる。
しかし、党大会まで約1ケ月と時間が限られる中、現実的には大統領候補はハリス氏一択だろう。バイデン氏が撤退表明と合わせてハリス氏を支持することを表明したことに加え、現職の副大統領であることから、全国的な知名度も頭一つ抜けている。また、もともと次期副大統領候補としてバイデン氏陣営に登録されていたハリス氏は、バイデン氏が集めた選挙資金も引き継げるとみられ、資金面でも優位に立つ。ニューサム氏がバイデン氏の撤退発表後にハリス氏の支持を表明するなど、既に一部のライバル候補者がハリス氏の支持に回る動きも見られる。とはいえ、無競争での候補者決定は不満が残りやすいため、党大会の前にオンライン投票などを通じて候補者の一本化を図る可能性が高いとみる。
どちらかといえば、副大統領候補争いが焦点になるとみている。仮にハリス氏が大統領候補者になったとしても、トランプ氏の知名度には見劣りする。その意味では民主党は正副大統領のコンビとしての勝利を目指すとみられ、ハリス氏にない部分を補える副大統領候補が選ばれる可能性が高いと考えられる。
ハリス氏の立ち位置を整理すると、彼女は女性かつ非白人であり、白人労働者層を中心に支持を集めるトランプ氏とは毛色の異なる支持層を有している。また、年齢的にも59歳と、78歳のトランプ氏よりも20歳近く若い。バイデン氏撤退の背景が高齢不安であったことを考えると、若さがプラスに働く可能性は高いだろう。一方、政治経験の浅さと成果の乏しさは弱みとなる。ハリス氏はサンフランシスコ州の検事、カリフォルニア州の司法長官を経て、2016年に上院議員に初当選しており、政治経験は10年にも満たない。また、副大統領として主に取り組んでいた不法移民問題に対する民衆の不満は根強く、政治実績でのアピールが難しい。折しも失業率が再び悪化しつつある中、労働者層を支持基盤とするトランプ氏は、討論の場において不法移民問題を今まで以上に糾弾してくる可能性が高い。
このように考えると、副大統領候補としては、白人層を中心に知名度が高く、政治経験豊富な人材が望ましい。しかし、先に挙げた候補者の顔ぶれは、いずれも全国的な知名度が低いうえ、年齢層も40~50歳代と若く、決め手に欠ける。
別の観点でいえば、選挙までの時間が限られる中、票獲得を優先してスイングステートに強い人材を起用する可能性が考えられる。スイングステートとは、大統領選のたびに勝利政党が変わる激戦州のことを指し、代表例としては、アリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州などがある。この考えに沿うならば、ミシガン州知事のウィトマー氏やペンシルべニア州知事のシャピロ氏が有力になってくるだろう。
とはいえ、候補者たちが大統領候補としての出馬を目指すのか、ハリス氏の支持に回り副大統領の座を目指すのかによって、状況は大きく変わりうる。どのような形であれ、民主党がここから巻き返すためには、一刻も早い党内の意見一致が求められる。