ローカル線存続議論は加速するか?
~JR久留里線沿線地域交通検討会議・芸備線再構築協議会の進め方から見えるポイント~

上級研究員 福嶋 一太

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「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」(以下「検討会議」)の第4回目協議が2024年7月16日に開催された。交通分野の学識経験者が検討会議の座長を務め、JR東日本、千葉県、君津市、住民代表が参加し、不採算が続く久留里線の久留里-上総亀山間沿線地域の総合的な交通体系に関する議論が行われている。今回の協議では、久留里線の今後の在り方を示す報告書を年内に取りまとめることが明示された。報告書には、オンデマンド交通や高速バスといった、鉄道に代替する交通手段採用時のメリット・デメリットも示される見込みだ。今後は、報告書の内容に基づき、JR東日本と君津市等が具体的な対応を協議することになる。
 ここで、久留里線の特徴を改めて確認すると、終点駅である上総亀山駅で他路線とつながっていない、いわゆる「盲腸線」となっている。このような路線は全国的に苦戦を強いられており、久留里線も例外ではない。平均通過人員(1日1kmあたりの乗車数)が久留里線全線でJR発足時の1987年より約7割減少、うち久留里~上総亀山間では約9割減少しており、利用者の減少が拡大している。その要因は、モータリゼーションの進展や少子高齢化である。特に久留里~上総亀山間がある上総地区の人口は、2010年度に8,662人であったが、2024年6月には5,678人まで落ち込み、2023年度の高齢化率は51.3%にまで達している。利用者の減少が運行本数の減少を招き、さらに利用者が減少する構図だ。そして、少子高齢化の進展により久留里線沿線の生産年齢人口(15歳~65歳)も減少し、通勤・通学といった主な利用者の減少が続くことも見込まれており、今後の見通しも厳しい。

検討会議が久留里線沿線住民に対して実施したアンケートによると、通勤・買物・通院で公共交通機関(電車・バス等)を利用せず、車や家族の送迎により移動する人の割合は約9割に達している。通学もスクールバス利用が約6割に達しており、車社会化が公共交通離れに拍車をかけていることがわかる。
 また、久留里線に沿って高速バス(カピーナ号、アクシー号)が1時間に1~2本の頻度で運行されている。これらの高速バスは、久留里線の馬来田駅から終点である上総亀山駅までの駅付近に停留所を有し、千葉駅や東京駅まで直接アクセス可能で、地域交通の利便性向上に貢献している。その反面、地域の足という観点では久留里線と競合関係にもなっている。
 JR東日本もこの状況を改善すべく、久留里線利用促進に向けた取組として、サイクルトレイン「菜久留トレイン」の運行や、新潟プロレスと組んだ「プロレス列車」の運行などを実施している。しかし、いずれも利用者の大幅な増加にはつながっておらず、久留里~上総亀山間で100円の運賃収入を稼ぐのに16,821円(2022年度)の費用を要するほど、その採算性が悪化している。

《BOX》久留里線沿線のオンデマンド交通


久留里線沿線の高い自動車利用率は、沿線地域の住宅が山深く点在することにも起因する。そのため、従来の路線バスでは沿線地域に交通空白地帯が生じることから、君津市は久留里線沿線の4地域(小櫃、久留里、松丘、亀山)でデマンドタクシー「きみぴょん号」の運行を行っている。きみぴょん号は、事前予約を行い、域内は共通乗降場や自宅の前などの事前に登録した場所で乗降することができる。そのため、地域住民にとって利便性の高い交通手段になっている。さらに、土・日・祝には地域外の観光客も利用することができ、観光の足としての役割も果たしている。一方で、地域の足や観光手段という観点では、久留里線と競合関係にもなっている。

このように、久留里線は赤字路線である一方で、高速バスやオンデマンド交通のような鉄道以外の代替交通が存在するため、検討会議では「久留里線の存続ありき」ではなく、鉄道に代替する交通手段の整理を含めた幅広い議論が行われる予定だ。しかし全国に目を向けると、このような状況はまだ少ない。地域の赤字路線廃線に対する拒否感は根深く、鉄道事業者が検討会議の設置を求めても、行政側が応じないといったケースも散見される。
 そのため、国もこの状況を打開するべく、2023年10月に「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律」を施行した。国がこの法改正を中心に推進するのが「地域公共交通のリ・デザイン」だが、この中でローカル鉄道の在り方に大きな影響を与えるのが「再構築協議会」の設置である(なお、久留里線の検討会議は同法に基づく再構築協議会ではない)。

再構築協議会とは、利用者の減少で鉄道としての機能が十分に発揮できない路線に対し、今後の在り方を議論するため、自治体または鉄道事業者が国に要請することで設置されるものである。輸送密度(1kmあたりの1日平均旅客輸送人員)が1,000人未満の区間に優先して設置され、協議が開始してから原則3年以内に再構築方針を作成することが大きな特徴だ。そのためこの再構築方針には、鉄道を維持するか、またはバスなどの他の交通手段に代替して利便性を確保するか、どちらかの措置を記載することになっている。
 この再構築協議会の第1号が広島県と岡山県を結ぶ芸備線(備中神代~備後庄原)である。この路線は、平均通過人員数が476人から20人(1987年→2022年)まで落ち込み、100円の運賃収入を稼ぐのに15,516円(2022年度)の費用を要している。そのため、JR西日本が国土交通大臣に設置を要請し、国も「芸備線再構築協議会」の設置を2024年1月に決定した。

芸備線再構築協議会では、まず芸備線の可能性を最大限追求し、次に、より利便性・持続可能性の高い公共交通の実現に向けた、最適な交通モードの在り方を検討する方針が国から提示され、了承された。今後、データやファクトに基づいた芸備線の今後の可能性について検討が行われる。具体的には、潜在需要の調査や利便性向上による利用者の便益分析、まちづくり・観光振興等による地域への波及効果に関する分析等が行われる予定だ。この調査・分析結果を踏まえ、芸備線の可能性追求に向けた実証実験や、鉄道を含めた最適な交通モードに関する実証実験を行い、再構築方針案について3年を目途に策定する。国もこのような実証実験に対し、最大5,000万円の補助金を投入する方針である。

久留里線の検討会議や芸備線再構築協議会から、鉄道の存廃そのものを議論するのではなく、地域住民が安心して暮らすための移動手段を確保するために、各参加者ができること・できないことを正面から議論することの重要さを伺うことができる。久留里線では代替手段を検討する方向で、芸備線では鉄道の可能性を追求する方向でそれぞれ議論が進んでいるが、いずれも鉄道の存続ではなく、その地域の暮らし・在り方が議論の土台に上がっているところがポイントだ。地域鉄道に係るコストをどこが負担するかという議論も重要だが、地域鉄道の赤字拡大を防ぐためにも、鉄道事業者や沿線自治体、関係者間での丁寧な協議を早急に開始することが求められているのではないだろうか。今後は地域全体を巻き込んだ地域鉄道の在り方に係る議論が加速するだろう。

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