自動運転レベル3:乗用車・マイカーの自動運転の現在地 ~ホンダ、メルセデス、BMW~
※追記※ 2024年10月10日:乗用車・マイカーの自動運転に関する新しいレポートを発行しました。
■過去から2024年7月までのレベル3に関するグローバルの開発動向・販売動向、国連での協議状況等については、このページのレポートをこのままご覧ください。
■2024年9月末~10月頭のメルセデス・ホンダの次世代車発表については、↓↓新しいレポートでご確認いただけます。
メルセデス、ホンダから自動運転レベル3の次世代車発表 ーメルセデスは時速95km実現、車内で多彩な活動が可能にー
6月25日(現地時間)、BMWは、同社の7シリーズがドイツ政府から世界初のレベル2・レベル3の自動運転機能の認証を同時取得したと発表した※注1。ただし、このリリースの読み方には注意が必要で、レベル3の機能を搭載した市販の乗用車という意味では、大手自動車OEMで3社目である。そこで今回は、乗用車・マイカーの自動運転の開発状況を振り返ってみたい。
<自動運転レベル3の能力>
自動運転には1~5の技術レベルがある。レベル1・2は、あくまでも人間の運転をサポートする安全運転支援機能という扱いで、既に手動運転の自動車に広く普及している「アダプティブクルーズコントロール」や「レーンキープアシスト」などのADASが該当する※注2。
システムが運転を担う「自動運転車」と呼べるのは、レベル3以上の自動車である。上述の安全運転支援機能の進化系として、大手自動車OEMを中心に乗用車で開発が先行してきたレベル3は、ODD(運行設計領域/自動運転機能を利用できる道路の種別、速度、天候など)の範囲内では、システムがあらゆる運転行為を担うが、この条件からはずれる場面ではアラートを発して、人間のドライバーへ運転を引き継ぐよう要請する。したがって、人間のドライバーはいつでも運転行為に戻れる状態で座っている必要がある。自動運転中は、ドライバーも運転行為から解放され、車内で映画を見たり、スマホを操作したりすることが可能になるが、眠ったり、飲酒したりすることは認められない。
当初、世界初のレベル3搭載車になるかと見込まれたAudi「A8」がドイツで発売に至らず、世界初の量産車としては2021年3月、日本でホンダのレジェンドが発売された※注3。次いで、メルセデスが2022年5月にドイツで※注4、さらに2023年下期に米国ネバダ州とカリフォルニア州で販売を開始した※注5。メルセデスでは、SクラスとEQSに追加可能なオプション機能「Drive Pilot」として販売されている。そして、2024年3月、BMWが7シリーズのオプション機能としてドイツで「BMW Personal Pilot L3」の販売を開始した※注6。BMWでは、本体価格に追加で6,000ユーロ(約100万円)となっている。
<レベル3のODD/当面は、高速道路限定>
各社が販売するレベル3機能は、いずれも「高速道路の渋滞時に、同一車線上を時速60km(米国では時速40マイル)以下で走行する場合」に限定して利用できる。
なぜ、各社から同様の自動運転機能が発売されたのか。それは、自動車の安全性能を均質化すべく、国際協調が行われているからである。従前の手動運転の自動車に関する議論の延長で、レベル3の機能についても国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で協議され、ここで合意された内容を各国が自国の法律に反映させる。日本では、2020年4月の道路運送車両法および保安基準の改正がそれである。結果、レベル3の自動車を審査し、型式指定をして、市場投入することが可能となった。
その後、WP29でのレベル3に関する議論はさらに進み、乗用車以外のバスやトラックへの対象車種拡大や、最高速度の時速130kmまでの引き上げ、乗用車では車線変更の解禁が合意された。この新条件に該当する自動車の販売情報は今のところ無いが、いずれにせよ、レベル3の自動運転機能のODDは、当面のあいだ、高速道路限定ということである。
<乗用車・マイカーの自動運転普及に向けた課題>
ドライバーを運転から解放してくれる乗用車・マイカーの自動運転だが、普及に向けた課題はなんであろうか。1点目は、コストと機能の魅力のバランスであろう。手動運転の車に搭載されるADASも進化する中、敢えて限定的な機能のレベル3を追加購入するかという点である。
2点目として重要なのは、適切なメンテナンスの難しさであろう。例えば、自動車を使う人には、道路交通法上の義務として運行前点検がある。しかし、ミラーの角度と同じように、センサーの角度の適切性を一般ユーザーが判断することは困難であろう。
この点で、ホンダのレジェンドは、ユーザーへの売り切りではなく、3年リースプラン限定で販売された。ホンダ側が自動車の所有権を手放しておらず、日々のメンテナンスについても、指定の整備拠点に入庫させるようになっていた。中古車市場への流出も無いため、不適切な整備や改造が行われた車両が2次市場に出回ることも無い。
また、リースでの販売はコスト面の障壁を解消することにも繋がる。多数のセンサー等を搭載し高額になる自動運転車を手頃な支払い金額で手元に置くことができるというメリットもあろう。マイカーに限らず、レベル4で開発が進むバスやトラックといった商用車でも、ユーザーの値ごろ感、日々のメンテナンスの難しさを踏まえると、一括やローンでの売り切りよりもリースのほうがフィットする可能性がある。
メルセデスとBMWは、個人への売り切りを行うが、自動運転機能のオプションを追加する場合には、自社のコネクテッドサービスへの契約を必須としている。これはOTA(無線通信)によってプログラムを更新することで、自動運転システムを常に最新の安全な状態に保つ狙いがあると考えられる。さらに、BMW Personal Pilot L3では、有効期間2年と明示されている※注6。
技術革新の進む自動運転領域において、最先端の機能をいかに安全に市場に届けるか、各OEMの黎明期への配慮が滲む。
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※注1 BMW “Auf dem Weg zum autonomen Fahren: BMW erhält als erster Automobilhersteller die Zulassung für die Kombination von Level 2 und Level 3”, 2024年6月25日
※注2 ちなみに、Teslaのオートパイロット機能も、レベル2(人間の運転をサポートする安全運転支援機能)である。
※注3 HONDA “自動運転レベル3「レジェンド」発売。Hondaが自動運転技術で目指す「事故ゼロ社会」とその先にある「自由な移動の喜び」とは”, 2021年3月4日。なお、現在は販売を終了している。
※注4 Mercedes-Benz “As world’s first automotive company -Certification for SAE Level 3 system for U.S. market.”, 2023年1月26日
※注5 Mercedes-Benz USA “Automated driving revolution: Mercedes-Benz announces U.S. availability of DRIVE PILOT – the world’s first certified SAE Level 3 system for the U.S. market”, 2023年9月27日
※注6 BMW “Level 3 highly automated driving available in the new BMW 7 Series from next spring.”, 2023年11月10日