改正物流効率化法による規制強化の具体的議論始まる
~物流の2024年問題解決に向けた荷主・運送事業者規制~

主任研究員 水上 義宣

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2024年6月28日、国土交通省、経済産業省及び農林水産省は合同会議1(以下「合同会議」)を開催し、2024年5月15日に公布された改正物流効率化法による荷主、運送事業者等に関する規制強化の具体的な検討を開始した。

改正物流効率化法は、長時間労働や低賃金等の原因によりトラック運転手が不足している現状に対し、荷主や運送事業者に規制的措置を導入することで、トラック運転手の拘束時間短縮と賃上げ原資確保ができるようにすることを目的としている。合同会議では、規制的措置の具体的適用範囲等の枠組みについて議論される。今後3回の開催が予定されており、2024年10月頃にとりまとめ案の公表が行われ、その後パブリックコメント等を経て2025年初に政令として公布される見込みである。

トラック運転手の長時間労働の要因の一つに、トラックへの積み降ろし場所が空いていない等により積み降ろしまで待たされる荷待ち時間の存在2がある。また、多頻度少量輸送によりトラックの積載率が40%程度3になっていることもトラック不足の原因の一つとなっている。これら荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上は運送事業者の努力だけでは改善が難しい。そこで、改正物流効率化法では特に貨物取扱量の多い荷主等を「特定事業者(特定荷主及び特定連鎖化事業者)」に指定して、①役員級の物流統括管理者(CLO)を選任し、②物流効率化に向けた中長期計画を策定し、③定期報告を行うよう義務付けている。合同会議ではこの「特定事業者」の指定基準や指定後の取組みに対する国の判断基準等を議論する。今回の合同会議の資料では、「特定事業者」については「取扱貨物量が多い順に日本全体の貨物量の半分程度」を指定基準とする案が示された。

また、トラック運送事業者についても、同様に貨物取扱量の多い事業者を「特定貨物自動車運送事業者」に指定し、①物流効率化に向けた中長期計画を策定し、②定期報告を行うよう義務付けている。トラックの「特定貨物自動車運送事業者」については、「保有車両数の多い順に日本全体の貨物量の半分程度」を指定対象とする案が示された。

なお、トラック運送事業者については、多重下請け構造の結果、実際に運送している事業者が十分な運賃を収受できていないことから、改正貨物自動車運送事業法により、貨物自動車利用運送を行う重量が多い順に、日本全体の貨物自動車利用運送の重量の半分程度となる事業者を「特別貨物自動車運送事業者」に指定し、①運送利用管理規程の策定と②運送利用管理者の選任を義務付け、多重下請けの是正に取り組ませることとなっている。

≪図表1≫改正物流効率化法等における特定事業者の義務

以上の案で対象となる特定事業者の目安を物流センサス及び自動車関係統計データから推定する。

物流センサスでは製造業と卸売業にわけて、従業員規模別の貨物出荷量が集計されている。これをもとに推計4すると日本全体の貨物量に占める割合は、製造業では100人以上の事業所で52.6%、卸売業では50人以上の事業所で55.0%となる。事業所数では製造業の7.8%、卸売業の6%となる。《図表2》

また、トラック運送事業者について保有車両規模別の事業者数等から推計5すると、車両数51両以上の事業者の保有する総車両数が日本全体の48.1%となり、事業者数では7.6%となる。《図表3》

以上より、改正物流効率化法による規制強化の中核となる特定事業者等に指定されるのは、各業種の上位1割弱の事業者になるのではないかと考えられる。

≪図表2≫事業所規模別の貨物出荷トン数の推計
≪図表3≫車両数規模別の運送事業者総保有車両数の推計

荷待ち・荷役時間の削減、共同輸配送やその為の運送データや荷姿の標準化といった物流効率化の取組みは、運送事業者と荷物を出す発荷主、荷物を受取る着荷主、倉庫等の物流施設管理者の四者が協働してはじめて実現することができる。合同会議では、特定事業者の指定基準の他、国が特定事業者の取組状況を評価する判断基準や、特定事業者が選任する物流統括管理者の役割、中長期計画や定期報告の方法等、改正物流効率化法の細部が様々な角度から議論される予定となっており、今後の論点整理やとりまとめが注目される。

  • 国土交通省 交通政策審議会 交通体系分科会 物流部会、経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 流通小委員会 及び 農林水産省 食料・農業・農村政策審議会 食料産業部会 物流小委員会 合同会議
  • 詳しくは、SOMPOインスティチュート・プラス(2023年6月30日)「物流の2024年問題と荷待ち・荷役時間」を参照
  • 国土交通省「自動車輸送統計年報」より、輸送トンキロ÷能力トンキロで算出。2022年度営業用普通車の積載率は40.1%
  • 第11回全国貨物純流動調査(物流センサス)(2021年調査)の「製造業の業種・従業者規模階層別1事業所当たり年間出荷量の推移」及び「卸売業の業種・従業者規模階層別従業者1人当たり年間出荷量の推移」に示されている1事業所当たり出荷トン数に、「報告書」p.26に示されている規模別事業所の母集団数を掛けて製造業・卸売業の従業員数規模別の出荷トン数の推計とした
  • 国土交通省「貨物自動車運送事業者数(規模別)」の10両未満の事業所は7両、11~20両の事業所は15両、21~30両の事業所は25両、31~50両の事業所は40両、51~100両の事業所は75両、101~200両の事業所は150両、201~500両の事業所は350両を保有するものとして特積事業者数と一般事業者数の合計を掛け合わせて推計し、501両以上の事業者は国土交通省「 貨物自動車運送事業 車両数(運輸局・支局別)」の特積及び一般の車両数から500両以下の事業者の推計を引いた数値を保有車両数の推計とした
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