こども性暴力防止法(日本版DBS)の成立と今後の見通し

副主任研究員 北山 智子

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子どもと接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを雇用主が確認する、「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法1」が2024年6月19日参院本会議で可決され、成立した。

本法はイギリスの「DBS制度(前歴開示および前歴者就業制限機構)」を参考にしており、子どもの性被害が後を絶たない中、教育や保育現場での性被害を防止することを目的としている。

こども性暴力防止法の施行により、学校や幼稚園、認可保育所等の事業者には就労希望者の性犯罪歴の確認が義務付けられることとなる。就労希望者本人は、こども家庭庁への申請にあたって戸籍情報を提出する。対象者に性犯罪歴がない場合は「犯罪事実確認書」が事業者に交付される。性犯罪歴が確認された場合はこども家庭庁から本人に事前通知され、2週間以内に本人が内定を辞退した場合は事業者に犯罪歴は通知されない≪図表≫。

民間の学習塾や学童保育、スイミングクラブなどの事業者は任意の認定制度の対象となる。一定の要件を満たせば国の認定を受けて制度に参加することができ、学校などと同様に性犯罪歴確認の義務を負う。本制度に参加することで事業者は、広告等で制度対象事業者だと示すことができるため、利用者の信頼獲得につながる。大手学習塾の多くが認定制度への参加を前向きに検討している2

こども性暴力防止法で確認対象となる性犯罪歴は、不同意性交罪や児童ポルノ禁止法違反などの「特定性犯罪」で、痴漢や盗撮などの条例違反も含まれる。一方、下着の窃盗やストーカー規制法違反などは含まれず、また、被害者との示談が成立して不起訴処分となった場合も対象外となる。

実効性のある法律にするためには、さらに議論を深める必要がある。国会でのこども性暴力防止法案可決時に、「特定性犯罪」の範囲に下着窃盗やストーカー行為なども含めることや、性犯罪歴の確認対象外となっているベビーシッターや家庭教師などの個人事業主を含めることなどについて、政府に検討を求める付帯決議が付されている。

こども性暴力防止法は公布後2年半以内に施行される。施行により、子どもと接する仕事に就いている現職者も性犯罪歴照会の対象となる。そこで性犯罪歴が確認された場合、事業者は直接子どもと関わらない業務への配置転換などの対策を講じなければならず、解雇も許容される。学校や幼稚園、保育所などで現在働く職員は約230万人にのぼり3、これらの職員の性犯罪歴の確認について、厳密な個人情報管理方法の検討やこども家庭庁にかかる費用の確保も課題となる。

また、こども家庭庁は法の施行までに、運用の詳細を定めた政令やガイドラインを策定するなどの環境整備を進める。性犯罪歴が確認された職員や採用予定者に対して、事業者が人権を侵害することがないようにどう対応すべきかを含めてガイドラインで示す必要がある。

性犯罪で検挙された者のうち、約9割に性犯罪の前科がない4ことから、子どもを性被害から守るためには性犯罪歴の照会制度だけでは不十分である。こども性暴力防止法では、事業者に職場での研修や被害の早期把握、相談体制の整備、被害が疑われる場合等の調査も義務付ける。加えて事業者には、事業所内への防犯カメラの設置や子どもと職員が2人きりになる空間を作らない、などといった具体的な対策の強化が求められる。

  • 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律
  • 読売新聞「性犯罪歴を確認する「日本版DBS」、大手塾32社が参加前向き…50社に読売新聞がアンケート」(2024年6月25日)
  • 産経新聞「性犯罪歴確認の「日本版DBS」、ストーカーは対象外 こども政策担当相指摘」(2024年5月14日)
  • こども家庭庁「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議報告書」(2023年)
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