自治体運営では全国初となるバスの新サービス導入でオーバーツーリズム解消なるか~京都市が「観光特急バス」の運行開始(2024年6月1日)~
京都市は、停留所をターミナル駅である京都駅と清水寺、祇園、銀閣寺などの主要観光地に絞る「観光特急バス」の運行を開始した。住民の通勤・通学利用が少ない土曜日、日曜日・祝日に運行され、利用者の多い午前中の運行間隔は約7~8分となっている。市バスにおける観光客と住民のすみ分けが期待される。
全国では観光客の公共交通機関の利用増加で住民が利用できないという苦情が目立つ。そのため、国は2023年10月に打ち出した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を打ち出し、それを受けて国土交通省は運賃の柔軟化を図るべく、原則認可制のバス運賃について、観光スポットに直行・急行する路線バス運賃を届出制とする法改正を実施した。
今回の観光特急バスの運賃は大人500円で、通常の路線バス(230円)の約2倍である。現金やICカードに加え、観光客の利用が多い「地下鉄・バス1日券」(大人1,100円)でも乗車することができる。ただし、住民の利用が多い定期券等は利用できない。この他にも、観光客の利用がほとんどとなっている「バス一日券」(大人700円)が2024年3月に廃止され、上記の「地下鉄・バス一日券」に統一された。これにより、混んでいる市バスから市バスより空いている地下鉄利用へ観光客が分散することが期待される。
このように、現状のドライバー不足等により輸送力が限られる中で営業曜日を限定したり、複数の交通手段・チケット・料金を用意したり、運行本数を多くしてかつ予約なしで乗車可能とすることで観光客の利便性を高めるなど、様々な工夫が施されている。公共交通機関におけるオーバーツーリズム解消に向け、一定の効果が期待されよう。
一方で、乗客の持ち込む大型の手荷物が乗車スペースを取ってしまい、バスの車内が混雑して利用者の乗降が困難になることは今後の課題だ。京都市では「手ぶら観光」推進の一環として、大型荷物を持った観光客を宿泊先まで送迎する実証実験を今後行う予定だが、さらなる効果が注目される。
また、海外の事例から、このような対策と並行し、抜本的に公共交通の在り方を議論することも肝要だ。例えば、バスの運行がスムーズになるよう、交通渋滞を引き起こしがちな自家用車利用を削減し、公共交通に移行させる取組みが考えられる。このような取組みは、欧州で先行して進んでいる。スイスでは「タクトファープラン」という、電車やトラム(路面電車)が所定の時刻に一定間隔で到着し、その到着時間の数分後にバスや船舶が出発するといった、公共交通全体が一つのネットワークとして統合されている仕組みがある。様々な公共交通が連携することでその利便性を高め、さらに運行密度(頻度)を上げることで、一つの結節点に人を溜めることなく、円滑な移動を可能にする仕組みといえる。このような公共交通の利便性の高さは、公共交通を利用することのインセンティブとなっている。さらに、駅にはパークアンドライド施設を併設し、自家用車から公共交通への移行が推進されている。スイス最大の都市であるチューリッヒ市で、住民の自動車保有率が約50%にとどまっているのも、公共交通の利便性の高さの証左といえる。
オーバーツーリズム対策として公共交通対策を検討する場合には、公共交通の利便性向上も含めた観点も求められるのではないだろうか。