自動運転バスは大都市圏のベッドタウンの救世主か~複数の交通会社による初の実証実験(2024年5月28日から6月3日まで)~
京急グループの京急バスと、東急グループの東急バス、東急の3社は、共同で自動運転バスに係る実証実験を実施した。路線バスでは、運転手不足や利用者の減少等により各地で減便・廃線が続いており、それに対し新技術での解決が期待されている。
今回の特徴の一つは、企業間の垣根を越えて実施する点である。京急バス、東急バス両社も、高齢化が進む地域にバス路線網を有しており、抱える課題は類似している。そのため、両社が協力し、実証実験で得たノウハウを共有することで、より広範囲の社会課題への解決につなげることが企図されている。
今回の実証実験は、京急バスは横浜市金沢区にある能見台地域エリアで1周約3.2kmのルートを1時間に1本運行する。一方、東急バスは川崎市麻生区虹が丘エリアで1周約1.9kmのルートを1時間に2本運行する。両社とも、自動運転のレベルは状況に応じて運転手が介入する「レベル2」での運転で、車体に取り付けた11個のカメラにより京急本社内にある遠隔監視室から2車両の運行が同時に管理される。
さらに、今回の実証実験では、その実験を行う2つのエリアから、自動運転に係る技術的な課題抽出以外の目的も見て取ることができる。2つのエリアはともに、1970年代以降に開発が進められたベッドタウンであり、現在では地域住民の高齢化、人口減少が進んでいるため、生活必需品等の販売店や鉄道駅とのアクセスを確保が地域の大きな課題となりつつある。つまり人口減少が進む地域では、地域の活力と交通が密接に関係しているといえる。
特に東急は地域を活性化するため、この虹が丘エリアを含む多摩田園都市エリアで、職・住・遊・学が近接した「Walkable Neighborhood」の創出を推進し、生活者起点での自由で豊かな生活の実現を目指している。この活動推進として実施されるイベントと、イベント会場に自動運転バスの乗降ポイントを設置することで、自動運転の実証実験を連動させている。今回の実証実験はエリア全体のにぎわいを創出するとともに、生活に必要な回遊性を創出する中で自動運転の可能性も探ることができる取り組みといえよう。
バス事業の収益構造は、赤字路線を黒字路線や高速バスなどの収益事業や行政からの補助金などで補填するケースが多い。その中で、今回の実証実験にみられるように、自動運転に係る技術的な仕様や課題は業界共通であり、企業間連携による規模の効率化が働きやすい。また、自動運転を活用し、どのように収益化につなげていくかは、その地域をどのように発展させ地域の交通網を利用する住民を増やしていくのか、つまり「まちづくりをどのように行っていくのか」という観点が重要である。単なる技術上の実証実験ではなく、複数企業が連携し、まちづくりとの連動が企図されている本実証実験の今後の展開は着目すべきであろう。