新しいトラックの標準的な運賃
~6/1施行運賃と賃金水準~

主任研究員 水上 義宣

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2024年6月1日から新しいトラックの標準的な運賃が施行となり、見直し前の運賃と比べて約8%の値上げとなった。

トラック運転手は全産業平均と比べ、年間労働時間が15%長く、年収が10%低い1ため、有効求人倍率が全産業平均の2倍前後で推移2し、慢性的に人手不足となっている。

長時間労働の是正は2024年4月1日からトラック運転手の拘束時間規制が厳しくなり、年間の上限が3,516時間から最大3,400時間に短縮された。運転手の働ける時間が短くなることから、輸送力がひっ迫すると考えられ、これが「物流の2024年問題」と呼ばれている。

一方、賃金について、一般にトラック事業者の荷主に対する交渉力が弱いこと等からトラック運賃が低迷していることが一つの原因と考えられており、これを是正することを目的に、適正な原価を反映した運賃水準を「標準的な運賃」として国土交通大臣が告示している。

標準的な運賃は、2018年の働き方改革関連法成立時にあわせて議員立法により制度化され、2020年4月24日に2019年10月の物価等を基準に算出した標準的な運賃が告示された。しかし、その後の物価変動やウクライナ情勢等による燃料費の高騰等から実態と乖離していると考えられ、2023年度に見直しに向けた議論が進められた。この結果できたのが、今回施行された運賃である。

今回の運賃は2023年9月の物価等を基準として算出されており、見直し前の運賃との算出基準の差は《図表1》のとおりである。

見直し内容としては、燃料費が100円/Lから120円/Lに値上げされたことをはじめ、物価の高騰を背景に物件費については大きく上昇している。一方で、人件費の基準となる賃金については、2,340円/時から2,336円/時へ減少している。これは標準的な運賃を算出する際に使われる賃金が、算出前年度の賃金構造基本統計調査に依っているためで、見直し前の人件費は2018年6月の全産業平均の水準、見直し後の人件費は2022年6月の全産業平均の水準となっている。

実際の賃金動向は《図表2》のとおりで、2024年3月に発表された2023年度全産業平均賃金は、2,374円/時と新しい標準的な運賃の水準を既に上回っている。また、新型コロナウイルス感染症が流行する直前の2019年度には2,418円/時を記録しており、この水準へ上昇する可能性は十分にあると考えられる。

さらに、道路貨物運送業の賃金水準は、2018年度1,737円/時から2023年度1,836円/時まで上昇しているものの、標準的な運賃が目標としている全産業平均と比べると約23%低い。

以上を踏まえ、道路貨物運送業の賃金が2019年度全産業平均並みの2,418円/時となるならば、トラック運賃は見直し後の標準的な運賃からさらに1.6%程度の加算3が必要であると考えられる。また、現在の道路貨物運送業の水準からであると運賃換算で14.6%の値上げ4となる。

2024年度が始まり2か月が経過しているが、働き方改革による拘束時間規制の影響は、年間規制があるため年度末になるほど顕在化してくると考えられる。また、2024年4月26日に荷主や元請運送事業者等のトラック運送を発注する側に対して規制的措置を導入する等を内容とした物流関連法の改正が成立しており、2025年5月15日までに施行されることとなっている。

今後もトラック運賃の上昇、荷主等に対する規制の強化が進むと考えられ、荷待ち・荷役時間の削減、共同輸配送等の、物流の効率化に向けた取組みが一層重要となる。

《図表1》標準的な運賃の算出基準
《図表2》時給換算した所定内賃金(賞与を含む)の推移
  • 2023年度賃金構造基本統計調査
  • 厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」
  • 全日本トラック協会「経営分析報告書 令和4年度決算版」によると、一般貨物自動車運送事業の人件費率は46%(直接37.4%、間接8.6%)であるので、賃金の上昇率に人件費率を掛けて{(2,418円/時÷2,336円/時)-1}×46%≒1.6%とした。
  • 上記3同様{(2,418円/時÷1,836円/時)-1}×46%≒14.6%とした。
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