公共政策・経済・金融
過去のメディア掲載情報や、研究会の内容を掲載しています。
海外市場調査
米国損害保険市場の最新動向、欧州損害保険市場の最新動向などについて定期的に調査を行っています。調査結果はレポートにまとめ、SOMPO Institute Plus Reportでも紹介しています。
研究会
金融・保険の融合に関する研究会
欧米における金融(銀行業・証券業)と保険の融合について、研究者及び実務者を中心に検討する研究会です。現地調査による事例に基づいて議論することで、金融と保険の融合の実態がどうなっているのか、どのような流れになっているのか等について明らかにすることを狙いとしています。
研究会について
研究報告書
当研究所では、「金融・保険の融合に関する研究会」での議論を踏まえて、「金融と保険の融合の進展―金融コングロマリットとART(代替的リスク移転)に関する調査研究報告書―(PDF)」(2008年12月)を刊行しました。
研究会の目的
近年、金融サービス業における銀行、証券、保険という業態の垣根が低下し、金融コングロマリットの出現に代表されるように、金融業態の融合化が進展してきている。金融コングロマリットについては、規模の経済や範囲の経済等に対する期待がある反面、リスクの集中といったマイナスの側面を重視する見方もある。
金融と保険に関しても融合化が進展している。銀行による保険商品の販売(バンカシュアランス)が進んでいる国もある等、金融業態を越えたプロダクツとディストリビューションの組み換えが進行している。また、ART(Alternative Risk Transfer:代替的リスク移転)の発展にみられるように、保険会社が対象とするリスクは伝統的な保険リスクから金融リスクにまで広がるとともに、従来はもっぱら保険の対象とされていたリスクも金融・資本市場でのリスク分散が可能となってきた。
主要先進国における上記のような金融と保険の融合の動きがどのような意味合いを持つのかは、検討に値する課題である。本研究会は、理論的アプローチよりも現地調査による実例に基づき議論を行い、金融サービス業におけるビジネス・モデルの新たな発展について検討することとした。さらに進んで、金融と保険の融合が、金融システムに与える影響、規制・会計制度に与える影響等も検討の対象に含める。
メンバー(敬称略、50音順、肩書きは当時)
岡田太 | 日本大学商学部准教授 |
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刈屋武昭 | 明治大学ビジネススクール教授、グローバル・ビジネス研究科長
京都大学経済研究所客員教授 |
川北英隆 | 京都大学大学院経営管理研究部教授 |
杉崎重光 | 前損保ジャパン総合研究所理事長 <座長> |
田谷禎三 | 大和総研特別理事、立教大学特任教授 |
永田貴洋 | 格付投資情報センター調査本部調査部チーフアナリスト |
藤井眞理子 | 東京大学先端科学技術研究センター教授 |
安田行宏 | 東京経済大学経営学部准教授 |
柳瀬典由 | 東京経済大学経営学部准教授 |
米山高生 | 一橋大学大学院商学研究科教授 |
事務局
小林篤 | 損保ジャパン総合研究所代表取締役専務 |
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石川秀洋 | 損保ジャパン総合研究所常務取締役 |
砂川知秀 | 損保ジャパン総合研究所取締役 |
牛窪賢一 | 損保ジャパン総合研究所主任研究員 |
岡﨑康雄 | 損保ジャパン総合研究所主任研究員 |
久司敏史 | 損保ジャパン総合研究所主任研究員 |
会合議事要旨
寄稿記事・論文
読売新聞 (2019年10月23日付 経済面)
「WATCHERS 専門家の経済講座」のコーナーに、 廣岡副主任研究員への取材記事「デジタル連携 金融界も変革の時」が掲載されました。
日経ESG 2020年5月号
「ESG債 世銀「パンデミック債」の誤算 渦中の先進国は想定外」のコーナーに、大沢主任研究員への取材コメントが掲載されました。
Web版記事: https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/news/00073/?P=1
日経ヴェリタス(全4回:2020年7月26日、8月2日、8月9日、8月16日 発行)
菊武副主任研究員による連載記事「中央銀行デジタル通貨入門」が掲載されました。
以下のPDFにて閲覧できます。日本経済新聞社の許諾を得て記事を掲載いたします。
記事一覧
産経新聞 (2020年11月19日付)
「【経済#アナトミア(解剖学)】デジタル通貨 日銀が発行する日は」のコーナーに、菊武副主任研究員への取材コメントが掲載されました。
日経ヴェリタス(全3回:2021年9月19日、9月26日、10月3日 発行)
菊武主任研究員による連載記事「コロナ禍で広がるナウキャスティング」が掲載されました。
以下のPDFにて閲覧できます。日本経済新聞社の許諾を得て記事を掲載いたします。
日本統計学会第16回日本統計学会春季集会(2022年3月5日開催)
掲題において、菊武主任研究員がプレゼンテーター及びパネラーとして登壇しました。
「デジタルエコノミーと税制研究会」(2022年1月26日開催、座長:森信茂樹・東京財団政策研究所研究主幹)
掲題において、野田上席研究員が講演を行いました。
記事一覧
金融・保険の融合に関する研究会 第8回会合議事要旨
日時:2007年7月25日 10:00~12:00
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告
- 「ARTの事例研究」に関する論点整理
- 報告書の骨格について(損保ジャパン総合研究所)
1、本会合の位置付け
- 今回の報告・討議内容は2つ。1つは、2006年10月から3回に分けて検討してきたARTの事例研究に関する論点整理について。もう1つは、2005年8月から検討してきた、研究会全体に関する報告書の骨格について。後者には、金融コングロマリットの事例研究とARTの事例研究の両方が含まれる。
2、「ARTの事例研究」に関する論点整理
- 今回の報告では、ARTの中でも、企業が最も広範に利用しているキャプティブ(企業によるリスクの一部自己保有)、保険会社等による利用が急拡大している保険リンク証券(保険リスクの資本市場への移転)の2つのポイントを中心に論点を絞り込んだ。調査対象地域は、基本的に米国。
- 企業によるキャプティブを利用したリスクの自己保有自体は、金融・保険の融合化現象とは言えないが、企業のリスク移転について検討する上で特に重要と考えられるため、今回は取り上げた。大企業の多くは、伝統的保険とキャプティブの両方を利用しており、リスクの一部を自己保有しこれを上回るリスクを保険会社、再保険会社に移転しているのが一般的。
- 一部の保険会社・再保険会社は、保険リンク証券を発行し、資本市場へ保険リスクを移転している。保険リンク証券の発行は、伝統的に保険市場で取引されてきた保険リスクが資本市場で取引されるという意味で、金融と保険の融合化を表す現象と考えられる。
- 保険リンク証券とは異なるが、類似の機能を持つサイドカーの設立による保険リスクの資本市場への移転も2005年以降拡大している。リスクの引受を行う再保険会社から見れば、資本市場からの資本(エクイティおよびデット)の調達となる。
- 保険リンク証券やサイドカーについては、近年ヘッジファンド、プライベートエクイティ等からの投資が拡大している。
- 保険リンク証券やサイドカーの市場が拡大することの投資家にとっての意味は、伝統的な投資とは相関が低い保険リスクへの投資が、様々な形で行えるようになってきたこと。保険リンク証券やサイドカーでは、一般的な保険会社の株式への投資とは異なり、特定の保険リスクを投資対象とすることができる。また、保険リンク証券ではトリガーが客観的インデックスによって明確に定められている場合、透明性が高い。サイドカーについては、引受再保険会社の専門能力を活用できるという利点がある。
- 保険リンク証券の市場が拡大するためには、購入する個々の投資家には必ずしも保険の専門的知識がないため、投資家による保険リスクの理解、市場インフラの整備等が必要だが、このような体制が整っていないこと等から、現状では投資家による購入は限定的であり、このため発行者側にとっては伝統的再保険よりも高コストになりがち。このような要因から、保険リンク証券は保険リスク移転の主流になっていないと考えられる。
3、報告書の骨格について
- 全体をイメージできるように現時点で報告書の骨格になりそうな部分を仮作成してみた。
- 研究会の目的は、金融と保険の融合について調査し、この実態はどうなっているのか、どのようなことを意味するのかを中心に検討すること。
- 検討の範囲としては、金融と保険の融合の進展を表すいくつかの現象のうち、組織面での融合と考えられる金融コングロマリット、商品面での融合と考えられるARTの2つの領域に焦点を当て、これらの事例を取り上げて検討することとした。
- アプローチ方法については、理論面からのアプローチよりも、現地調査による事例に基づく分析というアプローチを重視した。
- やや結論めいたところでは、第一の金融コングロマリットについては、保険と銀行との大規模な金融コングロマリット化が大きな流れになる要因は見出せなかった。第二のARTについては、再保険市場のキャパシティ不足時等に、再保険市場の一部を代替するリスク移転の手段の1つとして、保険リンク証券等を利用した保険リスクの資本市場への移転という現象が今後も続くということ。金融コングロマリット、ARTとも、従来的な方法と並存する状態にあり、各当事者にとっては選択肢の広がりという意味があるのではないか。
(2)自由討議
〔「ARTの事例研究」に関する論点整理について〕
- 先端的な投資銀行や一部の再保険会社等は、ファイナンスの概念を前面に出し、企業には、保有している資産を守ること以外にも重要な事項がたくさんあり、保険リスクと金融リスクを合わせた形で評価していこうとの方向性。今回の論点整理は、そのような議論と少しトーンが違う。
- 保険という概念は、コモディティ化された共通の商品を多数の者に売っていくというコンセプトに近い見方をされる場合があるが、企業は、企業ごとの特殊性を考慮した個別ソリュ―ションの提供を求めている。
- 企業にとっては、保険リスクとそれ以外のリスクとの間に明確な線引きがあるわけではなく、金融機関や保険会社には、企業が抱えているリスク全体を視野に入れたソリューションの提供が求められている。
- 今回調査対象としたサンプルに限定すれば、金融と保険の融合化はそれほど進展していないのかもしれない。しかし、企業のニーズに合ったテーラーメイド型の商品においては、金融と保険の要素を融合化する動きが少しずつ進展している。例えば、プロジェクトファイナンスの中には、様々な種類の保険リスクが含まれており、投資銀行は、保険リスクも含めていろいろな契約関係を作っている。
- キャプティブの扱いは、金融と保険の融合に関する検討というこの研究会の趣旨からすると、一歩下がった位置付けで良いのではないか。
- 今回の論点整理では、これまでの報告にあった事例研究で面白かった部分が省略されてやや抽象的になっている。事例調査を紹介し、そこから何が引き出せるかという形で整理した方が良い。
- 投資家サイドに関し、どんなプレーヤーが、どの程度のリターンを得ようとして保険リスクに投資しているのかに興味がある。そういう部分も記載すると面白い。
- 保険リスクへの投資に関しては、プロ中のプロで、リスクを積極的に取ろうとする限られた投資家しか、まだ参加していないように感じる。保険に関する専門的能力が足りないというよりも、情報の欠如のようなものが障害になっているのではないか。
- 投資家側が、商品に組み込まれている保険リスクについて、社内でうまく説明・説得できる情報を持つことができるようになれば、投資家層は広がると思う。投資家がそのような情報を持てるようにならなければ、投資家は、保険リスクは伝統的投資との相関が低いことを利用したポートフォリオ全体の中でのリスク分散の一環という位置付けで思い切って投資をする層だけに限られてしまうのではないか。
〔報告書の骨格について〕
- 現地調査から何が言えるかを中心とするこの研究会のアプローチ方法には、方法論的な限界もあるように感じる。90年代以降の金融・保険に関する概念的な変化、例えば、保険分野において、伝統的なプライシングとは異なるプライシング方法の必要性が主張されるようになってきたことや、実際の商品面の変化、例えば最低保証付き変額年金のように、大数の法則とともにオプションも使うハイブリッドな商品が出ていること等は、研究会の検討対象にはなっていないが、金融・保険の融合現象としては重要。
- 金融・保険の融合の全体について将来展望するとすれば、再保険分野や生保分野とのつながりの他、ARTの場合は先端的な事例まで含めて検討しないと結論付けるのは難しい。実施した現地調査に基づく検討であることを考えると、限定された分野での結論ということになる。
- 金融と保険とでは、それぞれの分野での経験やノウハウの蓄積に違いがあるのは確かだが、金融と保険でそれぞれに必要とされる専門能力は、それほど違わないのではないか。
- この研究会では、当初は、大きな流れとして融合化が進んでいるという仮説があった。しかし、実態を見てみると、融合化は思っていたほど進んでいなかったというのが一番大きなファクトファインディングだったのではないか
- こうすれば、金融と保険の融合化のテンポがもっと速まる等、ポジティブな面も説明した方が良いのではないか。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第7回会合議事要旨
日時:2007年4月27日 14:00~16:00
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「ARTの事例研究3 -企業(需要者)サイドの視点を中心に-」
(損保ジャパン総合研究所)
1、本会合の位置付け
- 本会合は、ART事例研究の3回目。1回目は保険サイドの視点、2回目は金融・投資家サイドの視点を中心に検討した。今回は、自社のリスクマネジメントのためにARTを利用する企業(需要者)サイドの視点を中心に検討する。
- 企業によるARTの利用事例等について、米国と欧州の現地調査に基づき報告する。ARTの中のカテゴリーとしては、多くの大企業が利用し、ART市場の中でも大きなウェートを占めているキャプティブの話が中心になる。
- 今回は、企業におけるERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)の取組み事例についても報告する。ここでの問題意識は、ERMの進展により、伝統的保険やARTに対する企業ニーズが変化する可能性があるのだろうかというものである。
2、企業サイドにおける当事者の視点 -現地調査報告(米国)-
- 米国については、コーヒーの加工、小売のStarbucks、インターネット接続のためのルーター、スイッチ等を扱うCisco Systems、インターネット取引仲介等のサービスを提供するeBay等を訪問し、これら企業のリスクマネージャーに対しインタビューを行った。この他、ERMに関する著名な研究者、リスクマネジメント専門誌の編集者等を訪問し外郭的な話も聞いた。
- 今回訪問した企業のリスクマネジメント部門は、伝統的な保険リスクのマネジメントや保険手配等を担当しており、また財務(treasury)部門の中の一部門である場合が多かった。
- ERMの取組み方については、各企業によってかなり違いが見られた。明確にはERMのフレームワークやプロセスを打ち出さず、リスク管理に関し部門間での協力を進めている事例、ERMプログラムを策定し、従業員への啓蒙を含む全社的な活動ということに重点を置いている事例、モデルを組み込んだツールを利用し、一株当たり利益への影響やリスク調整後資本収益性といった財務的な帰結を重視し、リスクの自己保有水準や移転方法の選択を検討している事例等があった。
- ARTの利用状況では、キャプティブ、インテグレーティッド・リスク・プログラムを利用しているケースが多かった。ただし、インテグレーティッド・リスク・プログラムでは、複数の保険種目を1つの証券に統合しただけで、保険リスクと金融リスクを統合したプログラムは利用されていない。
- 今後の方向性については、キャプティブで引き受けるリスクの範囲を広げる等、ARTを積極的に活用する、またリスクの自己保有水準も引き上げていくといったコメントが多かった。
3、企業サイドにおける当事者の視点 -現地調査報告(欧州)-
- 欧州については、ドイツのLufthansa航空、ベルギーの機械メーカーBekaert、スイスの化学メーカーFirmenich、フランスの食料品メーカーDanone等を訪問し、インタビューを行った。この他、リスクマネジメント関連のコンサルタントも訪問し、外郭的な話を聞いた。
- 今回訪問した欧州企業の事例では、リスクマネジメント部門は、伝統的な保険リスクのマネジメントと保険手配等を担当しており、この点は米国と同じだが、財務(treasury)部門とは独立の組織になっており、この点は米国の事例と異なっている。
- ERMの取組みに関しては、多くの企業に共通して、リスクマップ(リスクの発生可能性と影響度を縦軸横軸で評価してマッピング)の作成が行われ、重大リスクを中心に対応策等が検討されている。
- 例えば、リスクマップを作成し、全社的に重大なリスクが20洗い出されたとする。そのうち保険可能なものはせいぜい4つで、それ以外のリスクにどう対処するかが課題となり、リスク移転の可能性を広げるためにARTが試みられるといったコメントがあった。
- 今回訪問した企業は、5社すべてがキャプティブを利用していた。4社はインテグレーティッド・リスク・プログラムも利用。ただし、金融リスクと保険リスクを統合したプログラムの利用はなかった。2社がファイナイトを利用していた。
- 欧州の事例では、米国の事例に比べ、概してARTに対し保守的な態度をとっているとの印象であった。
(2)自由討議
〔企業におけるリスクマネジメントの変化について〕
- 現在、様々なコンサルティング会社が注力しているのは、Governance、Risk、Complianceを略したGRCマーケットである。企業は自社のリスクを全体として見るべきであるという方向への大きな流れがあり、企業は、リスクの全体をどういう形で最適化すべきかという視点の入り口へ入ろうとしている。その意味では、まだまだ変化の途上であるという前提で結論を出さなければならない。
- 従来の、バランスシート上の資産を中心に問題を見ていくという考え方の枠組みは変わろうとしている。企業における価値の発生源は必ずしもバランスシート上の資産だけではない。企業は、単に保険をかけてこの資産を守るだけでなく、将来のキャッシュフローや企業価値を守るということの方がより重要である。
- 欧州の一部企業の事例に見られたような、CRO(チーフ・リスク・オフィサー)を置く必要はないというような発想は、伝統的な保険を担当するリスクマネージャーたちが勢力を張っていることの表れではないか。米国では、リスク委員会等を通じ、企業が抱える全てのリスクを統合化していくという発想が主流になっている。
- 米国か欧州かという地域的な違いだけでなく、今回訪問した米国と欧州の企業が属している産業の特性の違いが、ERM取組みに対するインセンティブの差を生んでいる可能性もある。
〔企業による伝統的保険とART利用の実態について〕
- 伝統的な保険商品に対し、これに代替する自家保険やキャプティブといったARTが存在する。キャプティブ等の拡大は、企業が、保険商品提供者側がニーズに合った商品を提供できない、あるいは自分たちの方が自社のリスクやリスクの対処方法についてよく知っているから自分たちでやるという主張のようであり、伝統的保険会社に対する挑戦のように見える。
- 現在は、企業にとって、本業以外の部分はアウトソースする、例えば、自社で資産運用するよりも外部の専門家にやってもらうという考え方が主流であるのに、企業は、リスクの全てを保険会社に任せるよりも、自己資本を使ってリスクの一部を自己保有する方が資本効率が良いと考え、キャプティブを利用している。この背景には何か大きな問題があるのではないか。
- 企業のリスク全体について分析をすると、各企業には、それぞれ独特のリスクがあり、そういうものは、定型化された保険商品には、なじみにくい部分がある。このことが、今回ヒアリングした企業で、企業のニーズに合った保険商品がない、あるいはもっとARTを利用しリスクの自己保有を拡大したいといった言葉に表れているのではないか。
- 個別リスク・プライジングと、集団的ないわゆるコレクティブ・リスク・プライジングとの違いという問題があり、企業にとっては自社のリスクのバリューが、集団的リスクのプライジングと異なる部分がある。このため、自社にリスクマネジメント能力があれば、ある種のリスクについては保険でカバーするよりも、自己保有とする方が低コストで処理できる場合がある。
- 保険会社には、リスク削減の手法やリスク処理のナレッジ等に関し、一般企業に勝る得意分野があって、利は薄いかもしれないが、そこに保険会社の存在意義があるのではないか。
- 伝統的保険は、企業から見てそれなりに利用価値がある。伝統的保険は、使い勝手がわかっているから、時間をかけて調べたりせずに使え、取引費用が小さい。
- 大企業の多くは、キャプティブを利用し、リスクの一部を自己保有すると同時に、伝統的保険も利用している。企業は、リスクマネジメントの最適解を求める中で、伝統的保険商品とキャプティブ等のARTとを適宜組み合わせ、使い分けている。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第6回会合議事要旨
日時:2007年2月2日 10:00~12:00
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「ARTの事例研究2 - 金融・投資家サイドの視点を中心に - 」
(損保ジャパン総合研究所)
1、本会合の位置付け
- 本会合は、ART事例研究の2回目。前回は保険サイドの視点を中心に検討したが、今回は金融・投資家サイドの視点を中心に検討する。金融・資本市場への保険リスクの移転を主要テーマとし、投資家が保険リスクに投資する際の主要投資対象となっている保険リンク証券を中心に取り上げる。
2、保険リンク証券を中心とする市場概観
- 保険リンク証券の発行残高は、2005年で約180億ドル。近年における残高の伸び率は大きい。ARTの約9割が自家保険とキャプティブであり、保険リンク証券は、その他の1割の中に含まれ、ARTの中での規模はかなり小さい。また、金融・資本市場における証券化商品全体の規模と比較した場合も、保険リンク証券の規模は極めて小さい。
- 2001年以降、生命保険リスクを対象とする保険リンク証券の残高が、損害保険リスクを対象とする保険リンク証券の残高を上回るようになった。
- 損害保険リスクを対象とする保険リンク証券については、近年は、Cat Bond以外にも、自動車保険、取引信用保険、賠償責任保険等小口分散化したリスクも証券化対象になっている。
- 生命保険リスクを対象とする保険リンク証券では、生保会社が保有している生命保険契約から将来発生するキャッシュフローを実現化するための「エンベディッド・バリュー型」、米国の生保会社が、定期生命保険等に対してかなり高い準備金の積み立てを要求される規制に対応するための「XXX型」、死亡率の急上昇リスクを移転するための「死亡率急上昇型」等のタイプがある。
- 保険リンク証券とは異なるが、2005年頃から組成されるようになった比較的新しい手法に「サイドカー」がある。再保険会社としてのSPCを設立し、投資家から、エクイティおよびデットの資金調達を行う。このSPCが、保険契約からなるポートフォリオの一定割合、例えば50%を、再保険契約によって引き受けるスキームになっている。
3、金融・投資家サイドにおける当事者の視点 - 現地調査報告 -
- 今回は、Goldman Sachs、Lehman Brothers等の投資銀行、Moody’s Investors Service等の格付機関、PIMCO、Conning等のマネーマネージャーを訪問し、インタビューを実施した。
- 保険リスクへの投資としては、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ等からの資金流入が拡大している。ヘッジファンドはハイリスク、ハイリターン商品に投資することが多い。プライベート・エクイティは、サイドカーのエクイティ部分に投資する他、保険会社の新設、既存の保険会社の株式購入等を行う。マネーマネージャーは、BBBまたはBB+といった比較的高い格付けの保険リンク証券への投資で中心的な存在。その他の投資家として、銀行、保険会社、年金基金等が存在する。
- 保険リンク証券市場は、過去2年間、非常に大きく成長しており、市場の将来についても、大きく成長するとの肯定的な見方が中心だった。
- 保険リンク証券に投資する投資家の狙いは、大きくは、収益性が高いことと、伝統的な資本市場の値動きと相関がないまたは相関が薄いことによりリスクの分散効果が期待できることの2点。
- 投資家側から見た成長促進要因としては、ハリケーン・カトリーナ(2005年8月)以降、保険リンク証券の利回りが上昇し、伝統的投資商品との利回り格差が広がったこと、これまでデフォルトもほとんどなくパフォーマンスが良好であったこと等があげられた。生命保険リスクの証券化については、Cat Bondよりも、将来のキャッシュフローを投資家が理解しやすく、証券化になじみやすいこと等があげられた。
- 投資家側から見た成長阻害要因としては、保険リンク証券の仕組みやリスク等の理解に時間がかかることがあげられた。
- PIMCOは世界最大級の債券運用に特化したマネーマネージャーであり、Allianzの子会社。PIMCOは、保険リスクへの投資としては、債券運用ファンドの資金のごく一部を保険リンク証券に投資している。投資対象は、Cat Bond中心。
- Conningは、機関投資家向けの債券運用に特化したマネーマネージャーであり、Swiss Reの子会社。Conningは、保険リスクへの投資を専門とする専門ファンドを通じて保険リンク証券に投資している。投資対象は、生命保険リスクの保険リンク証券中心であり、XXX型、エンベディッド・バリュー型、死亡率急上昇型等の証券化商品等に投資。
(2)自由討議
〔テーマ:金融・資本市場への保険リスク移転の発展について、保険サイドと金融・投資家サイドの視点の対比を含め、事例に即して考える〕
- 現在、様々なコンサルティング会社が注力しているのは、Governance、Risk、Complianceを略したGRCマーケットである。企業は自社のリスクを全体として見るべきであるという方向への大きな流れがあり、企業は、リスクの全体をどういう形で最適化すべきかという視点の入り口へ入ろうとしている。その意味では、まだまだ変化の途上であるという前提で結論を出さなければならない。今回の訪問インタビュー先は、保険リスクへの投資に関しかなり先進的なところで、これら一部のマネーマネージャーやヘッジファンド等の他に、本気で保険リスクに投資しようとしている投資家がどの程度存在するのかということも、重要な問題の1つ。
- 投資家にとっては、保険リンク証券を市場で売ろうとしてもなかなか売れないという流動性の問題がある。この背景には、保険リスクの分析を行う専門家が少なく、また市場がそれほど大きくないため、専門家を雇ったとしてもそのコストがなかなかペイしないといった問題がある。こういった要素を考えると、保険リスクへの投資は、まだ初歩的な段階にあるといえるのではないか。
- 投資家は、これまでの自分のポートフォリオになかった新しい商品を試しに入れてみようという、その程度の状況ではないか。
- 米国でさえこのような状況であり、日本で保険リンク証券の市場がそれなりに発展していく、またはそれを買う投資家が育っていくのはかなり先になるのではないか。日本と米国とではインフラの状況もかなり異なる。
- 投資家側と発行者側との間に見方の違いがある中で、市場が発展するには、いろいろな仕組みを構想して作り上げ、ビジネスを成立させるアレンジャーの役割が大きい。日本について考える場合は、そういうアレンジャーの役割を果たす人たちがどの程度いるかという点もポイントの1つ。
- 発行者側も、保険リンク証券を、限界的な、資本市場へのリスク移転手段と位置づけており、長期安定的に取引をしていこうという意欲は少ないのではないか。
- 投資家側からの受けが良いパラメトリック型の商品にすると、発行者側にとってはベーシスリスクが残るため、保険の意味が薄れてしまう。そういう意味では、元の保険市場が消滅してしまうということはなく、保険リスク証券は、限界的に資本市場と保険市場とをつなぐ機能を担っていると考えられる。
- 投資家側と保険会社(発行者)側で、現在はかなり見方が異なるが、将来的には、マーケットフォース的なものが働き、一定のところに収れんしていくのではないか。
- 再保険会社が保険リンク証券を発行しようとすれば、投資家が要求するリスクプレミアムが高く、また様々な手数料もかかるため高コストになる。サイドカーを使って再保険のリスクを投資家とシェアするという、中間形態の動きが増えてきたのは、投資家側と保険会社側の折り合いの表れと考えられる。
- 家計や企業が抱えるそれぞれの問題に対して、1つ1つの解決策を社会的に提供できるような仕組みが必要だと思う。今の日本では、企業において特にそのような商品が不足している。企業の価値創造能力を、誰が、どのような形で守っていくかという視点が重要である。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第5回会合議事要旨
日時:2006年10月2日 17:30~19:45
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「ARTの事例研究1-保険サイドの視点を中心に-」(損保ジャパン総合研究所)
1、2006年度における研究会の進め方
- 2005年度は、資本、組織面での金融・保険の融合現象として、金融コングロマリットの事例を取り上げ、検討してきた。
- 2006年度は、商品面における金融・保険の融合に関する現象の1つとしてARTの事例を取り上げ、3回に分けて報告、議論することとしたい。今回は保険サイドの視点、2回目は金融・投資家サイドの視点、3回目は、商品の需要者である企業サイドの視点を中心に検討する予定。
2、ARTの概要
- ART(代替的リスク移転)は、従来の保険手法を代替する新たなリスクマネジメント手法の総称である。
- ARTの普及は、保険の供給不足および保険料の高騰によって促進されてきた。さらに90年代に入ると、92年のハリケーンアンドリュー、94年のノースリッジ地震等の異常災害の発生に伴い、保険リンク証券等の試みが始まった。
- ART発展の背景には、保険の買い手である企業側のリスクマネジメントが進化したという要素もある。90年代に入り、コーポレートガバナンスを強化する活動の一環として事業リスクを把握する取組みが進展した。
- ART商品を機能面から分類すると、基本的には企業がリスクを保有して、リスクのごく一部を移転するもの、リスクを資本市場に移転するものの2つに大別される。
- ARTの市場規模については、有力な米国のコンサルティング会社によれば、伝統的な保険とARTの比率でみて概ね7対3となっている。
3、バミューダにおける当事者の視点
- バミューダは世界最大のキャプティブドミサイルであり、このキャプティブの多くは米国企業により設立されたものである。
- 今回は、バミューダで活動している保険会社ACE、XL Capital、保険ブローカーAON、Beecher & Carlsonの他、バミューダ金融庁、会計事務所KPMGを訪問し、インタビューを実施した。
- 「ARTが発展した要因、条件等について、バミューダの事例に即して考える」、「一時期の期待、予想との乖離について、保険サイドの視点から考える」という2つの問題意識を中心にインタビュー内容を整理した。
- ARTがバミューダで発展した背景に関しては、当初は、地理的に米国に近いこと、税制上のメリット、柔軟な規制環境等によって、多くのキャプティブがバミューダに設立されるようになった。その後、税制上のメリットはそれほど重要な要素ではなくなったが、専門性の高い人材が集まったこと、国際再保険マーケットが存在すること等から、現在も、ARTおよび保険、再保険取引の場として多くの参加者から選ばれている。
- ARTの成長促進要因に関しては、ARTのカテゴリーごとに異なるものの、総じていえば、保険キャパシティの不足といった事情に加え、企業は、税制、規制、会計制度等の制度的な違いをうまく利用し、より有利なところを求めてARTが発展してきた側面がある。
- 成長阻害要因としては、ARTは理論的には優れているようにみえても、実行するのは非常に難しい場合が少なくないこと(具体的には、リスクが非常に複雑であり、理解が難しい、仮に理解ができるとしても時間がかかる、得られる効果に比べて高コストになりがち)、商品によっては特殊な用途に限定され、需要が大きくなりにくいこと等があげられる。
(2)自由討議
〔テーマ:ART取引が当初想定されていたほど拡大していないのはなぜか〕
- 理論的な公正価値を大きく上回る価格で取引されてきているというのが今までの実態である。これは、ARTの組成を行っているのが少数の投資銀行、再保険会社に限られており、競争環境が充分でないこと、また、組成される案件数自体が少ないことが原因である。参加者が増え、組成される案件数が増えてくれば、公正価値に近い価格での組成が可能になってくると思われる。そうすれば、ART取引の拡大が見込めるのではないか。
- 標準化が進んでいないことも取引が拡大していない要因だと考える。
- 天候デリバティブのように従来保険では取り扱ってこなかった領域の商品は成長している。伝統的な保険と、新たな商品であるARTとの競争といった観点から見た場合、同じリスクを取り扱うのであれば少なくとも現在までで見れば、伝統的な保険の方が使い勝手が良かったということなのではないか。すなわち、保険からARTへのスイッチングコストが高かったということではないだろうか。
- 歴史的に考えると、再保険市場がリスクを引き受ける能力が減退した時期に、これに代わるものとしてARTが登場してきた。その後、改めて再保険会社が体制を整備して引受能力の回復を図ってきた。このため、ARTを利用する必要性が少なくなったと捉えることもできるのではないか。保険側から見ると、わざわざ革新的な取り組みにチャレンジする必要性が薄れたという見方もできると思う。
- 長い期間、金融、保険と別の概念として捉えてきた。それぞれの市場参加者としても、未だその概念から離れられないでいるのではないか。長い期間で培われてきたリスクに対するセンス、感覚といったものが金融市場の参加者と、保険市場の参加者では異なっているのだと考えている。資本市場の参加者である投資銀行、投資家の立場からすると、リスク分析のノウハウがまだ蓄積されていないといった問題も大きいと思う。
- 投資銀行、投資家、格付機関といった資本市場の関係者の中にも金融、保険双方の専門家が共同してARTのリスク分析を行う体制を構築しているところもある。このような動きが進んでくれば、リスクに対するセンス、リスク分析能力といった問題は解消に向かうのではないだろうか。
- 税制、法制といった制度が、金融、保険を二分している点も要因ではないかと考える。
- 参加者の意識といった概念の問題、また、制度的な問題が一切解消された状態を想定した場合、それでも保険とARTで差が生ずるのだろうか。例えば、再保険取引は、時間軸の中でリスクをシェアする取引である。これに対して、資本市場はワンタイムの取引になっている。すなわち、今回有利な条件で取引できたからといって、次回も同じような条件で取引できるとは限らない。このような市場の本質的な相違から、取引コストに差が生ずるのだとすれば、やはり保険とARTの差は残り続けるのだとも考えられる。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第4回会合議事要旨
日時:2006年5月26日 17:30~19:45
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「『金融・保険の融合に関する研究会』中間報告
金融コングロマリットの事例研究に基づいて -論点の検討」(損保ジャパン総合研究所)
1、中間報告のとりまとめと主な論点について
- 前回までに取り上げた4つの金融コングロマリット事例―ING(1991年誕生)、シティグループ(1998年誕生)、ロイズTSB(2000年スコティッシュ・ウィドウズ買収)、アリアンツ(2001年ドレスナー銀行買収)―について中間報告をとりまとめる予定。
- 中間報告に盛り込む主な論点について事務局案を作成したので、本日はこれに基づく議論をお願いしたい。論点は、リテール分野に焦点を当て、また金融コングロマリットと外部との相互作用に着目して絞り込んでいる。
2、金融コングロマリット化の狙いと背景
- 4つの事例において、金融コングロマリット化の狙いで特に重要な要素は、「業態を越えるクロスセル関連」と「市場競争環境の変化―M&A関連」の2つに集約できるのではないか。
- 「業態を越えるクロスセル関連」の背景には、1980年代以降の投資信託、貯蓄性保険商品、年金市場等の拡大、預金、保障性の高い保険商品等の相対的地位低下等に伴う顧客ニーズの変化があった。
- 「市場競争環境の変化―M&A関連」の背景には、80年代後半以降における欧州市場統合の進展、競争のグローバル化という流れがあり、金融・保険業界それぞれの業態内でM&Aによる統合が活発化し、業態を越える統合もいくつか出てくるようになった。例えば、INGの場合には、欧州市場統合をにらんで国境を越えるM&Aが活発化する中で、他社からの買収を防ぎ、さらなるグローバル展開を図るためにも、規模、資本の拡大が必要と考えられ、1991年の合併による金融コングロマリット形成となった。
- 金融コングロマリット形成の背景としては、規制緩和も重要である。イギリス、ドイツでは、ロイズTSB(2000年)、アリアンツ(2001年)による買収が行なわれるかなり以前から規制上は金融コングロマリットの形成が可能だったが、ING(オランダ)とシティグループ(米国)のケースでは規制緩和により金融コングロマリット化が可能となった。
- 以上の他、経済のグローバル化、IT革新、金融技術革新等も重要な背景であることも間違いない。
- 金融コングロマリットは、概して、業態を越えたクロスセル、特に銀行店舗による保険商品の販売に注力している。このようなクロスセルを行なうだけであれば、資本結合を伴わない販売提携だけでも可能である。4つの事例では、それぞれに金融コングロマリット化を選んだ独自の理由があった。金融コングロマリット化か販売提携かの選択では、共通ブランドの活用(金融コングロマリット化の場合)等も重要な要素の1つと考えられるが、究極的には、資本効率がカギになっているのではないか。
3、金融コングロマリット化に対する外部の反応(評価)・内部の課題
- 金融コングロマリットによるクロスセル(銀行による保険商品の販売)が、顧客ニーズに応えているのかどうかについては、事例により評価が分かれている。このような違いは、販売する保険商品の性格の違い、銀行支店での売り方、顧客が銀行に対しどれほどの信頼感を持っているか、といった要素に起因していると考えられる。
- 株主・投資家は、概して、複雑でわかりにくい金融コングロマリットの将来性について肯定的な評価をしていない。
- 規制・監督当局にとっては、金融コングロマリットの形成に伴い、新たな課題が生じている。特にシステミックリスク回避の観点から、複雑化した金融コングロマリットの実態をいかに正確に評価するかというところに大きな関心がある。
- 金融コングロマリット内部の課題で特に重要な点は、複雑さの低減をいかに図るかということであり、様々な取組みが行われている。
4、保険と銀行との大規模な金融コングロマリット化は今後大きな流れになり得るか
- 金融コングロマリット化は、今後も金融機関にとって、内部環境と外部環境から導き出される選択肢の1つであることに変わりないものの、外部との相互作用(顧客ニーズ、株主・投資家、規制・監督当局等の反応)の観点から見ても、金融コングロマリット化を促すような大きなドライバーは見当たらない。したがって、当面は、保険と銀行との大規模な金融コングロマリット化は、大きな流れにはならないのではないか。
(2)自由討議
〔「金融コングロマリット化の狙いと背景」について〕
- ブランドの独占的使用、ブランドの共通化といった、ブランドの活用が金融コングロマリット化のモチベーションの一つになっていると考えている。この点についても言及してもらいたい。
- 「M&Aの活発化」を金融コングロマリット化の一因として挙げているが、金融コングロマリット化の手段としてM&Aが使われているのであり、むしろここでは、M&A活発化の背景にある、グローバル競争の激化、スピード経営が求められるようになってきた等の市場競争環境の変化について重点的に取り上げるべきではないか。
〔「金融コングロマリット化に対する外部の反応(評価)・内部の課題」について〕
- 銀行業と比較して保険事業のリターンが低いことが、シティグループの保険部門売却の要因と結論付けているが、本当にそうなのだろうか。長期的に保険事業の期待リターンが銀行業よりも低いというようなことがあれば、逆に保険会社が銀行業を買収する動きが見られるはずであるが、現実にはそのような現象は起きていない。
- 一時期、ワンストップ・ショッピングという概念がもてはやされ、いわば一種の流行のような流れの中で銀行商品と保険商品を同時に売ってみたけれど、やはり銀行商品と保険商品とは全く違うものだったという解釈もあり得ると思う。
- そもそも保険商品の中でも、個人向け商品は競合性が強く、超過リターンを得ることはできない。(銀行業から保険業へ)進出してみたものの、この分野ではリターンを得ることはできなかったということではないのか。
- 保険事業は、一般的に販売チャネルの独立性が強く、垂直統合度が低いとされている。これは、保険事業または商品の特性によるものだと考えられており、この事業の垂直統合度の相違の要因となっているものが、金融コングロマリットの成否に影響を与える一因にもなっているのではないかと思われる。
- 保険商品は、(商品によっても相違はあるが)販売過程において説得に長時間を要するものであり、これが販売チャネルの独立性を強めた一つの要因であるとされている。事例によって、銀行窓口での保険販売の成否に差が生じているのは、従来、その銀行が窓口においてどのような機能を果たしてきたか、すなわち、銀行窓口が説得に時間を割くという販売スタイルに慣れていたか、知識・経験を有していたかというところにあるのではないかと考えている。
- 金融コングロマリット化による効果としてリスク分散がある。一部で、巨大になることによりリスクが集中するという議論もあるが、基本的にはそうではない。
- 金融コングロマリットが、異なる事業分野において、同種のリスクを取ってしまうことによるリスク集中もあり得る。規制は、この点に注目している。
〔その他(論点として追加すべき点など)〕
- 規制があって分離されていたから金融コングロマリットという概念が生まれた。全く規制がない環境であれば、企業として最適なキャッシュフロー、事業ポートフォリオの組み合わせは何か、という問いの中で、銀行、保険の組み合わせはどうなのかを考える必要があると思う。金融コングロマリットという概念自体に違和感がある。
- 保険のリテール分野、特に生命保険分野に焦点を当てた内容となっている。ホールセール分野にまで視野を広げると議論が変わってくるかも知れない。リテール分野に焦点を当てた上で導き出された結論は何を意味しているのか。
- 金融コングロマリット、特にリテール分野の議論を行うためには、投資信託の発展の影響も大きいと考えられ、投資信託の位置付けについても触れてもらいたい。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第3回会合議事要旨
日時:2006年2月16日 17:30~20:00
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「金融コングロマリットの事例研究2―ING、ロイズTSB」
(損保ジャパン総合研究所)
1、報告する事例
- 本日は、金融コングロマリットの研究対象事例として、オランダのINGと英国のロイズTSBグループの2つを取り上げる。
- INGは、1991年、オランダ最大の保険会社ナショナーレ・ネーデルランデンと第3位の銀行NMBポストバンクとの合併により誕生した。
- ロイズTSBグループは、1995年にロイズ銀行とTSB銀行が合併して誕生。その後、2000年に生命保険会社スコティッシュ・ウィドゥズを買収して傘下に収めた。
2、ING
- オランダでは、1990年に、オランダ中央銀行と年金・保険監督局との合意により、同一の金融グループ内で銀行業と保険業の両方を営むことが解禁された。
- この金融コングロマリット化を認める規制緩和を受け、オランダでは買収等を通じて多くの金融コングロマリットが形成されるようになり、INGの誕生もこの一環であった。
- INGは1995年以降、欧州、米州、アジア大洋州での銀行・保険会社の買収等を通じてグローバル展開を加速し、現在では50以上の国で、銀行、保険、アセット・マネジメント等の金融サービスを提供している。
- INGは、オランダ、ベルギーで始めたバンカシュランス(銀行による保険商品販売)を世界中に広めていった。
- オランダ、ベルギーでの保険商品販売は、主に代理店の他、自社グループの銀行支店網を通じて行っている。オランダ、ベルギー以外では、代理店の他、自社グループ以外の銀行や証券会社等を通じて保険商品を販売している。
3、ロイズTSBグループ
- 英国では、以前から1つの事業グループが銀行業、保険業を兼営することについて規制上の制限は設けられてこなかった。そして、比較的古くから銀行、貯蓄金融機関による保険子会社の設立・買収の事例が見られる。また、保険会社による銀行業務の兼営、銀行による保険引受業務の兼営は認められていないものの、銀行が、保険代理店または独立した仲介業者として保険商品を販売することについては制限されていない。
- このような規制の下、現在、英国の大手銀行グループの多くは、保険子会社を傘下に有する金融コングロマリットを形成している。
- ロイズTSBグループにおいては、TSB銀行が1967年に生命保険子会社を設立、ロイズ銀行も1988年に生命保険会社アビーライフを買収して保険事業への参入を果たしている。そして、2000年に大手生命保険会社スコティッシュ・ウィドゥズを買収し、ほぼ現在のグループ体制を確立した。
- ロイズTSBグループは、ロイズTSB銀行の支店を通じて、スコティッシュ・ウィドゥズの生命保険商品のほか、傘下に有する損害保険子会社の損害保険商品を販売している。スコティッシュ・ウィドゥズは、ロイズTSB銀行の支店を通じた販売のほか、IFA(独立財務アドバイザー)を通じた販売を行っている。
4、現地訪問インタビューの整理
- 2005年12月~2006年1月にかけて、金融コングロマリットの当事者である、ING、ロイズTSBグループおよびこれら当事者の動向をウォッチする第三者である、監督機関、保険協会、投資銀行・格付機関のアナリストその他業界関係者へのインタビューを実施した。以下に、インタビュー内容の一部を列挙する。
- i 金融コングロマリット形成を促した要因
INGの事例- 「1990年に金融コングロマリットの形成を認める規制緩和が行われた」
- 「1992年末予定の欧州市場統合を控え、国境を越えるM&Aが活発化していた」
- ロイズTSBグループの事例
- 「金融・保険商品の顧客層が、富裕層から大衆まで拡大したことに伴うワンストップショッピングのニーズ増大」
- 「競合激化に伴う金融機関の再編統合および収益多様化への取組」
- ii 金融コングロマリットを形成する意図、狙い
INGの事例- 「M&Aが活発化する中で他社からの買収を防ぐために規模の拡大が必要だった」
- 「銀行と保険では商品・販売網が類似しており、インフラ共有化により効率化可能」
- ロイズTSBグループの事例
- 「銀行支店における保険商品販売拡大のためのブランド力強化」
- 「保険商品販売のための銀行支店網の確保」
- iii 顧客ニーズの充足度合い、金融コングロマリット化の成果
INGの事例- 「顧客には、ひとつの窓口で様々な金融商品を購入できるメリットがある」
- 「銀行を通じた保険商品の販売がグループの収益拡大に貢献。事業の多様化によるリスクの分散効果もみられた」
- ロイズTSBグループの事例
- 「銀行支店で販売されている保険商品は、他チャネル経由で販売されている商品と比較して価格・商品性において競争力に劣り、かつ、支店のスタッフが充分な助言機能を果たしていないことから、現時点では成功しているとは言い難い」
- 「従来から、保険商品に対する知識・経験が豊富な消費者は、独立した仲介業者であるIFAから保険商品を購入しており、この傾向に大きな変化は見られない」
- iv 金融コングロマリット化が外部に与えた影響・外部環境の変化
INGの事例- 「業態を越える規制・監督を重視。業態別に存在した監督機関、監督法も一本化」
- 「株主は、コングロマリット化を、複雑なマネジメント等を背景としてマイナスに評価(コングロマリット・ディスカウント)。ただし、近年は、事業部門再編、低採算事業売却、業績向上等とともに株主からの評価も改善傾向」
- 「監督機関、格付機関、株主、金融コングロマリットのそれぞれが、銀行、保険に共通する新たな評価基準(リスク、資本、収益性)を模索中―エコノミック・キャピタル(企業活動に伴って生じるリスクに耐え事業を継続していく上で必要な資本量)、リスク調整後資本収益性等―」
- ロイズTSBグループの事例
- 「英国では、銀行支店での保険販売は伸びていない。アドバイスを必要とする複雑な保険商品は、独立した仲介業者(IFA、ブローカー)を経由した販売シェアが大きく、一方、コモディティ化した保険商品は、ダイレクト販売のシェアが大きくなっている」
- i 金融コングロマリット形成を促した要因
(2)自由討議
〔顧客ニーズの実現状況〕
- 英国では、独立した仲介業者が、顧客の側に立って最適な商品を選択するというモデルを確立しており、自社グループの商品のみを販売するというモデルは受け入れられなかったということではないか。
- ワンストップショッピングのニーズと言っても、消費者が、どのような局面、商品に対してそれを求めているのか、はっきりしないままワンストップショッピングという用語が使われているという印象を持っている。消費者側のニーズと、それに対する供給者側の対応にギャップがあるのではないか。
- 規制緩和の流れの中で、規制のレント(規制があることにより、規制がない場合よりも利潤が多くなること)が残っている他業態への進出に魅力を感じた金融機関が、「ワンストップショッピング」をキャッチフレーズとして利用したというのが実態ではないか。他の金融機関が同様のことを行うようになれば、標準化・効率化が進み、期待していた収益効果は得られなくなるといった点を、当の金融機関がどこまで認識していたのか疑問。
- 銀行・保険会社といった組織だけ融合しても、顧客ニーズに合致した商品を提供することはできない。特に、企業向け取引に関しては、企業側が、統合リスク管理を指向しており、金融・保険といった旧来の枠を超えた商品の提供が必要になっている。
〔金融コングロマリットの経営・リスク管理〕
- コングロマリット化しても、銀行業務、保険業務といった垣根があり、経営資源の配分、知識・技術の共有化がうまく行われていないケースが多いのではないか。
- 金融機関が規制によって求められるバーゼルⅡのような資本要件と、自社のリスクをどう考えどう管理するかという話とは性格が異なるはずだが、現状では、例えば所与の資本量の下で信用リスクを調整するといったように、金融機関はバーゼルⅡ的な考え方を偏重し過ぎているのではないか。
- わが国でも、銀行と保険という異なるビジネスに関し、同一ベースの基準で評価するにはどうすれば良いのかという観点から、エコノミック・キャピタルを計測しようとの動きがあり、オランダでの動向は先進的事例のひとつとして注目している。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第2回会合議事要旨
日時:2005年10月21日 17:30~19:45
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
(1)報告「金融コングロマリットの事例研究1―シティグループ、アリアンツ」
(損保ジャパン総合研究所)
1、報告する事例
- 本日は、金融コングロマリットの研究対象事例として、米国のシティグループとドイツのアリアンツの2つを取り上げる。
- シティグループは、証券業と保険業を中心とするグループであったトラベラーズが銀行業を中心とするシティコープと合併し金融コングロマリットを形成した。しかし、その後保険業を分離したため、現在のシティグループは銀行業と証券業が中心。
- アリアンツは、保険会社アリアンツがドレスナー銀行(銀行、証券業務を行うユニバーサルバンク)を買収したことで金融コングロマリットを形成し、現在は保険・銀行・証券の3つの業態を傘下に抱えている。
2、シティグループ
- 米国では、1933年グラススティーガル法によって銀行業務と証券業務が分離され、さらに1956年には銀行持株会社法が成立し、銀行が保険引受業務を行うことは原則禁止されることとなった。
- 1980年代には、銀行業務の収益性が低下し、銀行が積極的に証券業務に進出しようとする流れの中で、1987年以降、銀行による証券業務の制限が徐々に緩和されてきた。
- こうした流れの中で、1998年にトラベラーズとシティコープが合併し、銀行持株会社法の特例(既存の非銀行業務の兼業が2年間、特例的に認められ、さらに3年間の延長も可能)という位置づけで、シティグループが誕生した。
- 1999年には金融制度改革法が制定され、金融持株会社形態による銀行、証券、保険の相互参入が可能になった。
- その後、シティグループは2002年に損害保険部門を、2005年に生命保険部門を分離した。しかし、シティグループは保険商品の販売をやめてしまったわけではない。生命保険部門の売却先であるメットライフ社との間でも、メットライフ社の保険商品をシティグループのチャネルを通じて販売する契約を締結している。
- シティグループは、それまでの自社グループの保険商品を中心とする販売戦略から、自社グループ以外の生命保険商品を販売するオープン・アーキテクチャー・モデルと呼ばれる戦略に移行することとなった。
3、アリアンツ
- ドイツでは、以前から1つの事業グループが銀行業、証券業、保険業を兼営することについて特別な許認可は不要であった。しかし、「保険・銀行の兼業禁止規制」で、保険会社本体による銀行業務の兼業は禁止されており、銀行による保険引受業務の兼業も認められていない。ただし、銀行が保険代理店またはブローカーとして保険商品を販売することについては制限されていない。
- 銀行は、1920年代から保険を含む幅広い金融商品を販売しており、子会社による保険業参入も古くから行われている歴史がある。
- アリアンツは、2001年にドレスナー銀行を買収した。アリアンツによる、ドレスナー銀行の支店を通じた保険商品の販売は近年着実に拡大している。なお、ドレスナー銀行が販売する保険商品は、基本的にアリアンツグループの保険商品のみで、自社グループ以外の保険商品は扱っていない。
4、現地訪問インタビューの整理
- 2005年8月~10月にかけ、金融コングロマリットの当事者である、シティグループ、アリアンツおよびこれら当事者の動向をウォッチする第三者である、投資銀行・格付機関のアナリスト、調査機関、保険協会等へのインタビューを実施した。以下に、インタビュー内容の一部を列挙する。
- i 金融コングロマリットを形成する意図、狙い
シティグループの事例- 「商業銀行業務と投資銀行業務の兼営」
- 「保険商品販売のための銀行支店網の確保」
- アリアンツの事例
- 「保険商品販売のための銀行支店網の確保」
- 「M&A、保険と銀行との統合によるシナジー効果等の流行」
- ii 金融コングロマリットの戦略が顧客の需要にどれだけ合致しているか
シティグループの事例- 「ワンストップショッピングは、米国の消費者にはそれほどアピールしなかった」
- 「米国では、顧客は保険商品は保険ブローカーや代理店から買うことに慣れている。代理店やブローカーは相談に乗ってくれ、顧客から信頼されている」
- アリアンツの事例
- 「ワンストップショッピングに対する需要は今後拡大していく。ワンストップショッピングの中では、銀行を通じた保険商品の販売が一番成長している分野」
- 「欧州では、文化的に顧客が銀行から保険商品を購入することが一般に受け入れられている。銀行員が様々な相談に乗ってくれ、保険商品の説明までしてくれることは顧客のニーズに合っている」
- iii これまでの成果・結果をどのように考えるか
シティグループの事例- 「生保部門を分離したのは、銀行・保険間でのクロスセルがうまくいったかどうかということよりも、生保部門の収益性が低いことが大きな問題だった」
- アリアンツの事例
- 「銀行と保険のクロスセルは総じてうまくいっている」
- i 金融コングロマリットを形成する意図、狙い
(2)自由討議
- 金融コングロマリットの成立、構造、生み出された成果といった点を評価するためには、背景にある様々な理由、側面がある。それらを切り出して分析してみる必要がある。
- 現状では、投資商品、生命保険、損害保険など既存の商品を同じ店舗で販売しているというレベルに留まっており、融合という観点からは、未だファーストステージにあると考えられるのではないか。
- 需要者サイドからはリスクの最適アローケーションという課題に、どのようなソリューションを提供してくれるか、といった点が重要になる。未だ、供給サイドである金融業界では、そのような視点が不足していると考える。
- ソフィスティケイトされた市場においては、保険商品が本来有している保障機能で充分との認識が消費者にあるのではないか。米国の場合、シティグループ以外の金融機関が、金融コングロマリット化に追随していないのは、このように市場がソフィスティケイトされているからではないか。
- 金融コングロマリット化が真の必要性に根ざしたものかどうかは疑問に思う。2つのものを合わせても、理論通りには、最適化されないということではないか。特に、金融の場合は、規制体系が厳しいので、効果を出すのは難しいのではないか。
- 金融機関がどのような形態を目指すべきか、また、それが成功するかどうかは、それまでの業界における地位、ブランド力によって、自ずと決まってくるように思われる。
- アリアンツに関していえば、2年前は評価できる段階になかった。現在では、複数の第三者が、アリアンツのクロスセルがうまくいっているという見方をしているという今回の報告を聞き、評価に関しても時系列で追っていく必要があると改めて感じた。
- 今回の報告、討議において、金融コングロマリットに関して何らかの評価を下すのは早計である。当事者である金融機関の強み・弱みといった内部要因と、環境変化、地域性といった外部要因の両面から、さらに分析していく必要がある。
以上
金融・保険の融合に関する研究会 第1回会合議事要旨
日時:2005年8月4日 17:30~19:00
場所:損保ジャパン総合研究所 会議室
1、研究会の狙いについて(損保ジャパン総合研究所)
- 先進国における最近の金融・保険業の動きをみていると、金融コングロマリットの形成、バンカシュランス等、金融と保険の接点が大きくなる動きがある。このような動きが大きな変化の潮流になるのではないか。
- 損保ジャパン日本興亜総合研究所では、昨年、IMF(国際通貨基金)の副専務理事を務めていた新理事長を迎え、この分野に関する研究プロジェクトを開始することとなった。そこでここにいらっしゃる専門家の皆さんにお願いして、このような研究会を発足するに至った。
- 元々この研究会の目標としているところは、大きな潮流を理解するということであり、基本的なビジネスモデルがどう変わっていくのか、それに併せて規制の枠組みがどう変わっていくのかといった、将来の方向性についてある程度理解を得たいというもの。
- このような研究成果を対外的に発表して、保険業界、金融業界の方々にとって参考になればと思う。さらには、海外の実務家や研究者も含めて、国際的に関心を持ってもらえるような情報発信ができればと考えている。
(2)報告「金融・保険の融合の実態について」(損保ジャパン日本興亜総合研究所)
1、金融・保険の融合についてどのような視点でみるか
- 金融の定義については様々な議論があるが、金融は銀行業と証券業を指すと仮置きしておく。
- 金融と保険は、従来は別々なものと考えられてきたが、経済・金融のグローバル化、規制緩和・自由化、金融・保険に対するニーズの変化、IT革新、金融技術革新等の変化を背景として、一部が融合化してきた。
- この研究会では、金融と保険の融合の動きを通じて、ⅰ)金融サービス業における新たなビジネスモデルの発展、ⅱ)国際金融システムの安定性への影響、ⅲ)規制、会計等の制度を改革する動き、について検討したいと考えている。
- この研究会では、理論的アプローチよりも、現地調査に基づく実務的なケーススタディから出発し、そこから何がいえるかというアプローチに重点を置いて分析する。
2、金融と保険の融合の実態
- 日米欧で状況に違いはあるものの、概していえば、金融と保険とは、規制・監督制度の面から歴史的にみて、別々のものとして発展してきた。しかし、規制緩和・自由化の進展に伴い、金融と保険の融合化が進展してきた。この融合の領域を以下では大きく3つに分けて整理する。
- 1つ目は、金融コングロマリットの形成である。金融コングロマリットについては事業者、資本の面での融合と解釈できよう。米国では、銀行業と証券業にまたがる金融コングロマリットの形成が中心で、保険の引き受けまで本格的に行なっているグループは極めて少ない。欧州では、銀行による保険子会社の設立、既存保険会社の買収、逆に保険会社による銀行の買収など、様々な形態がある。
- 2つ目は、業態を超えたプロダクツとディストリビューションの組み換えである。リテールの分野においては、銀行による保険商品の販売(バンカシュランス)、保険会社による銀行業務の展開といった動きがみられる。バンカシュランスについてみると、欧州では、ポルトガル、スペイン、ベルギー、イタリア、フランス等の国で、生命保険商品の販売に占める銀行チャネルのシェアが非常に高い。一方、米国でのバンカシュランスは欧州ほど活発ではない。
- 3つ目は、損害保険のホールセール分野を中心とする、ART(Alternative Risk Transfer:代替的リスク移転)の発展である。金融と保険の融合の観点からは、ⅰ)保険会社による、伝統的な保険リスクとは異なる金融リスク等の引き受け、ⅱ)保険会社以外の金融機関(銀行・証券会社等)による、保険リスクとほぼ同等のリスク引き受け、ⅲ)伝統的な保険リスクを資本市場の投資家に広く分散する「保険リスクの証券化」等の動きがあげられる。ARTの発展については、主にプロダクツ、商品面の変化と解釈できる。
3、金融・資本市場と保険市場
- 主要5か国(日米英独仏)における個人金融資産残高の構成比をみると、国によりかなりの差があるものの、これらをすべてならしてしまうと、ⅰ)現預金、 ⅱ)証券関連(債券、投資信託、株式・出資金)、ⅲ)保険・年金準備金のウェートがそれぞれ3分の1ずつ程度になっている。
日本では現預金、米国では証券関連、イギリスでは保険・年金準備金のウェートがそれぞれ高い。 - 金融・資本市場の規模は、銀行融資残高と債券残高、株式時価総額の合計でみて、各国とも概ねGDPに対し4~5倍程度。保険会社の総資産規模は、米国では 5兆ドル、GDP比約45%、金融・資本市場に比べ8分の1程度。日本は約2兆ドル、GDP比で40%台、金融・資本市場の規模に比べ10分の1程度。
4、保険事業のストラクチャー
- 保険会社は多数の利用者から危険を引き受け、危険を処理する業態。大数の法則により危険は分散される。大数の法則が働かない巨大危険等の場合には、再保険システムを利用し危険の分散が図られている。
- 保険事業では、逆選択とモラルハザードの問題があるため、危険選択・アンダーライティングのプロセスが非常に重要である。また、保険は買われる商品ではなく、売られる商品といわれるように、隠れた顧客ニーズを保険会社の販売チャネルを通じて顕在化させることによって初めて販売が実現するという側面があり、販売チャネルも非常に重要である。
- 再保険市場はグローバルで規制の緩やかな市場であり、時間軸を考えて保険リスクを負担しリターンを求める巨額の資本が集まっている。元々、再保険市場がグローバル資本市場との橋渡し的な役割を果たしていた。
(3)自由討議
- 事業ラインによって金融サイド、保険サイドと分けて把握しようとすると、統計データの見方がまず問題になる。実際には、投資銀行等は、パッケージ商品というか、マルチラインの商品を販売しており、このような商品の中には、保険的な機能を持つ商品もある。したがって、統計上の数字について本当はどういう意味を持っているのか十分に吟味する必要がある。
- 保険会社が提供するから保険であるとか、その事業ラインで出すから保険であるといった理解をしていると何か違うところに行ってしまう可能性があるのではないか。ある商品について、それを証券化商品と呼ぶのか、保険商品と呼ぶのか、いろいろな視点がある中で、どこの業態の商品として分類するかという問題よりも、そのような流れそのものをみようとする方が良いのではないか。
- 研究会の狙いは、欧米諸国では、融合化が進んでいるから、その中から優れたビジネスモデルを取り出したいということなのか、あるいは、日本の現状に即して、求められているビジネスモデルを提案していきたいということなのか。
- 金融・保険の融合が国際金融システムの安定性に及ぼす影響、金融・保険の融合と制度改革といった包括的なテーマではなく、もう少し焦点を絞った方が良いのではないか。
以上