【Vol.82】3.迫る自動運転レベル4時代の民事責任~EUのAI規制案に見る日本の残課題への対処法~

主任研究員 新添 麻衣

Ⅰ.はじめに

自動運転レベル4の実現が現実味を帯び、人ではなくシステムが運転する車を社会へ受け入れるための体制整備が主要国で進んでいる。本稿では、自動運転車の開発状況や規制の整備状況を概観した上で、その社会受容性を左右する民事責任の問題に着目した。

Ⅱ.自動運転の実用化に向けた動向

レベル3、レベル4それぞれの開発状況や規制の整備状況を概観する。運転者を必要とするレベル3は、その走行環境も当面は高速道路となることが見込まれ、従前の自動車の安全運転支援の延長線で開発と規制整備が進む。一方、レベル4は移動・物流サービスの商用車として幅広いユースケースが想定され、無人運転という新種の運行形態を容認するための法整備に各国が独自に取り組んでいる。

Ⅲ.自動運転車を巡る民事責任に関する整理と残課題

日本では、2025年頃までは現行の自賠責・自動車保険の枠組みが自動運転車にも適用できると整理されている。これにより、一次的な被害者救済は迅速に果たされるが、その後の保険会社による自動車メーカー等への代位求償の実務の構築は残課題となっている。自動運転車の事故の原因究明は開発者以外には難易度が高く、また、製造物責任法が自動運転車の特性に追いついていない側面もあるためである。

Ⅳ.EUにおける民事責任制度の見直し

2022年9月に欧州委員会が公表した製造物責任指令とAI民事責任指令の法案は、現代のデジタル製品の特性を踏まえた内容で、Ⅲ.の日本の残課題を解消する1つの策として今後の議論が注目される。

Ⅴ.おわりに

製造物責任法を抜本から見直し、現代化したEUの法案は、自動運転車と民事責任の残課題に一石を投じるものである。当面のあいだは現行制度で対応可能としても、レベル4の自動運転サービスへの期待と日本政府の普及目標を踏まえると、将来に向けた責任制度の在り方について議論を開始すべき時である。

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