保険・金融・デジタルテクノロジー

デジタル化に伴うサブスクリプション拡大と新たなプラットフォーマーの出現

主任研究員 廣岡 知

サブスクリプションモデルが広がってきた。従来からの概念ではあるが、デジタル化に伴うユーザー起点の考え方で注目されている。企業にとっては、モノのサービス化に伴う他業種を含めた競争優位性確保のためと捉えることができる。以下では、企業における拡大の背景、売り切りモデルとの違い、プラットフォーマー出現等の新たな動向について簡単にまとめる。

1.サブスクリプションとは?

(出典)各種資料より SOMPO未来研作成

サブスクリプションとは、モノを販売するのではなく、一定の期間を定めて、当該製品やサービスを利用する権利を提供するビジネスモデルである。一般的には「定額制」と言われているが、直近では、モノを販売してきた製造業における提供事例も目立つようになってきた(図表1)。

サブスクリプション自体は新しいビジネスモデルではなく、新聞や雑誌等の出版業界では、従来より用いられてきた。

ソフトウェア業界では、Adobeが2013年に従来型の売り切りモデルからサブスクリプションモデルに転換1し、成功を収めたことで、Cisco Systems、Microsoft等も追随した2。近年のデジタル化の潮流の中で、ユーザーの嗜好を反映せずに一律のサービスやモノ、利用のタイプ別に複数のパッケージ化されたサービスを提供する従来型のサブスクリプションから、ユーザーの利用状況に合わせた個別カスタマイズを行ったり、柔軟なアップグレード・ダウングレードを可能とする、双方向のサービス提供モデルに進化してきている3

本稿では、主に取り組み企業側における拡大の背景、売り切りモデルとの違い、プラットフォーマー出現等の新たな動向を記載する。

2.拡大する背景、売り切りモデルとの違い

サブスクリプションモデルが注目される背景として、ユーザー及び企業側双方を取り巻く環境の変化がある。ユーザーに受け入れられている理由に、①スマートフォン、②シェアリングエコノミーの普及が挙げられる。具体的には、①音楽や動画・各種サービスをいつでも利用することが可能になり、また申込等も自由にできるようになったということであり、②モノを購入したり所有したりするのではなく、割安に利用・体験するという考え方が広がってきたということである。

一方、提供サイドの企業から見ると、クラウドやアナリティクスという基盤が整ってきたことが挙げられる。経済性と利便性から、企業はクラウドの導入・利用を進めてきている。クラウドサービスは、オンラインで完結すること、また、各種アップデートや機能拡張をリアルタイムに提供できることから、サブスクリプションモデルとは相性が良かった。企業が利用するクラウドが月額制や従量課金制であることから、定額で商品やサービスを提供するという考え方ともマッチしやすい。さらにIoTによるデータの取得が容易となったことから、ユーザーの利用状況を分析し、最適な商品・サービスの提供が可能となった。企業は内外の環境変化の中で、新たな価値を生み出し、競争上の優位性確保のために取組みを開始している。

(出典)Zuora Japan資料より SOMPO未来研作成

サブスクリプションモデルは、売り切りモデル(プロダクト販売)と比べ、収益の考え方やユーザーとの関係性が異なる(図表2)。売り切りモデルの場合、収益増加のためには、製品を市場に出し、できるだけ多く売る必要があるのに対し、サブスクリプションモデルにおいては、収益増加のためにはユーザーと長期的な関係を構築する必要がある。サービスを改善・ブラッシュアップするとともに、ユーザー個々のニーズに応えることで継続的に価値を提供し続け、解約率を減らし、ユーザーを積み上げていくことが収益増加に繋がる。このため、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)4が重要であり、最大化させることが目的となる。

3.企業側の態勢変革の必要性と新たなプラットフォーマー出現

(出典)Gartner “Competitive Landscape: Cloud Subscription and Recurring Billing Management, North America”,14November,2018より訳出

上記を達成していくためには、提供企業サイドのバリューチェーン・業務プロセスを変える必要が出てくる(図表3)。従来型モデルは、申込~契約~支払までが単一であり、基幹システムでは1回限りの売上に対して販売・在庫・予算・会計等の管理を行ってきた。一方、サブスクリプションモデルでは、申込・契約後にユーザーからのアップセル・ダウンセル・解約等の手続きがあり、ユーザーへの請求・精算のマッチング等も複雑となる。顧客管理・支払いに関するAPI連携・収益予測や分析という機能も必要となり、従来の基幹システムでは対応ができない。

ユーザーと1対1の関係構築をするためには、ユーザーIDを振り、各種情報(例えば、利用したサービス内容、利用日時、利用開始・終了時間、場所、端末、検索ワード等)を紐づけて管理する必要がある。ユーザーの行動やニーズに基づき、サービスの提供・改善、価格やパッケージの柔軟な設定、マーケティング等のコミュニケーション(頻度・チャネル含む)が求められる。

また、組織態勢の変革も必要である。サブスクリプションモデルにおいては、カスタマーサクセス5という考え方に基づいて、ユーザーに寄り添い、自社のサービスにユーザーの声を反映し、期待される価値を提供していくことでロイヤルティの向上・解約率の低減・継続利用に繋げていくことが重要になる。ユーザーの要望や声を吸い上げ、営業部門・マーケティング部門・開発部門にフィードバックし、商品・サービスを改善し続ける。さらに、ユーザーの利用履歴から得られるデータを活用し、今後の機能拡充を判断する材料にしたり、ユーザーが利用する機能や頻度を共有し、どのような機能が適切かをフィードバックしたりするための態勢が必要となる。

こうした業務プロセス・組織態勢の変更に当たっては、新たなシステム導入や既存システムとの繋ぎが必要であり、企業側の抱える課題を新たな市場領域と見出し、サブスクリプションモデルを展開する企業向けにソフトウェア(SaaS:Software as a Service)を提供する企業も出現している6。Gartnerは、こうした動きはデジタル化に伴う新たな経済圏であり、ユーザーである企業の商品やサービス、システム等にカスタマイズさせる必要があるとしている7。今後、こうした市場の競争は激化するため、各業界への特化(垂直化)・データ活用(AI・IoT)等による差別化がカギとしている。

4.保険事業の観点

保険商品は一年等の一定の期間、補償を提供する商品であり、ユーザーへの継続的な価値提供という点ではサブスクリプションモデルに近いと言える。一方、ユーザーの保険の目的の利用状況や変化するニーズを踏まえた個別カスタマイズ、双方向でのコミュニケーションとまでは至っておらず、従来型のサブスクリプションモデルと言える。新たな取組みとしては、大手保険会社と比べて、InsureTech企業の取組みが進んでいる。テクノロジーを駆使し、モバイルやAPIを活用することで、保険の目的の利用状況に応じた最適な保険カバーの提供を目指す動きがある。具体的なイメージとして、①自動車保険で、自宅に駐車している時には対人対物賠償を不担保にする案内をしたり、車両保険の衝突を不担保にする案内をしたりする。②旅行保険で、空港に到着すると、加入をお勧めする。③個人用動産において、持ち出し時に補償の加入をお勧めする、といったケースが挙げられる。

5.おわりに

6月にはAppleの新たなサブスクリプションサービスの詳細が公表された。提供するサービスによって、サブスクリプションとの親和性に違いはあるものの、今後、サブスクリプション市場はますます拡大すると予測される8

提供企業側からすると、クラウド利用の拡大・IoT化・ユーザーの行動変容といった内外環境の変化によるユーザー起点のビジネスモデルへの転換と捉えられる。サブスクリプション化の流れは一過性ではなく、重要な潮流であると言え、モノのサービス化に密接に結びつく大きな流れの一つとして、今後も注目していく必要がある。

  • サブスクリプションへの移行を公表後、時価総額は約8倍に増加(2019年6月現在)
  • 「サブスクリプション‐『顧客の成功』が収益を生む新時代のビジネスモデル」ティエン・ツォ著
  • Zuora Japan セミナー(2019年5月30日開催)、「電通デジタルが考える「サブスクリプション3.0」の世界–マーケターはサービスマネージャーへ」2019年5月16日、他
  • 最大化にあたり、重要な指標(KPI)は解約率・定期利益率・成長効率性指標の3つ
  • カスタマーサポートとの違いは、Gainsight社によると、率先して顧客満足度を高める活動をするか、受け身で顧客対応をするかという点。カスタマーサクセスのKPIは、収益・解約率となる。
  • Zuora(米国)が代表格と言われている
  • “Competitive Landscape: Cloud Subscription and Recurring Billing Management, North America”, 14 November, 2018
  • McKinsey及びGartnerの予測。McKinseyによると、米国eコマースにおけるサブスクリプションの市場規模(2018年)は、200億ドル超と推計。

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