企画・公共政策

人口減少下で生じ得るサービスの減少
―都市別の店舗数データを用いた分析―

上級研究員 菅沼 健司

人口が減少局面に入る中、「各都市の人口がどの程度減少した時にサービスが減少するか」への関心は高い。本稿では、都市別の店舗数データ等を用いて各サービスの商圏を算出し、サービスが減少し得る水準(閾値)を推計した。人口規模に因らない普遍的なサービスでは、商圏(コンビニ:2,500人)が店舗減少の閾値となり得る。また、一定の人口規模が必要なサービスでは、サービスの所在確率が半分以下となる水準(ハンバーガー:3万人、コーヒー:5万人)が重要と考えられる。人口減少とサービス減少の関係性への理解を深めることは、先行き人口減少が一段と加速し得る変曲点を見極める意味でも必要であろう。
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1.人口減少に関する議論

前作「小都市における人口減少の加速」では、小都市(人口5万人以下)における人口流出の背景として、教育・就業・医療インフラの不足が考えられる点を示した。一方、中都市(人口10~15万人)では、社会減は生じていないものの、自然減の加速から人口全体では減少局面に入りつつあり、先行きは民間企業等が(人口減を見越して)拠点整理や撤退に転じることで、厚生が減少して社会減(人口流出)に転じる可能性に留意する必要がある点を指摘した。

もっとも実際には、企業の拠点整理や店舗閉鎖には相応の意思決定プロセスが必要であり、そのため人口の減少に比べると非連続的な動きを取ることが想定される≪図表1≫。そうした前提に基づくと、人口減少に伴って各種のサービスが減少する「変曲点」となる水準を理解することは、各都市における先行きのサービスの水準の変化を想定し、その対応を検討していく上でも重要となろう。

このように、「人口がどの程度減少した場合に、サービスが減少し得るか」といった点を考える上で、本稿では、わが国の様々なサービスにおける、都市別の店舗数・施設数の直近データを用いて、各サービスにおける店舗当たり人口(商圏)を計算した。各サービスの商圏のサイズは、都市の人口が先行き減少した際に、当該サービスが減少し得る水準(閾値)を考える上での、1つの参考となり得ると考えられる。

以下、2節では本稿で取り上げる各種のサービスを紹介する。これらのサービスについて、本稿では2つに分けて分析を行う。まず3節では、都市の人口規模に因らず普遍的に存在するサービスについて、その店舗数が減少し得る水準を推計する。次に4節では、その所在に一定の人口規模を必要とするサービスについて、都市規模別の存在確率を求め、所在確率が半分以下となる水準を推計する。

2.取り上げるサービス

本稿では、複数の民間サービスおよび公的サービスを取り上げ、各々の店舗や施設が、わが国の各都市にどの程度存在するかを集計する1。なお、サービスの業態を選ぶ際には、店舗・施設が全国に広く存在すること(遍在性)、各店舗・施設で享受できる財やサービスがある程度似ていること(同質性)を重視している2

まず、民間サービスについては、「コンビニチェーン」「ハンバーガーチェーン」「コーヒーチェーン」の3業態を取り上げ、各業態における店舗数の上位3社を分析の対象とする。これらの業態は、いずれも店舗網が広いことが特徴となっており、各社はいずれも「全国に数百店以上の店舗網を有する」「全ての都道府県に少なくとも1つ以上の店舗が存在する」といった共通の特徴を有している。また、それぞれの業態内では、自社・競合先を問わず、消費が可能な財やサービスの性質は店舗間である程度似通っているため、例えば、A市にあるD社の店舗と、B市にあるE社の店舗では、購入可能な商品に大きな違いはないとみなしても、概ね問題はないと考える。こうした点を踏まえると、各業態における都市別の店舗数を集計し、人口を店舗数で割った「店舗当たりの人口(商圏)」を算出することには、一定の妥当性があると考えられる。

これらの9社(3業態×各3社)について、各社HP等の公表情報を用いて、各都市における店舗数の集計を行い、以下のようなデータセットを作成する≪図表2≫。

 一方、公的サービスとしては、学校(小学校、中学校、高校)、病院(一般病院、診療所、歯科)、および郵便局を取り上げる3。これらの業態も、施設が幅広く存在しており、また各施設で利用可能なサービスが似通っている点は、民間サービスと同様である。もっとも、必需性が高い一方で代替性に乏しい点は、民間サービスとの大きな違いとなっている。

3節以降の分析に先立って、それぞれのサービスが、わが国の各都市(792市+東京特別区の全793先)に、どの程度所在しているかを示す≪図表3≫。なお、民間サービス(コンビニ、ハンバーガー、コーヒー)については、各業態における3社いずれかの店舗が、当該都市に少なくとも1店所在していれば「店舗有り」、いずれのチェーンの店舗も存在しない場合は「店舗無し」と位置付けている。

図表3からは、コンビニおよび大半の公的サービスでは、人口規模に因らず、ほぼ全ての都市に、店舗や施設が普遍的に存在している。一方で、ハンバーガー・コーヒー・病院・高校は、店舗や施設が無い都市もあり、その所在には一定の人口規模が必要であることが示唆される。また、特に民間サービスについては、取り上げた業種の数自体は必ずしも多くはないが、(「全ての都道府県に店舗が存在する点」では共通しているにもかかわらず)都市別の店舗所在割合は業態間で大きく異なっている点は興味深い。以下、3節では全ての都市に存在する普遍的なサービス、4節は一定の人口規模が必要なサービスについての分析を行う。

3.普遍的なサービス:サービスが減少し得る水準(閾値)

まず、全ての都市に店舗が所在している「普遍的なサービス」を取り上げる。分析に当たっては、図表2で集計した、都市別の店舗数(施設数)と人口データを用いて、各都市の「1店舗当たりの人口(商圏、カバーエリア)」を計算し、その分布(平均値、標準偏差等)を示す。最初に、商圏(カバーエリア)が小さい業態として、コンビニ・診療所・歯科の3つを確認する≪図表4≫。

コンビニについては、1店舗当たりの人口(商圏)の平均値は2,500人程度となっている。すなわち、平均的には、人口3万人の都市では12店、人口10万人の都市では40店のコンビニが所在している。また、標準偏差は500人弱と、都市別の商圏のサイズのバラつきも非常に小さく、約7割の都市では商圏が2,000~3,000人の間に収まっている。これは、コンビニ各社が店舗の出店や撤退に対して、商圏の大きさを強く意識していることを示唆している。

こうした商圏のサイズを、本稿のテーマである人口変化と関連させて考えると、人口が減少局面に入った都市において、仮に減少幅が累計2,500人に達した場合、(平均的には)コンビニが1店舗減少し得る可能性があることを示唆している。実際には、人口減少は特定の店舗の商圏だけで生じるとは限らず、また、各チェーンの出店方針や、店舗ごとの競合環境の違い、広さや人口密度で見た商圏の違い、経営形態(直営店・フランチャイズ店)の違いなどもあるため、こうした結果が生じるとは必ずしも限らない点には留意は必要ではあるが、「サービスの減少」が生じ得る1つの基準となる可能性が考えられる。

また、診療所と歯科における、1院当たりの人口規模(以下、カバー人口)は、それぞれ約1,000人、2,000人となっている。このデータからは、かかりつけのクリニックや歯科では、人口減少局面において院数が減少し得る水準が、相応に小さいことを示唆している。ただし、診療所や歯科は公的サービスとしての側面が大きいことや、多店舗を展開するコンビニチェーンと異なり個人経営が中心であることから、人口減少が直ちに閉院という判断に至ることはないかもしれない。もっともその場合は、医院当たりの患者数が減少する中で、各院の経営面の厳しさが増加することに繋がるだろう。

次に、小中学校および郵便局における、施設(学校・局)当たりのカバー人口を示す≪図表5≫。小中学校については、それぞれ5~6,000人、1万人強が1校当たりの平均的な人口となっている。これらの9割以上を占める公立校では、クラス当たりの児童・生徒数が法令で定められているため、先行き年少人口の減少が進んだ場合には、(立地条件等による一部の例外はあるものの)閉校はある程度機械的に決まっていく可能性が高い。ただし、公立の小中学校は市町村に設置義務が課せられているため、今後人口減少が加速した場合でも、現状では最小単位(1校)が下限となる点は、民間サービスや4節の高校とは異なるだろう。

最後に、郵便局については、3千人程度に大きな山があるが、1万人程度にも小さい山が存在している。これは、地方においては簡易郵便局が存在することなどから、中小都市と大都市では局当たりのカバー人口が相応に異なっており、2つの山はそうした違いを表していると考えられる。

3節では、都市の人口規模に因らず、普遍的に存在するサービスについて、各都市における1店舗当たりの商圏(ないし1施設当たりのカバー人口)を算出し、その分布を示した。一定の留保を置く必要があるものの、こうした水準は、先行き人口の減少が続いた場合に、サービスの店舗数の減少が生じる基準(閾値)の1つとなり得ることが考えられる。

4.一定の人口規模が必要なサービス:サービスの所在確率

次に4節では、店舗や施設が所在しない都市が存在する業態、すなわち、店舗展開にあたって「一定の人口規模」が必要なサービスを分析する。具体的には、わが国の都市を人口規模別に並べた上で、それぞれの規模において、サービスの所在する割合がどの程度異なっているかを確認する。

本稿に類似したアプローチとしては、国土交通省(2014,2021)の「サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模」が挙げられる。もっとも、同省の分析では各サービスの事業所数をベースとしている一方で、本稿では各サービスの実店舗数を用いている点に違いがある。

≪図表6≫では、民間サービスのうち、ハンバーガーチェーンとコーヒーチェーンの店舗が所在する割合を、都市の人口規模別に示している。ハンバーガーチェーンをみると、人口10万人以上の中都市では、約8割の先で「3社全て」の店舗が所在している。しかし、人口規模が10万人未満になると、「2社」あるいは「1社のみ」の店舗しか所在しない都市の割合が、半分程度まで上昇する。そして、人口規模が5万人未満の小都市においては、「いずれのチェーンの店舗も存在しない」先が出現する。さらに人口規模が小さい、人口3万人未満になると、「いずれのチェーンの店舗も存在しない」都市の割合が過半を占めることとなる。先の国土交通省の表現を用いると、「ハンバーガーチェーンが存在する確率が50%となる都市人口の規模」は、およそ2~3万人程度となっている。

次に、コーヒーチェーンをみると、人口10万人以上の中都市では、ほぼ全ての先において「少なくとも1社」の店舗が存在している。しかし、人口規模が10万人未満の都市では、「いずれのチェーンの店舗も存在しない」先が出現し、その割合は人口規模が小さくなるほど上昇していく。人口5万人未満の小都市では、「いずれのコーヒーチェーンの店舗も存在しない」都市の割合が、過半を占めることとなる。

最後に、公的サービスとして、病院と高校を取り上げる≪図表7≫。両者はいずれも、わが国の都市の9割以上には存在しており、上記のコーヒーチェーンやハンバーガーチェーンに比べると、3節で取り上げた普遍的なサービスに近い。もっとも、都市規模別に見てみると、小都市、特に人口2万人以下の都市では、ほぼ全ての先で、病院・高校のいずれも1ないし2院(校)にとどまっており、また病院自体が所在しない都市も一部に存在する。前作「小都市における人口減少の加速」では、高齢者の人口流出の背景の1つに、中都市(平均6院)と比べて、小都市(同2院)は病院数が少なく、医療インフラが不足していることを述べたが、図表7は小都市の中でも、人口規模が小さい先ほどそうした傾向が強いことを示している。

4節では、所在に一定の人口規模が必要となるサービスについては、人口規模が小さくなると所在確率が急速に低下に向かう閾値があることが示された。このことは、中小都市において先行き人口減少が続いた場合に、3節でみたサービスの店舗減少だけではなく、サービス自体が無くなる可能性も示唆している。もっとも、サービスの減少は一般的には当該都市における厚生の減少に繋がるものの、個々のサービスの存在の有無が、必ずしもその都市の人口変化に影響を与えるとは限らない点には留意が必要であろう。

5.終わりに

本稿では、前稿「小都市における人口減少の加速」の続編として、人口減少局面において生じ得る、様々なサービスの減少をテーマに取り上げた。その上で、都市別の店舗数のデータを用いて、各サービスの商圏(ないしカバーエリア)のサイズを算出することにより、人口が減少する中で今後サービスが減少に転じる可能性がある人口の水準(閾値)を推計した。

わが国では、小都市で人口減少が加速しているだけではなく、中都市でも人口減少局面に入りつつある。こうした中で、本稿で示された、サービスの商圏サイズ(コンビニ:2,500人)や、サービスが所在する確率が半分以下となる水準(ハンバーガーチェーン:3万人、コーヒーチェーン:5万人)は、先行き人口減少が進んだ際に、これらのサービスが減少していく1つの基準(閾値)となる可能性が考えられる。

留意点として、本稿で示した各サービスの閾値は、店舗数と人口の時系列データから算出したものではなく、直近の一時点におけるクロスセクションデータから算出したものである。実際の閾値は、各業態の構造的な変化に伴って変わる可能性もあるため、今後実際に人口減少が進んで本稿の値を下回った際に、店舗や施設数の減少が生じるとは必ずしも限らない。もっとも、各サービス、特に民間企業は収益最大化を目標とする中で、先行き人口減に伴って需要が減少した場合には、いずれかの局面でサービスの維持・撤退の判断を行うことは、自然な流れであろう。そうした点を踏まえると、今後人口減少が進んだ場合に、各種のサービスがどの時点でどの程度減少し得るかといった点を意識することは、前稿でも述べた「人口減がさらなる人口減少の加速を生み出す『変曲点』を見極める」意味でも、重要となるであろう。

  • 民間サービスは2024年6月末時点、公的サービスは統計の直近値(2022年または2023年)。
  • なお、サービスの立地は必ずしも行政区分に基づくとは限らない点には留意が必要ではあるが、本稿では商圏の平均・分散(3節)や、都市規模別のサービスの所在確率(4節)に重点を置く観点から、都市別の店舗・施設数を軸としている。
  • 学校は、文部科学省「学校基本調査」における都市別の総数を用いている。また、病院の区分(一般病院:病床数20以上、診療所:同19以下)は、厚生労働省「医療施設調査」の定義に基づいている。

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