年末に更なる深刻化が見込まれる人手不足
人手不足が深刻化している。日銀短観の人員判断DIでは、急激な人員不足が示されており、とりわけ宿泊・飲食サービスや運輸・郵便、小売といった労働集約的な産業において特に深刻な状況となっている(図表1)。ただでさえ深刻な人手不足であるが、これから年末を迎えるにあたり、以下の3つの理由によって、状況は更に悪化する可能性が高い。
第一に、季節的に繁忙期に当たることが挙げられる。第3次産業活動指数をみると、宿泊・飲食サービスや運輸・郵便、小売のいずれも12月において活動指数が高いことが示されている(図表2)。年末には忘年会や年末商戦への対応といった季節的なイベントに伴い業務が増加し、それに対応する人員が求められることになる。
第二に、インバウンド需要の増加が挙げられる。訪日外客数は既にコロナ前の2019年を大きく上回り、増加ペースも増している(図表3)。今後も外国人観光客が増加を続ける場合、年末にかけてかつてないほど多くのインバウンド需要が生じることが想定される。インバウンド需要に対応するためには、宿泊・飲食サービス等の労働集約的な産業の人手が必要となり、人手不足に更に拍車がかかるだろう。
第三に、年収の壁の問題が挙げられる。年収の壁とは、年収が一定の金額を超えた場合に、保険料負担等が生じることを指す。被扶養者である主婦(夫)や学生にとっては、年収の壁の範囲内で働こうとするインセンティブが働きやすい。年収の壁の問題はかねてから指摘されているが、昨今の賃上げによってより問題が生じやすくなっている。最低賃金が大きく引き上げられているため(図表4)、同じ労働時間でも年収の壁に届きやすくなるからだ。年収の計算期間は1月から12月であるため、年収の壁の範囲内で働くことを選好する場合、年末に労働時間をセーブする動きが生じやすくなる。その場合、事業者が労働者を確保している場合であっても、労働時間が減少し、追加的な人員確保が必要になる。
年末は多くの業種にとって書き入れ時であり、経済活動が活発化する時期である。裏を返せば、急増する需要によって人手不足という問題が一層顕在化しやすい時期であるとも言える。残された時間は少ないが、事業者は人手の確保や省力化などの対策を進め、増加する需要に対する供給力の強化を進める必要があるだろう。そして中長期的には、政府が年収の壁を打破し、働きたい人が働ける環境を整備することが求められる。構造的な人手不足により、今後も賃金に上昇圧力がかかり続けることが想定され、年収の壁に到達するまでの労働時間は短くなっていく可能性が高い。年収の壁を打破する必要性は年々高まっており、迅速な対応が求められる。