米国 自動運転タクシーの新型車両Cruiseは断念、Waymo、Zooxは導入へ
ー断念の背景には、FMVSS(車両認証制度)?ー

上級研究員 新添 麻衣

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米国ではGM、Alphabet、Amazonの第2Q決算が出揃った。本稿では、その決算発表の中で語られた自動運転タクシー事業に関する部分に注目してみたい。

<GM Cruise/新型車両Cruise Originの開発を断念>
 昨年秋にカリフォルニア州で発生した人身事故の影響で、全米で自動運転タクシーの運行を取りやめていたCruiseだが、経営陣の入れ替えなども行い、今年5月からフェニックス、ヒューストン、ダラスで車内にドライバーを置いた状態での試験走行を順次再開している※1

しかしながら、第2Q決算では大きな方針転換が発表された。自動運転専用の新型車両「Cruise Origin」の導入を断念し、従前から使用してきた乗用車シボレーボルトの新型車をベースにコスト低減と規模の拡大を目指すという※2。Cruise Originは、EV生産に特化した新工場「Factory Zero」で昨年秋から量産に入る計画だったが、人身事故の影響で、この生産ラインも停止されていた。結果、2024年のCruiseは第2Q時点で4.58億ドルの赤字事業(EBIT-調整後)となっている※3

Cruise Originは、運転席をなくしたレベル4専用車両で、広々とした6人乗りの車室空間を実現すると共に、米国仕様ではフードデリバリーにも対応できる保温ケースも設置され、人・モノのラストマイルの輸送に対応する予定だった。

幻の新型車両となったCruise Originと、現在のシボレーボルトをベースにした自動運転タクシー

ドバイと日本にも輸出される予定だったため、この2地域での運行プランも変更になりそうだ。ドバイでは、2030年に全交通手段の25%を自動化する目標を掲げる道路交通局(RTA)に対し、最大4000台のCruise Originを自動運転タクシーとして納入する計画となっており、2023年からシボレーボルトでの試験走行を始めていた※4。日本では、ホンダが2026年初頭に東京都心部で自動運転タクシーの提供を開始し、数十台から500台規模に拡大していく予定だった※5

<米国独特の車両認証制度がレベル4の自動運転車のリスク? /認証プロセスにNHTSAも目を光らせる>
 老舗の大手自動車メーカーとして、自動運転タクシーの分野でも、Cruise Originの量産と国内外での拡販に先鞭をつけたかったGMだが、その夢は一旦潰えた。赤字が続いている事業というだけでなく、バーラCEOは、「Cruise Originについては、そのユニークな車両設計のために直面していた規制上の不確実性」のために開発を断念した、と説明している※2

新型車両を量産して市場に投入する際、日本では、車両の安全性を審査する物差しとして、国が定めた道路運送車両の保安基準がある。各メーカーは、保安基準に基づく審査を受け、型式指定を取得して、初めて発売へと向かうことができる。この流れは欧州でも同様である。

一方、米国では、独特の制度が敷かれている。保安基準にあたる連邦自動車安全基準 (FMVSS)を国として定めているものの、新型車両の適合性や安全性についてはメーカーが自ら審査プロセスを決定し、自己認証を行わなければならない。しかしながら、人が運転する自動車の安全性を確保するために作られたFMVSSの規定には、ハンドルも運転席もない自動運転車には合致しない点が多々ある。Cruise Originの量産に向け、GMはFMVSSの改定や適用除外を求めてロビーイングを行っていた。

GMの努力が実を結んだ改定もあり、2022年3月にはハンドルや運転席の無い自動車におけるエアバックの装備方法が読みとれるようFMVSSの改定が行われた※注6。ただし、これは抜本改定ではなく最低限の改定で、このような論点となる規定が、レベル4仕様のCruise Originに対しては多々あり、GMとしても自己認証のやりようが無かったのではないか。これが「規制上の不確実性」だったのかもしれない。

なお、その後のCruiseは、昨年秋の人身事故で、事故を起こしたことそのものよりも、事故状況の詳細の報告が遅かったことによって当局の不信感を招き、報告遅延に対して約1,660万円の罰金も課されている※注7。こうした経緯からも、従前のようにはロビーイングが進まないと判断した可能性もある。

<Amazon傘下のZoox /独自車両を自己認証するも、当局の調査対象に>
 Zooxも、レベル4専用の独特なデザインの車両を用いて自動運転タクシー事業に参入しようとしている。Zooxの場合、データ収集に使う車と乗客を乗せるための車を明確に分けて試験走行を重ねている。実際に乗客を乗せる車両は、運転席の無い4人乗りの電動小型シャトルとなっており、自動車メーカーの支援は受けず、自社工場で内製化して開発、生産を行っている。

この独自車両について、2022年7月、Zooxは米国で初めてFMVSSに沿った自己認証を完了させたと発表した※注8。すると、連邦のNHTSA(道路交通安全局)は、9月に特別命令(Special Order)を出し、認証手順や安全性を判断した根拠について報告を求めた。Zooxは11月に回答したが、納得しなかったNHTSAは2023年3月に改めて、Zooxの自己認証に対する調査に入ることを通達した※注9。NHTSAが問題視したのは、特殊なデザインの車両であることを理由に、FMVSSに該当する項目が無いと判断して、Zooxが審査不要と処理した安全上の観点がいくつもあるのではないか、という点だった。

Amazon Zooxが自動運転タクシー事業に用いる2種類の車両。

NHTSAの調査が完了したという発表は今のところないが、Amazonの第2Q決算では、新しい革新的なビジネス分野での進展として、Zooxの実験エリア拡大が報告され、4都市目、5都市目がオースティンとマイアミに決定したと発表された※注10。また、今年からラスベガスや本社のあるカリフォルニア州のベイエリアでは乗客を乗せた走行に着手しようとしている※注11

米国では、道路交通に関する管轄権は州にある。そのため、論点を孕んだ車両であっても、州に対して安全性や安全対策を説明できれば、州からは試験的に公道を走行する許可や乗客を乗せる許可も得られる。このあたりが、合衆国の連邦と州の権限のねじれであるが、一方で、自動運転に寛容な州を舞台に各プレイヤーが切磋琢磨する開発競争が起きている理由でもある。

<勢いに乗るWaymo/増資も約束され、新型車両でのテストも開始>
 最後に、Waymoにも触れておきたい。第2Qの決算発表で、AlphabetのピチャイCEOは、「Waymoという“賭け”の進捗に非常に満足している」と語り、長期的な投資案件の中で、技術、オペレーションの両面で優れたパフォーマンスを発揮している重要な事業であることから、今後、50億ドル(約7,350億円)の複数年投資を行うと発表した※注12。また、累計200 万回以上の配車オファーに対応し、レベル4で2,000 万マイル(約3,220万km)以上の公道走行を実現したこと、サンフランシスコとフェニックスを中心に週 5 万回以上の配車を有償で行っていることも明らかにされた※注12

Waymoもまた、新型車両の導入と自動運転システムWaymo Driverの第6世代へのアップデートを発表している※注13。新型車両は、中国の吉利汽車の高級EVブランドZeekrから提供を受ける。2021年に発表された自動運転車両の共同開発に向けた提携が実を結んだものである※注14。長らく、ジャガーの乗用車I-PACEをベース車両に使用してきたWaymoからすると、今回、初めて車両が大きくなる。当初の設計案とおりだとすれば、運転席が無く、広々とした座席空間や荷物の積載スペースが確保される見込みである。

WaymoとZeekerが開発した新型車両

Waymoの自動運転タクシーが新型車両に置き換わるフェーズになると、NHTSAとFMVSSの問題にWaymoとZeekerも直面する可能性がある。しかしながら、新型車両には、まだ乗客は乗れず、当面は様々な性能試験を重ねる。ラスベガスとデスバレーが最初の実験地に選ばれており、過酷な気温の中でその性能を試すという※注15

そのため、当面の間、乗客に提供されるのは既存のジャガーI-PACEを使った自動運転タクシーのサービスになる(6月27日発行:参考レポート。確立されたI-PACEでの走行によって、運行エリアの拡大や、一般道から高速道路へのルート拡大などODDとビジネスの拡大に向けた動きを続けている。8月6日にはサンフランシスコ郊外で、8月7日にはロサンゼルス近郊で、また営業エリアの拡大が発表された※注16

FMVSS上の争点がない市販のBEV:ジャガーI-PACEを用いてシステムとオペレーションを磨くことに注力してきたWaymoが、Cruiseがスタックしている間に、先に行ってしまった感がある。また、2社に比べるとやや後発のZooxが、独自車両の展開についてNHTSAを説き伏せることができるのか、どのように事業拡大を成し遂げていくのかも注目していきたい。

Waymo:2024年8月6日、8月7日に発表されたサンフランシスコとロサンゼルスの運行エリア拡大

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※注1Cruise “Cruise resumes supervised autonomous driving with safety drivers”、June 11, 2024
※注2GM “Q2 2024 Letter to Shareholders”, July 23, 2024
※注3 GM “GM Releases 2024 Second-Quarter Results and Raises Full-Year Guidance”, July 23, 2024
※注4 GM “RTA and Cruise Start Data Collection and Testing on Dubai Roads”, April 5, 2023
※注5 ホンダ「日本での自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始予定~クルーズ、GM、Hondaでサービス提供を担う合弁会社の設立に向けた基本合意書を締結~」、2023年10月19日
※注6 NHTSA “Occupant Protection for Vehicles With Automated Driving Systems”, March 30, 2022
※注7 Reuters ” GM’s self-driving Cruise unit to pay $112,500 for delaying crash report”, June 22, 2024
※注8 https://zoox.com/journal/publicroads/
※注9 NHTSA “ODI Resume Investigation: AQ 23-001”, March 3, 2023
※注10 Amazon “Amazon Q2 earnings: Here’s what you need to know”, August 1, 2024
※注11 現在は、従業員を乗せた試験走行を行っている。
※注12 Alphabet “2024 Q2 Earnings Call”, July 23, 2024
※注13 Waymo 2024年6月18日公式X
※注14 Waymo “Expanding our Waymo One fleet with Geely’s all-electric vehicle designed for riders first”, Dec. 28, 2021
※注15 Waymo 2024年6月18日公式X
※注16 Waymo “Expanding destinations for San Francisco and Los Angeles riders”, August 6, 2024

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