ヘルスケア・ウェルビーイング

医療機関における新たな資金調達手法
~クラウドファンディング活用の可能性~

主任研究員 江頭 達政

少子高齢化の進む日本において、医療機関には医療供給体制の見直し、生産性向上など多くの課題があり、限られた予算のなかで優先順位を付けて対策を講じる必要がある。近年、医療機関がクラウドファンディングを活用して資金を調達する事例が見られる。クラウドファンディングは、実行者、支援者の双方にとってメリットがあることが必要であり、多くの支援者を短期間で獲得することが困難という課題もあるものの、医療機関の新たな資金調達手法となるかもしれない。

1.はじめに

少子高齢化の進む日本では、医療機関は周辺地域における人口動態の変化を見据えながら、医療提供体制の見直し、生産性向上、DX推進、労働力確保など多くの課題へ対応しなければならない。加えて、近年では新型コロナウイルスの蔓延にともなう感染症対策拡充のような課題も新たに発生した。

厚生労働省が2023年に実施した医療経済実態調査1によると、2022年度における一般病院全体の医業損益率2は、マイナス6.7%と赤字であり、前年のマイナス5.5%から悪化している。コロナ補助金を含む損益率で見ると1.4%の黒字であるが、その補助金は2024年3月末で終了した。

設立主体別に見ると、公立病院、国立病院の赤字幅が大きく、医療法人においてもマイナス1.3%と僅かな赤字となっており、厳しい経営状況が見てとれる≪図表1≫。このような中、限られた予算のもとで優先度の高い医療機器の新規導入や更新、医療施設のリニューアルなどを検討する必要があるが、全てを実現できるわけではない。

近年、医療機関が新たな資金調達手法としてクラウドファンディングを活用する事例が見られる。その現状と課題、今後の可能性について具体的事例をもとに整理をこころみる。

2.クラウドファンディングとは

(1)クラウドファンディングとは

クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた造語で、明確な定義があるわけではなく、不特定多数の人がインターネット等を通じて、他の人々や会社、各種団体に資金提供などを行う仕組みを指す言葉である。その形態から物品や権利を購入することでプロジェクトを支える「購入型」、リターンを求めない「寄付型」、プロジェクトに対して投資や融資を行う「金融型」の3つ3に大別される4

クラウドファンディングには従来の資金調達にはない「手軽さ」や「拡散性の高さ」があり、近年注目されている。標本資料の収集保管活動の継続を目指した国立科学博物館が、2023年に約5.7万人の支援者から9.1億円を超える支援金額を集めた5ことは記憶に新しい。

(2)クラウドファンディングの市場規模

矢野経済研究所の「2022年版 国内クラウドファンディングの市場動向」によると、近年における国内クラウドファンディング市場は、年間1,600億~1,800億程度(年間の新規プロジェクト支援額ベース)で推移し、2022年度は1,900億を超える見込みである≪図表2≫。

2020年度には新型コロナウイルス関連プロジェクトの成約が急増した背景もあり、一時的に市場規模が拡大した。2021年度は市場規模が減少に転じたが、クラウドファンディングのニーズは依然として高いと同研究所は見ている。

3.医療機関におけるクラウドファンディングの活用

(1)クラウドファンディング活用の可能性

医療機関が資金を調達する方法は、金融機関からの融資や自治体補助金の活用、医療機関債の発行などが主流である。医療機関に対する寄付行為は従来から可能だが、多くの寄付者、寄付金を集めることはなかなか難しかった。

近年、医療機関による新たな資金調達手段として、クラウドファンディングが活用され始めており、クラウドファンディングサービス「READYFOR」を介した資金調達が、件数、金額ともに増えている≪図表3≫。他の運営サイトにおいても、医療福祉分野でのクラウドファンディングは見られるが、医療機関による資金調達はREADYFOR経由のものが多い6

主な利用目的は、病院施設の設備購入費、治療のために必要な医療機器購入費、人材育成費など多種多様であり、プロジェクトの達成率も約90%と高い7。年間総支援金額はまだ数億円程度であり、国内全体の市場規模と比較すると小さいものの、新たな資金調達手段の一つになりつつある。 

(2)クラウドファンディングの現状と課題

クラウドファンディングサービス「READYFOR」にてこれまで公開された医療機関のプロジェクトを確認すると、その属性や所在地域は様々である。大都市圏から地方に至る100以上の医療機関が、READYFORを介した資金調達を実施しており、その具体的事例をもとに、現状と課題を紐解いてみる。

①「小児集中治療室PICU」設立の人材育成(北海道大学病院:2023年7月3日~8月31日までの募集)

北海道大学病院による2023年の寄付型クラウドファンディングで、24 時間の小児集中治療維持を目的に、小児集中治療を担当する医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士等12人分の育成費用として700万円を目標額に支援を募ったものである8

支援コースは、個人向けとして寄付金額5千~100万円までの8つ、法人向けとして1万~100万円までの7つが用意され、最終的に854人の支援者、約2,306万円の寄付を集めた。支援者の約95%は個人で、支援コースの中では個人向け5千円コースに295人、個人向け1万円コースに329人の支援があった。

開催中における広報活動は、大学HPでの掲示、SNSを通じた拡散、他病院経由での周知≪図表4≫、マスコミによる報道などが行われた(北海道文化放送7/6、読売新聞8/19、朝日新聞8/22)。支援者に対しては、お礼メール、1万円以上のコースにおける大学HPへの名前掲載(希望制)などが提供されている。

②病院救急車のリニューアル (河北総合病院:2024年4月15日~5月31日までの募集)

河北総合病院(東京都)による2024年の寄付型クラウドファンディングで、病院救急車の買い替えを目的に1,000万円を目標額として支援を募ったものである9

支援コースは3千~100万円までの8つ、法人向け救急車ロゴ掲載コースとして50万、100万の2つが用意され、最終的に332人の支援者、約2,309万円の寄付を集めた。支援者の個人、法人の内訳は不明であるが、3千円コースに78人、1万円コースに103人、法人向け救急車へのロゴ掲載コースに12件の支援があった。

開催中における広報活動は、病院HPでの掲示のほか、病院動画での周知、SNSを通じた拡散、地域店舗による応援などが行われた。支援者に対しては、お礼メール、1万円以上のコースにおける病院HPへの名前掲載(希望制)、法人向け救急車ロゴ掲載などが提供されている。

③MRI装置の買い替え(更新)(宮崎県済生会日向病院:2023年11月1日~12月25日までの募集)

宮崎県済生会日向病院による2023年の寄付型クラウドファンディングで、MRI機器装置の買い替えを行うことを目的に1,000万円を目標額として支援を募ったものである10

支援コースは3千~100万円までの8つが用意され、最終的に203人の支援者、約2,038万円の寄付を集めた。支援者の個人、法人の内訳は不明であるが、1万円コースに76人、3万円コースに36人、10万円コースに35人の支援があった。

開催中における広報活動は、病院HPでの掲示のほか、SNSを通じた拡散、地域企業による応援、マスコミによる報道(読売新聞11/25、FMひゅうが12/7、朝日新聞12/13)などが行われた≪図表5≫。支援者に対しては、お礼メッセージ、病院HPへの名前掲載(希望性)、3万円以上のコースに院内への名前掲載(希望制)などが提供されている。

④具体的事例から見える現状と課題

上記の3事例はともに寄付型クラウドファンディングとして実施されたものである。寄付型クラウドファンディングの法的性質は贈与になり、資金提供者(支援者)が任意に資金を提供していることになるため、資金需要者(実行者)に課される法的規制は基本的にない11

3事例すべて最終的には多くの支援者、支援金額を集めているが、二ヶ月に満たない開催期間中に多くの支援を獲得することは容易でない。比較的低額なコースへの支援が多いため、多くの支援者を獲得しなければならず、そのための広報活動は不可欠である。HPやSNSを活用した拡散にととまらず、病院からマスコミに働きかけてメディアに露出することや、他病院による周知、協力活動なども大きなポイントとなる。このあたりのノウハウは、クラウドファンディング運営会社であるREADYFORから提供されている模様だ。多くの医療機関がREADYFORのコンサルティングプランを採用しており12、医療関係のプロジェクトを中心にサポートする専任チームによる支援が行われている。スケジュール策定からページデザインの作成、リターン構成、支援目標達成に向けたアクションなどに関してアドバイスを受けることができ13、このような手厚いバックアップのもと、プロジェクトの達成や多くの支援を獲得することができていると考えられる。

一方、プロジェクトが成功するためには、支援者側にも支援するインセンティブが必要となる。寄付金クラウドファンディングの場合には、お礼の手紙や活動報告書など対価性のないリターン(返礼品)が設定され、個人が寄付した金額は寄付金控除(所得控除)の対象となりうるが、それだけが理由で多くの支援が集まるとは考えにくい。READYFORによると、支援者の多くは、「医療は公共性が高く、一般人にとって比較的身近、かつ、必要不可欠な領域だと捉えており、日頃から病院が地域の医療を守ってくれていることへの感謝の気持ちを返す場として、純粋に応援する気持ちでクラウドファンディングに参加している。」という14。このような支援者に支えられながら、医療機関をサポートするクラウドファンディングが増えていると言える。

4.おわりに

少子高齢化の進む日本において、生き残りをかけた医療機関の経営は困難をきわめている。経営状況が赤字の中でも、新たな資金調達手段であるクラウドファンディングは、大きなリスクをかけず、効率よく資金を調達できる可能性を秘めており、今後も注目される。まだまだ実施例が多くはないため、情報不足の医療機関も多いと推測されるが、READYFORでは学会へのブース出展による情宣、過去プロジェクト実行者によるクラウドファンディングに関わるウェビナーも定期的に開催されている15

一方で、その成功には多くの支援者を獲得する必要があるが、支援するインセンティブをいかに求めるか、支援依頼をなるべく効率よく行うためにはどうすればよいかなどを考える必要がある。本稿内で紹介した事例では、個人向けコースのほかに法人向けコースを用意したり、救急車への法人ロゴ掲載や院内銘板への支援者名明示といったリターン対応も見られた。今後は、医療機関におけるクラウドファンディングのあり方、事例を蓄積し、実行者(医療機関)、支援者がともに満足することができる関係となるようなモデルをさらに模索してゆくことが求められる。

ただし、医療は本来、公共性が高く、必要な医療資源の多くは公的財源でカバーされてしかるべきである。あらゆるものをクラウドファンディングに頼るのではなく、適切な医療サービスを提供するために必要な環境を整備、構築するためには、診療報酬体系の見直しや自治体からの補助金適用などによって、十分な医療サービスが提供されることが望まれる。一方で、公的財源には限りがあり、国策や地方自治体施策においても優先順位を付けて資源の配分を行わざるをえない。公的財源をフルに活用し、医療機関内においても生産性向上などにつとめながら経営資源を配分した結果、どうしても資源不足が発生し、望む医療施策の実現が困難となることもある。このような場合に、医療機関の新たな資金調達手法としてクラウドファンディングを活用することで、より良い医療を提供するための新たな可能性が広がるかもしれない。

  • 厚生労働省「第24回医療経済実態調査の概要」(令和5年 11月24日版)
  • 損益率は、(医業・介護収益‐医業・介護費用)÷医業・介護収益で算出。「医業・介護収益」は、新型コロナウイルス関係補助金を含まない額。ただし、≪図表1≫内の( )は新型コロナウイルス関係補助金を含んだ損益率、【 】は(医業・介護収益+その他の医業・介護関連収益‐医業・介護費用‐その他の医業・介護関連費用)÷(医業・介護収益+その他の医業・介護関連収益)により算出した総損益率。
  • クラウドファンディングの形態をより細分化し、「寄付型」、「購入型」、「融資型」、「株式投資型」、「ファンド型」、「ふるさと納税型」の6つのタイプとする場合もある。
  • J-Net21WEBサイト「クラウドファンディングについて教えてください。」
  • 独立行政法人国立科学博物館「クラウドファンディングの成果ご報告」(2023年11月6日)
  • 当社調べ
  • READYFOR WEBサイト「医療分野でのクラウドファンディングの活用を徹底サポート」
  • READYFOR WEBサイト「小さな命に寄り添い続ける。北海道で「小児集中治療室PICU」設立へ(北海道大学大学院医学研究院小児科 教授 真部淳)」https://readyfor.jp/projects/hokudaiPICU2023
  • READYFOR WEBサイト「迅速な診療で命をつなぐため、救急車をリニューアルさせてください!(河北医療財団)」https://readyfor.jp/projects/kawakita-2024
  • READYFOR WEBサイト「宮崎県北の医療の柱【MRI装置】を更新し、地域医療の安定を守りたい(宮崎県済生会日向病院)」https://readyfor.jp/projects/saiseikaihyuga2023
  • TIM総合法律事務所「クラウドファンディングの法的留意点」。なお、資金需要者(実行者)が医療法人の場合、受けた寄付金は受贈益として税務処理を行うものと考えられるが、詳細は実行者から税務署等へ確認する必要がある。
  • READYFORへの取材にもとづくもの。標準的なベーシックプランとサポートプラン、最も手厚いサポートが付いたコンサルティングプランが用意されている。ベーシックプランの手数料が、運営手数料9%、別途決済手数料5%(14%+税)、その他のプランの手数料は非開示(要相談)となっているが、手厚いサポートが付くゆえに手数料もより高い可能性があることを計画時に考慮する必要がある。
  • READYFORへの取材にもとづくもの。
  • 同上
  • 同上

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