住宅・土地統計調査と空き家
高齢世帯の住まいの移行と新しい住宅循環の創出
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1.はじめに
改正空家特措法(2024)では、空き家の事後対応から予防対策への方針転換が図られ、将来的に空き家になる可能性がある住宅(以下、空き家予備群とする。)の実態把握が、現在進められている1。住宅・土地統計調査を実施するに当たり、総務省は「令和5年住宅・土地統計調査に関する研究会2(以下、住宅・土地研究会とする。)」を開催しており、総務省統計委員会(人口・社会統計部会)での議論も踏まえつつ、標本調査3の設計、調査項目・調査方法の改良を数年にわたり検討している。
本稿では、住宅・土地統計調査のうち、空き家の実態調査に関するこれまでの課題を整理し、今回の調査項目の変更によって期待される空き家予備群の推定方法について検討した。最後に、高齢者の自宅から施設への移行の実態を捉えることで、新しい住宅循環の創出可能性について提案している。
2.住宅・土地統計調査における統計上の課題と空き家問題
住宅・土地統計調査は、その地域の代表的な調査区を選び出して調べる標本調査を基本としている。標本調査区(指定調査区)がその地域の代表であることを統計上担保するには、一定の調査区数を最低限確保しなければならない。だが、特に人口規模が小さい都市ではその確保が難しく、その歪みが空き家の実態調査で顕著に表れてしまう4。本章では、①国勢調査から住宅・土地統計調査に至るまでの流れを紹介したうえで、②標本調査の統計上の課題について述べ、③空き家実態調査の統計上の乖離状況を検討した。
まず、国勢調査では、全国の市区町村を対象に、人口規模や世帯、住戸等の種類からグループ分けし、基本となる調査区を設定する。次に、国勢調査で設定された調査区をもとに、住宅・土地統計調査において標本調査区を抽出したうえで、1調査区から17住戸を無作為抽出5し、調査対象住戸を決める。
上記の標本調査区を設定するに当たり、国は統計上の乖離を最小限に防ぐための指標(目標となる標準誤差率、数値が高くなるほど乖離が大きい)を設定している。今回の住宅・土地統計調査では、市区で5%以下、人口1万5千以上の町村で10%以下としている6。≪図表1≫では、「居住世帯のある住宅(空き家でない住宅)」と「空き家」について、目標となる標準誤差率との対応関係から統計上の乖離状況を見ている。
これを見ると、「居住世帯のある住宅」では、すべての人口規模で標本誤差率5%を達成しており、統計上の乖離が小さく保たれている。一方で、「空き家」では、すべての人口規模(市区:目標標準誤差率5%、町村:同10%)で目標値が達成できず乖離が見られる。こうした傾向は、特に町村および人口規模が小さい市区でより顕著である。
国や自治体では、現在、空き家対策を検討する際、空き家数を全住戸数で割ることで算出される「空き家率」を使って対策が検討されている。既に関係者間では認識されていることではあるが、空き家率の利用には上記を踏まえたうえで、今後も慎重な議論が必要と思われる。
3.建物調査と世帯調査による空き家数の違い
空き家の実態が掴めないもうひとつの理由は、住宅・土地統計調査で使われる調査方法が2種類あるためである。一つは、調査員が現地に出向き目で見てその結果を調査票に記入する空き家の実態調査(以下、建物調査)であり、もう一つは、世帯を対象にアンケート調査方式で答えてもらう調査方式(以下、世帯調査)である。上記2種類の調査を併用することで空き家の実態調査を行っている。
2018年以前は建物調査が唯一の空き家の実態調査方法であった。建物調査では、調査員が建物を外から見て空き家であることを判断し、同時にその建物の種類7もグループ分けする。しかし、そもそも調査員の目で見て空き家を特定するには限界があり、一時的に住んでいる人がいない場合でもカウントされるため、実際の空き家数よりも数が多く見積もられてしまう点が課題となっている8。また、空き家の種類もあいまいにならざるを得ない。なぜなら、賃貸用、売却用、二次的住宅・別荘は、看板や表札等から判断できればいいが、不動産物件サイトなどに掲載されているものは、現地で実際に確認することができないケースもあるからだ。
このため、より実勢に近い空き家の調査結果を得るべく、2018年調査から世帯調査が建物調査と併用されている。具体的には、現在住んでいる住宅以外に住宅を持っているかとの問いに対し(調査票では「現住居以外の住宅の所有」)、「誰も住んでいない住宅」を持っていると答えた人のうち(同:「居住世帯のない住宅がある」)、当該住宅が「賃貸用」「売却用」「二次的空き家(別荘など)」のいずれでもない、「その他」と回答した人に対して、最大3住戸を対象に聞くものである。質問項目は、住所、住宅のタイプ(一戸建て、共同住宅など)、取得方法(新築、中古、相続など)、住宅が建てられた時期、空き家になっている期間、が設定されている。しかし、世帯調査にも、1つの世帯で最大3住戸までしか記載できないことや、所有者の認識の違いによって実際の空き家数より過少に見積もられる傾向があるといった課題がある。後者は、例えば、親から相続した住宅に遺品が保管されており物置として利用している場合、回答者が当該物件を空き家だと認識していないケースもあるだろう。加えて、世帯調査では、建物調査のうち企業や官公庁が所有している建物などは対象にしていないため、そもそもアンケート調査票を配布する世帯が少なく、その結果空き家数も建物調査より過少に推計される。
こうした認識に立って、今回の住宅・土地統計調査での結果を≪図表2、左図≫で見ると、「賃貸用の空き家」と「その他空き家9」で、両統計の乖離が大きいことが分かる。「賃貸用」に関しては、上記の通り企業の所有物件が含まれない世帯調査が、過少に推計されている可能性がある10。また、「その他空き家」については、建物調査で「賃貸用」「売却用」「別荘」の判断に困った回答者が、やむなく本選択肢に回答しているため、過大に推計されていると考えられる。加えて、世帯調査でも、病院や福祉施設などで暮らす人(準世帯11)が、実態は空き家に近いにも関わらずその認識がないため回答せず、逆に過少に推計されていることもあるだろう。
≪図表2、右図≫は、左図の「その他空き家」を住宅の種類ごとに比較したものであるが、「一戸建」「共同住宅」において、2つの調査で乖離が見られる。このうち、共同住宅の空き家数に大きな乖離がある点については、一戸建は庭木が生い茂っている様子などから空き家であることが比較的判断しやすい一方で、マンションなどの共同住宅は外観からの空き家判定が難しいことが理由として考えられる。
4.空き家の実態調査から空き家予備群の実態把握へ~高齢世帯の住まいの多様化から読み解く、空き家の実態~
3節でみたように、空き家の実態調査が現実と乖離していることを踏まえて、住宅・土地研究会では、2023年調査においてさらなる補填調査を試みている。具体的には、昨今の高齢者向け施設の増加を踏まえて(≪図表3≫参照)、建物・世帯調査の調査項目に、「高齢者向けの施設に住む高齢者」に対して、彼らの所有する住宅に関する質問項目を追加した12。施設に住む高齢者の住宅は、将来的に空き家になる可能性が高く、こうした調査は空き家予備群の実態調査にもつながることが期待されている13。国が今年施行した改正空家特措法で、空き家の事後対応から予防対策へと方針転換が示される中、この調査結果は今後、重要な基礎資料となることが期待できる。
具体的には、≪図表4≫で示した、高齢者居住施設に住む人が持っている空き家の種類を見ると、「賃貸用」が最も多く、「その他」(賃貸・売却及び二次的住宅を除く空き家)が続く14。この順になっている背景を把握するには、より詳細な質問項目の設定が必要であるが、こうした状況が分かれば、施設への入居時点で高齢者から住宅を買い上げるあるいは借り上げる等といった、空き家予防対策が打てる可能性がある。
5.高齢世帯の住まいの移行と新しい住宅循環の創出に向けて
最後に、高齢世帯の住まいの移行と新しい住宅循環の創出に向けて、今回とこれからの住宅・土地統計調査が果たす役割について検討したい。高齢者居住施設には、≪図表5≫で示す複数の施設があり、それぞれに入居者の特徴がある。従来のように、高齢者居住施設といった大きな括りで捉えるだけでなく、施設タイプごとに高齢者が所有する住宅をよりきめ細やかに把握することができれば、具体的な空き家予防対策を打つことが可能になるだろう。
例えば、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅への入居に合わせて、自宅を売却して入居費用に充てることや、賃貸して施設居住費用に充てることも考えられる。ただし、売却・賃貸が可能な物件は、築年数が浅く、交通アクセスが良い比較的良好な中古物件に限られる点が課題である。このため、それ以外の物件のうちまだ活用可能性があるものは、住宅セーフティネットとして提供することも考えられる。
一方で、養護老人ホームや軽費老人ホームへ入居する、低所得の高齢者が保有する物件は、築年数が古く、交通条件不利地にある可能性も高い。このため、自宅を担保にして老人ホームへ入居することは難しく、また、自宅を除去する資金がないことも多い。こうした物件に関しては、公的補助金や民間金融機関の空き家解体ローン等15を活用した後、国庫に帰属させるような措置も必要と思われる。
空き家の発生要因の多くは、高齢単独世帯が保有する住宅が、死後に相続されず放置されてしまうことにある。高齢世帯の住まいの移行の実態を捉えることは、空き家発生後の事後対応から、未然予防への転換にもつながるだろう。住宅・土地統計調査の改良が進むことで、同統計が空き家予防の基礎資料としてより重要性が増加することが期待される。
- 宮本万理子(2024):空き家対策は早期の実態調査から、事後対応から予防対策への転換、SOMPO Insight Plus
- 研究会は、総務省統計局が主催するもので、5人の有識者、国土交通省、不動産・建設経済局、同住宅局、東京都、総務局、統計センターから4名がオブザーバーとして参画する構成員となっている。
- 標本調査はある集団の中から一部の調査対象を選び出して調べ、その情報を基に元の集団全体の状態を推計する調査。
- 総務省統計局(2020):令和5年住宅・土地統計調査研究会第2回資料「令和5年住宅・土地統計調査に向けた標本設計の検討について<標本規模、標本配分法>」
- 無作為抽出とは、標本調査において母集団からランダムに標本を抽出する手法のことで、母集団のすべての要素に抽出確立を与え、その確率に従って標本を抽出する。
- 令和5年住宅・土地統計調査の標本抽出方法及び結果の推定方法
- 空き家の種類には「賃貸用空き家」「売却用空き家」「二次的住宅(別荘・その他)」「その他空き家」がある。
- 宋健(2017):住宅・土地統計調査空き家率の検証、日本建築学会計画系論文集Vol.82、737、1775-1781
- 賃貸用の空き家、売却用の空き家及び二次的住宅以外の人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建替えなどのために取り壊すことになっている住宅
- 浅見泰司(2020):住宅・土地統計調査と空き家、ESTRELA、No.315、2-7
- 準世帯には、学校の寄宿舎、病院・療養所、社会施設、船舶、旧軍隊・旧警察予備隊、矯正施設等が含まれる。
- こうした追加は、総務省統計委員会における意見を踏まえてのものである。
- 総務省統計委員会「第86回人口・社会統計部会(平成29年12月26日)議事録」
- 今回の調査からサービス付き高齢者向け住宅のカテゴリーも独立して設定されたが、公表は2025年1月を予定している。
- 宮本万理子(2024)「空き家対策から地方創生へ~これからの地域銀行、信用金庫に求められる役割~」、ニッキンレポート
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