少子化が推計以上に進展する可能性
~国連世界人口推計で見る世界①~
1.はじめに
世界全体と各国や地域の人口における国連の最新の将来推計「国連世界人口推計 2024年推計(World Population Prospects 2024)」が、世界人口デー(7月11日。米国ニューヨーク時間)に発表された。国連世界人口推計は概ね2~4年ごとに公表され、今回は2022年以来2年ぶりとなる。世界規模で少子化が進展し、また世界一の人口数を抱える中国が人口減少に転じたとされる中、今年の国連世界人口推計は例年以上に注目を浴びている。
そこで、本稿では今回の国連世界人口推計から世界人口を概観したい。また、国連世界人口推計には大きな「クセ」がある。その「クセ」を明らかにして、考察を進めたい。
2.少子化はさらに進展
国連世界人口推計では、合計特殊出生率を3つ(低位、中位、高位)の仮定に分けて、2024年以降の人口が推計されている。本稿では特に言及しない限り、合計特殊出生率中位を前提とした推計を取り上げる。
それによると、世界人口は2023年の81億人(7月1日の年央人口。以下、本稿では同じ。)から今後も増加するものの、年平均増加率は0.87%(2023年)から徐々に低下する。2084年に世界人口は103億人でピークを迎え、その後、減少し始め、2100年は102億人(増加率は▲0.13%)となる(図表1)。
また、年齢3区分別に見ると、14歳までの年少人口は20億人(2023年)から17億人(2100年)に減少し続ける。15~64歳の生産年齢人口は53億人(2023年)から増加するものの、その増加ペースは年齢3区分人口の合計である総人口より緩やかで、年齢計人口より早く2070年の63億人でピークを迎え、その後減少し、2100年には61億人となる(図表2)。さらに、65歳以上の老年人口は8億人(2023年)から増加し続け、2100年には3倍の24億人に至る。
【図表1】世界の人口と増減率
(出典)国連「国連世界人口推計 2024年推計」よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
【図表2】世界の年齢3区分別人口
(出典)国連「国連世界人口推計 2024年推計」よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
この背景には、今後の出生率の低下が挙げられる。一人の女性が生涯に産む子どもの数を表す指標の1つとされる合計特殊出生率を見ると、1970年代以降に急激に低下したものの、2023年では2.25(2023年)と人口置換水準(人口が維持できる水準約2.1)を上回っていた(図表3)。
今後、世界の合計特殊出生率は緩やかに減少し、2050年に人口置換水準を下回り、その後も減少を続けて、2100年には1.84まで低下する。20世紀は人口置換水準を大きく上回る高出生率を背景に、人口爆発とされる急激な人口増加が懸念されたが、21世紀後半以降は人口置換水準を下回る低出生率を背景にした人口減少を懸念する時代となろう。
【図表3】世界の合計特殊出生率
(出典)国連「国連世界人口推計 2024年推計」よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
3.国連の出生率推計のクセ
国連世界人口推計には大きな特徴がいくつかあり、その1つは近年の推計で将来の出生率の下方修正が繰り返されていることである。現在、2095~2100年を最終年とする国連世界人口推計は、2010年推計から2024年推計まで7つあるが、そのうち2015年推計以降では出生率が常に下方修正されている(図表4)。
また、2045~2050年を最終年とする7つの推計と、2095~2100年を最終年とする7つの推計は、最終年が50年離れているにも関わらず、共に最終年の合計特殊出生率は人口置換水準に近くなっている。
国連は合計特殊出生率について、世界各国と地域の格差はいずれ縮小し、人口置換水準近くに収斂すると見ている。その典型例である1994年推計では、推計基準年となる1985~1990年の世界各国の合計特殊出生率は、ニジェールの7.71から香港の1.31までかなり拡散しているものの、最終年の2045~2050年の合計特殊出生率は9の国と地域を除いて人口置換水準の2.1となるとされた。つまり、1985~1990年の合計特殊出生率が人口置換水準を大きく上回る国は今後低下し、逆に合計特殊出生率が人口置換水準を大きく下回る国は今後上昇するとされたのである。
もちろん、国連のこの方針は日本にも適用された。国連の1994年推計で日本の合計特殊出生率を見ると、推計当時の1990~1995年は1.50であるが、その後、反転上昇し、2020~2025年は1.77となり、推計最終年である2045~2050年には人口置換水準の2.1に至るとされた(図表5)。日本の現状を2024年推計で見ると、2020年の合計特殊出生率は1.30で、国連の1994年推計と大きく乖離している。
2024年推計は1994年推計ほど極端ではないものの、このクセが垣間見られる。世界の地域別合計特殊出生率を見ると、格差が徐々に縮小しているのがわかる(図表6)。最も高いアフリカが大きく下がる一方で、最も低いヨーロッパは少し上昇する。また、人口動向で注目される日本、中国、インド、スウェーデン、フランス、アメリカの合計特殊出生率を見ると、高出生率のインドが低下し、低出生率の日本や中国が上昇するなど、各国の格差が縮小しているのがわかる(図表7)。
【図表4】これまでの国連世界人口推計における合計特殊出生率1
(出典)国連「国連世界人口推計」(各年版)よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
【図表5】日本の合計特殊出生率比較2
(1994年推計と2024年推計)
(出典)国連「国連世界人口推計」(各年版)よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
【図表6】地域別合計特殊出生率
(出典)国連「国連世界人口推計 2024年推計」よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
【図表7】主要国の合計特殊出生率
(出典)国連「国連世界人口推計 2024年推計」よりSOMPOインスティチュート・プラス作成
4.おわりに
このように国連世界人口推計には、国・地域間の出生率の格差は、長期的に縮小する、という特徴がある。つまり、国連世界人口推計における中位推計では、世界各国の個別事情をほとんど考慮せず、世界各国を同じような前提条件の下に推計している。そのため遠い将来の推計においては一定の注意が必要である。
一方で、ビジネスの現場などでは、国際比較が必要なケースもあろう。そこで過去の推計とこれまでの実績値を比較して見ると、中位出生率より低位出生率を前提とした推計に近い実績値となっている国も散見される。例えば、日本は1994年の低位推計では合計特殊出生率が1.40で不変とされており、日本の現状に近い。このため、国連世界人口推計を参照する場合は、国によっては中位推計だけでなく低位推計にも注意を払う必要があろう。
世界人口、増加率、年齢3区分別人口について、今回公表された中位推計と低位推計を改めて比較すると、大きな差異が生じている。低位推計では、世界人口は中位推計より31年早い2053年に89億人でピークを迎え、2100年には現在(2023年81億人)より少ない70億人に至る。次に年齢3区分別人口を見ると、年少人口の減少は著しく、2100年には現在(2023年20億人)の半分以下である8億人になる。最も古い推計年の1950年の年少人口が9億人であり、2100年は1950年を下回る低水準となる。生産年齢人口は緩やかに増加するも、中位推計より26年早い2044年に59億人でピークとなり、その後は減少し、2100年には2001年とほぼ同水準の40億人まで減少する。老年人口は現在(2023年8億人)から急増するものの、2089年に24億人でピークを迎え、2100年に22億人となる。特に、少子高齢化の進展による生産年齢人口の急激な減少は、若年労働者を中心に移民獲得競争を激化させ、移民獲得が難しい国や地域は経済社会の維持が難しくなるかもしれない。
なお、2024年推計における地域別・年齢別人口のさらなる分析は、「Insight Plus:アフリカの時代と移民の行方~国連世界人口推計で見る世界②~
」に続く。
- 2015年推計、2017年推計、2019年推計における合計特殊出生率は「2015~2020年」のような区間推計となっており、「2015年」のように区間開始年で表示した。
- 1994年推計の合計特殊出生率は「1990~1995年」のような区間推計となっており、「1990年」のように区間開始年で表示した。
PDF:MB
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