シティ・モビリティ

副業・兼業による人材のシェアが鍵
~地方創生10年の「これまで」と「これから」②~

上席研究員 岡田 豊

国の公表した地方創生10年を振り返る報告書では、今後の地方創生にあり方に関わるいくつかのキーワードが提示された。地方創生のブラッシュアップ版であるデジタル田園都市国家構想も合わせて考察すると、今後の「多極集住」が強まる中で、人口が集まる地域経済の中心都市を中心に「地域交通のリ・デザイン」「スタートアップ」等において、同じような課題を抱えた地域や関連する施策の連携が重要となる。その際に鍵となるのは、リモートワークや副業・兼業の推進により、東京と地方が人材を奪い合うのではなく、人材をシェアする発想であろう。
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はじめに

2024年6月に国から発表された「地方創生10年の取組と今後の推進方向」を題材に、前回のレポート「地方間で人口を奪い合った10年~地方創生10年の「これまで」と「これから」①~」では、地方創生が目的とした東京一極集中是正がうまくいかなかった背景と、その結果、地方間で人口の奪い合いとなっていることを記した。
 同報告書や地方創生をバージョンアップさせたデジタル田園都市国家構想の総合戦略には、地方創生の今後のあり方につながるキーワードが記されている。そこで本稿では、それらのキーワードをもとに、地方創生の「これから」を考察したい。

1.今後は地域経済の中心都市に人口が集まる「多極集住」

今後の地域別人口を見ると、東京一極集中以上に、各道府県で県庁所在地など地域経済の中心都市に集中する「多極集住」が顕著である。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」によると、今後、県庁所在地の多くは人口が減少するものの、同一都道府県内のその他の市町村からの人口流入が続くため、人口減少は緩慢である。その結果、同推計によると、県庁所在地のほとんどで都道府県に占める人口割合が2020~2050年に増加する(図表1)。特に、三大都市圏と北関東のような三大都市圏隣接県を除けば、県庁所在地における人口割合の増加幅(%ポイント)では、2020~2050年の日本全体における東京圏の人口割合の増加幅(4.4%ポイント)を上回るところが多い。例えば、都道府県では今後最も人口減少が進む秋田県では、秋田市の人口減少は緩慢である。そのため、秋田市の秋田県に占める人口割合は2020年の32.1%から2050年の39.4%まで上昇する。
 したがって、今後の課題の一つは、近隣から人口を集めながら東京圏へ人口を流出させる、地域経済の中心都市の「破れたバケツ」状態を打破することである。地方創生では人口規模の小さい自治体をイメージさせる政策が多く、地域経済の中心都市の振興はあまり重視されてこなかった。

≪図表1≫当該都道府県に占める県庁所在地の人口割合

(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」(2023年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

2.新たな発想での地方発ビジネス

今後は地域経済の中心都市を中心に、東京圏への人口流出を減らすべく、サービス業などの地域産業の振興やそのためには生産性を高める努力が重要である。デジタル技術の社会実装などを地方で先んじて進めるなど、デジタルを最大限活用していくことが肝要であろう。例えば、医療・介護や交通、教育、福祉、買い物といった少子化がもたらす地域の課題をデジタルで解決する「スマートシティ」の導入だ。そのために、ばらばらに点在している医療・交通・災害・警備・介護など様々な情報を統合するシステムである「都市OS」が鍵となる。この都市OSとのデータ連携を前提としたデータプラットフォームの構築や、課題をデータに基づき解決するような地域発スタートアップの誕生などが期待されるからだ。これらの市場規模は今後急拡大すると考えられている。デジタルによる地方の社会課題解決ビジネスが、成長産業の一つとして、地方発ビジネスが全国へ、世界へと展開していくことが期待される。
 実際に、このような考えを盛り込んだデジタル田園都市国家構想総合戦略は、まち・ひと・しごと創生法第8条第6項(「情勢の推移により必要が生じた場合には、まち・ひと・しごと創生総合戦略を変更しなければならない」)に基づき、第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略(2020年度~2024年度)が変更されたものである。「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」という地方創生の4つの目的についても、デジタル田園都市国家構想総合戦略に引き継がれている。つまり、デジタル田園都市国家構想は、地方創生の根幹や枠組みを基本的に踏襲しながら、デジタルでさらなるブラッシュアップを図るものといえる。

3.自治体や施策の連携を重視

 デジタル田園都市国家構想総合戦略では、同じような課題を抱えた地域や関連する施策の連携が重要とされる。特に、「地域交通のリ・デザイン」「スタートアップ」などについては、連携が期待できる分野として挙げられている。
「地域交通のリ・デザイン」では、街づくりと地域交通の一体的な取組を通じて、自治体間の連携や交通以外の関連サービスとの共創を進める必要がある。人口減少により地域公共交通に対する需要は長期的に減少し続けているため、鉄道やバスを運行する公共交通事業者の大半が赤字だ。そのため、現在の公共交通網を維持することが困難になるエリアが地域経済の中心都市以外で続出しよう。
 そのようなエリアにおける代替交通手段として、デマンド交通の活用、鉄道からBRT(Bus Rapid Transitの略。連節バスや既存の鉄道路線を利用したバス専用道などにより、定時性、速達性、輸送力をバランスよく実現するバスシステム)への転換、MaaS(Mobility as a Serviceの略。住民や旅行者に対し、複数の公共交通や交通以外のサービスも組み合わせて一括で提供されるサービス)の活用などが増加するであろう。その際、赤字の公共交通事業者単独で新たな取組を進め、事業収益を確保することは容易ではない。従来の行政区域(都道府県や市町村)を超えた事業連携体制や、医療や介護、買い物といった生活に必要な分野との共創などが必要となる。
 また、「スタートアップ」については、その必要性が長らく叫ばれながらも、全国各地で続々と誕生する流れにはいたっていない。その理由として「地方では事業成長のための資金調達手法が限られていること」、「専門人材が東京を中心とした大都市に集中していること」、「事業化に向けた取引先、経営者仲間などのネットワークが大都市に集中していること」の3点があげられる。
 その中で特に、地方は東京圏に比べてベンチャーキャピタルなどの資金の出し手との距離が遠く、大きな資金調達が難しい。そのため、地方発ベンチャーは成長期になると、資金調達の関係で東京圏に移転することが少なくない。この対策として、スタートアップに精通した企業が地方の自治体と組んで、戦略支援にとどまらず、資金調達もサポートする体制を構築する必要がある。地方でも資金調達を行うことが容易になれば、地方発のスタートアップがその地方で大きく発展し、地域経済の担い手となるケースも増えるであろう。同時に、そのようなスタートアップが、その地域で成長していくことに期待を抱くことができるようなまちづくり政策との連携も求められるだろう。

4.副業・兼業による人材のシェア重視

さらに、今後の地方創生の大きな課題の1つは、産業の生産性向上など新たな取組に資する人材の育成・確保であろう。その際、東京圏の大企業にいる人材をいかに活用するかが鍵となろう。
 今回の報告書で注目されるキーワードとして、「副業・兼業」があげられる。この副業・兼業の重要な点は、人口移動にすぐにつながらなくても進められることだ。地方創生は人口減少への対応から始まっているため、東京一極集中の是正に直結する、地方への移住が強く求められてきた。しかし、様々な政策を駆使しながら地方に仕事を作っても、地方創生から10年たって東京一極集中是正に直結する施策はなかなか見いだせていないのが実情である。
 まち・ひと・しごと創生法の名前にあるように、地方移住を促すために仕事の存在が重要であるが、東京圏に負けないほど高い給与水準の仕事を今の地方で用意するのは難しい。実際に、若者の就業が多い業種(情報通信業、医療・福祉、卸売・小売業、宿泊業、飲食サービス業など)におけるフルタイム労働者の賃金水準について、東京圏と地方を比べてみると、初任給では大きな格差がないが、勤続年数が上がっていくにつれ、その差は大きくなる。
 一方、東京一極集中是正において大きな変化が見られたのはコロナ禍以降である。実際に、2023年の東京圏における日本人の転入超過数を2019年と比較すると、30歳以降で減少している(図表2)。これはコロナ禍におけるリモートワークの導入が一部で定着し、職と住の切り離しに成功しつつあることの証左の一つであろう。

≪図表2≫東京圏の日本人における年齢別転入超過数(2023―2019年)

(出典)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(各年版)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

フルタイムの仕事の賃金水準で東京圏を上回るのが難しいのであれば、今後の地方創生では副業・兼業により注目すべきだ。東京圏にいながらリモートワークや余暇の空き時間などを活用した副業・兼業で地方の仕事を担うという、移住を前提としない仕事は、東京圏と地方の間で人材を奪い合うというよりも、人材をシェアするといえよう。東京圏でこれまでの仕事を維持しながら、多様な形で地方の産業振興に貢献してもらうことで、地方と何らかの関係をもつ「関係人口」を増やすことにもつながる。仕事を通じた地方への貢献が大組織の中での仕事よりもやりがいを感じるようになれば、今後、地方と接点を持ちたくなる者が増えることにつながるという、好循環が広がっていくであろう。
 そして、その先には、副業・兼業を通じて獲得した地方と強い結びつきを生かして、地方の空き家を活用して、東京圏以外に地方にもう一つの拠点を持つ「二地域居住」のようなライフスタイルを追求する者や、地方に本格的に移住したいという者も出てこよう。この点でもう一つ注目すべきは「転職なき移住」である。全国各地での居住が認められるフルリモートワークは東京圏の仕事をもちながら、地方に在住して地方で副業・兼業するには非常に好都合だからだ。

5.地方創生に外国人の活用の視点も必要

最後に、地方創生の担い手としての外国人の活用に踏み込むべきだ。国は「いわゆる移民政策」に踏み込む考えは現段階でないという方針を打ち出しており、今回の報告書でも触れられていない。しかし、2014年に民間の有識者グループから発表された「消滅可能性都市」は、2024年には100以上減少しており、その多くは外国人の増加によるものと推察される。すでに、300万人を上回る外国人が日本で生活しており、2023年は過去最高の34万人増加した。人口の10%を超える外国人を抱える自治体も続出している。在留資格の変更もあって、長期的には在留期限のない「永住者」が増加するのは間違いない。地方創生の中で外国人をどのように位置付けるのか、具体的に議論を深めていく段階といえよう。

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