物流の2024年問題の現状と今後の政策動向
~統計に見る解決への現在地と荷主の取組みの重要性~
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1.はじめに
2024年4月1日にトラック運転手の働き方改革に関する規制が施行となり、トラック運転手の年間拘束時間の上限が3,516時間から最大3,400時間に短縮された。また労働者である運転手については、時間外・休日労働が年間960時間以内となった。これによりトラックの輸送力が14%不足すると試算1されており「物流の2024年問題」といわれている。
本稿では、直近の統計値等から、2024年問題解決に向けた現状を確認するとともに、今後の荷主への規制的措置の導入等を中心とした政策の重要性を示す。
2.物流の2024年問題の現状
(1)課題の構造
トラック輸送力不足の主な原因は、トラック運転手が低賃金、長時間労働であり運転手不足となっていること、多頻度少量輸送等によってトラックの積載率が低く、輸送効率が悪くなっていることにある。
トラック運転手が低賃金である理由として、一般にトラック運送事業者の荷主に対する価格交渉力が弱く、トラック運賃が低い水準にとどまっていることがある。
また、長時間労働の理由には、運転時間の他に荷待ち・荷役時間が長いことがある。荷待ちとは、トラックが到着しても荷物を積み下ろすためのバースと呼ばれる場所が空いていない等の理由で、待機しなければいけない状態である。また、荷役も段ボール等を一つずつ手で積み下ろす手荷役が多いことが問題となっている。
こうした課題の改善を図るため、政府は、全産業平均並みの賃金を前提とした「標準的な運賃」を告示し、価格の適正化を促している(≪図表1≫①)。また、トラックの積み降ろし場所を予約することで荷待ち時間を無くすバース予約システムの導入やフォークリフト等機械での荷役ができるパレットの利用を推進することで、時間の適正化を促している(②)。さらに、共同輸配送等を推進し、積載率を適正化することを目指している(③)。以下、順を追って現状を確認し課題を見ていく。
(2)価格の適正化
賃金構造基本統計調査によると、2023年度のトラック運転手の年間所得額は455万円、賞与を除く所定内賃金の時給換算額は1,611円で、働き方改革関連法公布翌年度の2019年度3より上昇している。全産業平均と比べると、年間所得額で▲10%、所定内賃金の時給換算額では▲16%とまだ低い状況だが、2019年度(年間所得額▲14%、所定内賃金の時給換算額▲19%)より改善している≪図表2≫。
その原資となるのは、運賃である。国土交通省の2024年1~3月調査では、希望額の運賃を収受できた事業者が28%と2022年1~3月調査の3%から大幅に上昇し、トラック運送事業者の価格交渉が進んでいることが伺える≪図表3≫。ただし、日本銀行企業向けサービス価格指数を見ると、2019年4月を100とした指標で2024年5月の道路貨物輸送は106.7で、全サービス総平均108.2に対して低くなっており≪図表4≫、運賃は上昇しているものの他産業と比して上昇率は低い。
(3)時間の適正化
賃金構造基本統計調査によるとトラック運転手の年間労働時間は、2023年度2,448時間と2019年度比0.5%しか減少しておらず、働き方改革が進んだとは言い難い≪図表5≫。
また、2024年度より年間の時間外・休日労働時間が960時間までに制限されているが、全日本トラック協会の調査によると2023年10月時点で25.9%のトラック運送事業者で960時間超の時間外・休日労働がみられた≪図表6≫。全日本トラック協会では、960時間超の運転手がいる事業者の比率を年度ごとに5%ずつ減少させる目標を立てていたが、達成できていない。2024年度末には時間外・休日労働960時間超の運転手がいる事業者を0%としなければならないが、2023年10月時点での乖離は大きい。
(4)積載率の適正化
自動車輸送統計調査によると営業用普通貨物自動車の積載率は、2019年度37.8%から2023年度40.0%と若干改善している≪図表7≫。ただし、政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」では2024年度の積載率目標を片道は満載とすることを意味する50%としており、目標までは開きがある。
積載率の向上には、多頻度少量輸送の見直しや共同輸配送等による荷物のとりまとめが必要となるが、対策は進んでいないと考えられる。
(5)小括
以上のとおり、運転手の賃金は目標とする全産業平均には届かないものの上昇している。一方で、トラック運送事業者単独では是正が難しく、荷主との協力が必要なトラック運賃の上昇、荷待ち・荷役時間の削減等による長時間労働の是正、共同輸配送等による積載率の向上については、いずれも十分とは言えない。
帝国データバンクが2023年12月~2024年1月に行った調査8によると、物流の2024年問題について特に対応していない企業が24.6%となっている。対応しない理由としては、問題が生じていないがうち34.6%、問題が生じた際に検討するがうち33.6%だった。働き方改革に伴う労働時間規制は2024年4月1日から始まっているが、荷主の協力が十分に進まないまま施行を迎えたと考えられる。
3.物流効率化と働き方改革に向けた規制強化
2019年度からの5年間に、働き方改革に向けた荷主の協力と運転手の長時間労働の是正が十分に進まなかったことから、荷主への規制強化等を目的に流通業務総合効率化法(旧・物流効率化法)と貨物自動車運送事業法が改正され、2024年5月15日に公布された。また、2024年6月1日から標準的な運賃が平均8%値上げされている。このほか運送事業者に対しては、労働時間等の違反に対する処分の強化も予定されている。
(1)荷主等への規制強化
流通業務総合効率化法では、一定規模以上の荷主を「特定荷主」、一定規模以上の連鎖化事業者(フランチャイズ本部等)を「特定連鎖化事業者」に指定し(以下、特定荷主及び特定連鎖化事業者を「特定荷主等」とする。)、物流の効率化に対する取組みに関して規制的措置を導入する。
特定荷主等は、物流の効率化に対する責任者として物流統括管理者(Chief Logistics Officer、CLO)を選任し、物流の効率化に関する中長期計画を策定して、共同輸配送の推進や機械荷役の推進等のトラック運転手の負担軽減、物流の効率化に取り組むことが義務付けられる。また、取組状況については定期報告を行うこととなる。
また、経済産業大臣等荷主事業の所管大臣9は物流の効率化に関する判断基準を定め、すべての荷主等に対し、指導・助言を行うことができる。特に特定荷主等に対しては、是正が必要な場合には所管大臣が判断基準に照らして勧告を行うことができ、勧告に従わない場合には会社名の公表ができる。さらに、審議会の審議を経て是正を命令することができ、特定荷主等が命令に従わない場合百万円以下の罰金となる。所管大臣は、規制的措置の調査のため、報告の徴収や立入検査も行うことができる。
なお、運送事業者及び倉庫等物流施設についても、一定規模以上の事業者は同様に「特定事業者」に指定されるが、物流統括管理者の選任は行わなくてよい。
特定荷主等の指定基準及び所管大臣の判断基準については、2024年6月28日から国土交通省、経済産業省及び農林水産省の合同会議10で検討が開始されており、今後パブリックコメント等を経て2025年初に政令として公布される予定11となっている。指定基準については「取扱貨物量が多い順に日本全体の貨物量の半分程度」とする案12が示されている。
(2)運送事業者への規制強化
流通業務総合効率化法による物流の効率化の他、貨物自動車運送事業法によって、運送事業者には下請け関係の適正化、特に運賃の適正化と多重下請けの是正を目的とした規制的措置も導入される。
トラック運送では、荷主から運送を請け負った元請運送事業者が他のトラック運送事業者に荷物を委託することがあるが、この下請けが多重化し、荷主が標準的な運賃を支払っていても実際に運送する事業者が十分な運賃を受け取っていないことがある。そのため、改正貨物自動車運送事業法では、すべての元請運送事業者に対して、実際の運送を行っている事業者を記録する実運送管理体制簿の作成と荷主への開示を義務付ける。また、実際に運送する事業者が十分な運賃を受け取れるように、荷主と交渉する努力義務を課し、下請けを原則二次までにするよう規制する。さらに、一定規模以上の元請運送事業者を特別貨物自動車運送事業者に指定し、下請け関係の適正化に取り組むための運送利用管理規程の策定と、運送利用管理者の選任を義務付ける。
特別貨物自動車運送事業者の指定基準については、2025年初に政令で公布される見込みであり、「貨物自動車利用運送を行う重量が多い順に、日本全体の貨物自動車利用運送の重量の半分程度となる事業者」とする案13が示されている。
また、長時間労働の是正が進んでいないことから、国土交通省は、トラック運送事業者が勤務時間等告示に違反した場合の行政処分の量定を2025年初から引き上げる方針を示している。勤務時間超過等の違反があった場合、現行では件数や初違反か否かに応じて最大40日車15の車両停止処分が課せられる。改正案では6件以上の違反がある場合に車両停止処分が重くなる≪図表8≫。2025年初以降は、多数の違反があるトラック運送事業者は、長期間にわたり車両が使用できなくなる可能性がある。
4.おわりに
トラック運転手不足から運転手の賃金は改善傾向にあり、また働き方改革に伴う運転手の労働時間規制が2024年4月1日から施行された。一方、運賃の適正化、荷待ち・荷役時間の削減等による長時間労働の是正、積載率の向上は十分には進んでいない。
帝国データバンクの調査16によると、賃金上昇や人手不足等もあり、道路貨物運送業者の倒産件数は4年連続増加し、2024年上半期は186件と過去2番目の高水準となった。物流の効率化と働き方改革の強化策として、改正流通業務総合効率化法及び貨物自動車運送事業法が2025年5月15日までに施行されることとなっているが、物流の2024年問題への対応は既に待ったなしの状況と言える。
特定事業者に相当する可能性が高い大口荷主や大手運送事業者を中心に、標準的な運賃を基にした適正な運賃水準の実現、バース予約システムの導入や手荷役の廃止といった荷待ち・荷役時間の削減、共同輸配送等の積載率の向上に向けた取組みを、流通業務総合効率化法の施行を待つことなく進める必要があると考えられる。トラック運送事業者は、荷主等の協力を得てこれらの取組みを着実に積み上げるとともに、下請け関係の適正化をはかることも求められる。
- 株式会社NX総合研究所(2022年11月11日)「国土交通省・農林水産省・経済産業省 第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会資料1「物流の2024年問題」の影響について(2)」p.1
- 年間所得額=きまって支給する現金給与額×12か月+年間賞与その他特別給与額、所定内賃金の時給換算額=所定内給与額÷所定内実労働時間とした
- 働き方改革関連法は2018年7月6日に公布され、2019年4月1日から順次施行されたが、自動車運転の職業については取引慣行等に課題があるとして2024年4月1日まで5年間施行が猶予され、2019年度から2023年度の間に課題の改善を図ることとされていた。
- 国土交通省(2024年6月28日)「標準的運賃に係る実態調査結果の概要(令和5年度)」、国土交通省(2023年5月12日)「標準的な運賃に係る実態調査結果の概要(令和4年度)」及び国土交通省(2023年5月12日)「(参考)標準的な運賃に係る実態調査結果の概要(令和3年度)」。なお、各年度調査において一部選択肢が異なっており、令和3年度調査の「(荷主から)理解を得られた」を「希望額を収受できた」、「(荷主から)一定の理解を得られた」を「一部収受できた」、「(荷主の)理解を得られなかった」を「収受できなかった」とした。また、令和3年度調査では「交渉に応じてもらえなかった」、令和5年度調査では「交渉中」の選択肢がそれぞれ設けられていない。
- 年間労働時間=(所定内実労働時間数+超過実労働時間数)×12か月
- 全日本トラック協会(2024年3月)「第6回 働き方改革モニタリング調査について」pp.1-2及び全日本トラック協会(2022年3月)「第4回 働き方改革モニタリング調査について」p.2
- 積載率=輸送トンキロ÷能力トンキロ
- 帝国データバンク(2024年1月26日)「2024年問題に対する企業の意識調査」pp.3-4
- 商工業は主に経済産業大臣、農林水産業は農林水産大臣、倉庫・運輸・建設業は国土交通大臣等が想定される
- 国土交通省 交通政策審議会 交通体系分科会 物流部会・経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 流通小委員会・農林水産省 食料・農業・農村政策審議会 食料産業部会 物流小委員会 合同会議(以下「合同会議」)
- 合同会議(2024年6月28日)「資料3 今後の検討の進め方について(想定)」
- 合同会議(2024年6月28日)「資料2 改正物流効率化法に基づく基本方針、判断基準、指定基準等について」p.16、なお指定規模の推定についてはSOMPOインスティチュート・プラス(2024年6月28日)「改正物流効率化法による規制強化の具体的議論始まる~物流の2024年問題解決に向けた荷主・運送事業者規制~」を参照。
- 合同会議(2024年6月28日)「資料2 改正物流効率化法に基づく基本方針、判断基準、指定基準等について」p.16
- 国土交通省(2024年7月1日)「自動車運送事業者に対する行政処分等の基準の改正案について」
- 日車とは運行を停止する車両数×日数の合計を言う。従って、40日車の場合、40両を1日使用停止(40両×1日)にしても良いし、1両を40日使用停止(1両×40日)にしても良い。
- 帝国データバンク(2024年7月5日)「「道路貨物運送」倒産動向(2024 年上半期)」
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