シティ・モビリティ

物流の2024年問題と高速道路料金の見直し
~トラック運送と深夜労働に与える影響~

主任研究員 水上 義宣

トラック運転手の低賃金・長時間労働を是正する働き方改革が2024年4月1日に施行され、トラックの輸送力不足が懸念される「物流の2024年問題」に注目が集まっている。そうした中、深夜割引の見直しと長距離逓減を柱とする高速道路料金の見直しが予定されている。新しい高速道路料金体系では、深夜労働と長距離の連続走行を助長することが懸念される。
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1.はじめに

2024年4月1日からトラック運転手の拘束時間規制が厳しくなり年間の上限が3,516時間から最大3,400時間に短縮された。NX総合研究所によると、これによりトラックの輸送力が14%不足1する。この問題が「物流の2024年問題」といわれ注目が集まっている。そうした中、2024年度には深夜割引の見直しを中心とした高速道路料金の見直しが予定されており、運転手の深夜労働の増加や長距離輸送の負担増加が懸念される。本稿では高速道路料金の見直しがトラック運送に与える影響について論じる。

2.高速道路料金の見直し

(1)深夜割引の課題

高速道路料金の深夜割引は、並行する一般道路の環境改善、ETCの普及及び交通容量に余裕がある深夜への通行量シフトを目的として2004年に開始され、0時から4時の間に高速道路上に居れば料金全体が3割引となる制度2である。

この制度により、並行する一般道路から高速道路へ交通がシフトし、騒音等の沿道環境が改善したと評価3される。一方で、特にトラックを中心に0時~4時に料金所を通過するため、0時直前に主要料金所周辺に滞留する、いわゆる「0時待ち」が起こり問題視されてきた。また、深夜にトラックが集中することによりSA・PAの大型車駐車枠が埋まり、トラックの休憩場所が確保できないという課題も発生した。さらに、割引を適用された中型車以上のうち、0時~4時に走行していた距離は38.5%であり、残りの62.5%は対象外の時間の利用が割り引かれており4、高速道路の深夜の交通容量の活用効果はやや不明瞭であった。

(2)深夜割引の見直しと長距離逓減の拡充

前項の課題認識を踏まえ、国は高速道路料金体系の見直しに着手し、2024年1月20日に国土交通省とNEXCO3社5が共同で高速道路の深夜割引の見直しを発表した。本改定は、「深夜走行分のみを割引く」ことを主眼とし、激変緩和措置として「長距離基本料金の逓減拡充」「大口・多頻度割引の拡充」を組み合わせたものである。

現在の深夜割引は、0時~4時を含んで走行しETCで料金所を通過した場合、その場で全区間の料金に3割引を適用するが、見直し後は適用時間帯を22時~5時に拡充した上で、高速道路上のETCアンテナによって適用時間帯に走行した距離を判定し、後日のETC料金請求時に適用時間帯走行分について3割引を適用する《図表1》。ただし、適用距離を伸ばすために無理な走行をしないよう、適用距離は法定速度と休憩時間の確保を前提とした上限値が設けられる6。また、高速道路を22時台に流出した場合は2割引となる。

≪図表1≫深夜割引の見直し

激変緩和措置としては長距離逓減を拡充し、400km超の基本料金を引き下げることとするほか、1,000km超の部分については走行している時間帯に関係なく3割引の深夜割引適用を2029年度まで継続する。さらに、2024年度末まではETC大口・多頻度割引を最大4割引から最大5割引に拡充するとしている。

料金の変更例8は、《図表2》のとおりとなる。昼間の運行では400km超の利用で値下げとなるほか、22時~0時に高速道路を流出していた運行と4時~5時に高速道路に流入していた運行では新たに深夜割引が適用となる

一方で、深夜と深夜以外をまたぐ運行では、22時~5時以外の走行分はほぼ値上げとなり、特に0時直後に流出したり4時直前に流入したりしていた運行では大きな値上げとなる。また、500km超を運行する場合は、そもそも深夜帯のみで走りきることは難しいことから、基本的に値上げとなる。

≪図表2≫ 長距離逓減の拡充と見直し前後の高速道路料金例

3.料金見直しによる深夜労働への影響

高速道路の深夜割引の適用が22時~5時の走行分に限られるようになることから、高速道路料金を安くするためにトラックの運行が深夜に偏ることが考えらえる。一方で、22時~5時にトラックを走行させると運転手の賃金に対して25%の深夜割増が発生する。また、国土交通省が告示しているトラックの標準的な運賃10(以下「標準的な運賃」)では、深夜割増賃金や深夜運行の手配に対する手間として、荷主が運送会社に2割増の深夜・早朝割増運賃を支払うように定めている。この点について、トラック運送を依頼する荷主とトラック運送会社それぞれの視点から見ていく。

(1)標準的な運賃と深夜運行

標準的な運賃では高速道路料金等の実費は、運賃と別に払うよう定めている。また、深夜・早朝の運賃は2割増となっている。このため、荷主が深夜走行を指定すると高速道路料金は割引となるが、割増運賃を負担することとなる。

具体的な金額は各距離帯により異なるが、200km~400km帯で比較すると、高速道路料金の割引は9.4円/kmだが、運賃の深夜割増は64.4円/kmとなる《図表3》。従って、標準的な運賃を支払っている荷主にとっては、深夜走行の指定は55円/kmの負担増となるため、必要性がなければ深夜走行を指定することは考えにくい。

≪図表3≫ 1kmあたりの高速道路料金と標準的な運賃

ただし、国土交通省が2023年2月に行った調査《図表4》では、標準的な運賃をもとにした運賃交渉を行い希望する運賃を収受できたと回答した運送会社は21%にとどまっており、実際の荷主の負担は標準的な運賃を下回っている可能性が高い。また、2022年1~2月に国土交通省が行った調査によると高速道路料金を全額支払っている荷主は44.6%11にとどまる。その他、運送の時間に余裕がある場合、荷主は昼間運行を前提とした運賃・料金を支払い、実際の走行時間帯は運送会社に委ねられていることも考えられる。

≪図表4≫ 2022年度トラック運賃交渉の結果

(2)運送会社における深夜走行

前述のとおり、必ずしも深夜割増運賃や高速道路料金を荷主から収受できていない現状においては、運送会社は荷主の指定する発着時間の範囲内で、高速道路料金や運転手の割増賃金を考慮して運行時間帯を決定すると考えられる。

2023年6月の賃金構造基本統計調査によると道路貨物運送業の所定内賃金13は1,611円/時となっており、25%増となる深夜割増賃金は403円/時となる。一方、大型トラックの高速道路における法定速度は90km/hであるため平均80km/hで走行すると考えると1時間あたりの高速道路の深夜割引額は9.4円/km×80km=752円となる。高速道路料金の深夜割引と運転手に対する深夜割増賃金だけに着目すれば、運送会社にとっては深夜走行を選択することが合理的となる。

ただし、平常時から高速道路を利用し、大口・多頻度割引が最大限適用されている運送会社では、大口・多頻度割引が最大5割引となることから、深夜割引の効果は半分の376円/時となり、深夜割増賃金の方が高くなる。また、深夜運行が増えることでトラック運転手の人手不足や負担に拍車がかかる懸念があり、深夜運行や長距離運行を避ける会社もあると考えられる。

秋田県トラック協会が2023年に会員運送会社に行った調査《図表5》では、高速道路料金見直しに伴う運賃交渉で荷主から満足な結果が得られない場合の対応として、「深夜時間帯に走行する」が21.6%、「一般道を利用する」が21.6%と、高速道路料金の節約が人件費の増加より大きいことがうかがえる。一方で、「長距離運行を減らす・辞める」と回答した会社も23.9%あり、経費の増加や運転手の負担を考えると長距離運行そのものを取りやめる傾向も見える。

≪図表5≫ 高速道路料金見直しへの対策

以上より、標準的な運賃に基づく深夜割増運賃や高速道路料金が収受できていない現状においては、深夜割引の見直しが、深夜労働の増加や経費の増加を通して、運送会社や運転手の負担増につながる懸念は小さくない。今後も適正な運賃や高速道路料金を運送会社が荷主から収受できなければ、長距離運行から撤退する運送会社が増加し、トラック輸送力のひっ迫がより進む恐れがある。

《BOX》運転手賃金体系と深夜割引の見直し  全日本トラック協会の調査(15)によると、大型男性トラック運転手の賃金は24%が歩合給、22%が時間外手当で構成されている。深夜労働を避けることは労働環境の改善にはなるが、時間外手当が減少するため、運転手の所得を減少させる可能性がある。 また、運行手当等の歩合給を計算する際に、売上から高速道路料金等の経費を差し引いた粗利益を基準とする会社もあり、高速道路料金の値上げを荷主に転嫁できない場合、歩合給を通じて運転手の所得を減少させる可能性がある。 道路貨物運送業の年収は全産業平均と比べて10%低く(16)、運転手不足の一因にもなっているため、高速道路料金の値上げが運転手の所得減少につながらないようにする上でも、荷主が適正な運賃と高速道路料金を負担することが重要になる。

4.割高になる中継輸送

深夜割引の見直しによる高速道路料金の値上がりを抑える目的で400km超の基本料金は引き下げられる。これにより影響を受けるのが、運転手の長時間労働を解消するために複数のトラックで中継して荷物を運ぶ中継輸送である。

250km、500km、1,000kmの高速道路料金の見直し前後の比較は《図表2》のとおりである。例えば500kmの運送を一台のトラックで高速道路を降りることなく実施した場合、現在の高速道路料金で17,340円、見直し後16,890円となる。しかし、運転手が日帰りできるように、これを250kmで分割し、250km地点で高速道路を降りると、高速道路料金は9,530円×2=19,060円となる。見直し後に料金が値下げされるのは400km超の利用なので、この場合見直し後も19,060円となる。従って、中継輸送にかかる費用負担は現在より拡大する《図表6①》。

また、1,000kmを運送する場合を考えると、走行だけで16時間近くになることから途中で休息を挟み、2日分の勤務によって運送することになる。この運送を500kmで分割して中継すれば、運転手は高速道路外で休息した上で出発地点に折り返すことができる。しかし、長距離逓減を利用するには高速道路を降りずにSA・PAで休息し1,000km連続で走行する必要がある。現在は、1,000km連続で利用した場合の料金32,970円に対し、500kmで分割した場合の料金は34,680円と1,710円の負担増で済む。見直し後の料金では連続利用28,950円に対し、分割すると33,780円と中継輸送は4,830円の負担増となる。また、1,000km連続で走行するトラックは勤務間休息のため長時間SA・PAに駐車することになる《図表6②》。

深夜割引を目的とした「0時待ち」によるSA・PAの混雑が問題視されたことから、日本高速道路保有・債務返済機構ではSA・PAの利用実態調査を行った。大型車駐車枠が混雑しているSA・PAについて、休息をとるために8時間以上駐車している車両が駐車時間の60%を占有しているという結果17が出ており、大型車駐車枠ひっ迫の一因となっている。長距離逓減の拡充はこうした勤務間休息でのSA・PA利用を増加させる可能性がある。

5.おわりに

高速道路の深夜割引は、並行する一般道から高速道路に利用をシフトさせ、騒音等の沿道環境を改善する効果を上げた。しかし、渋滞等の要因となる「0時待ち」等の問題があることから2024年度内の見直しが予定されている

一方で、トラック運送は運転手の拘束時間の上限が厳しくなったことから、輸送力不足が懸念される「物流の2024年問題」に直面している。低賃金、長時間労働という運転手の労働環境を改善する必要があり、長時間労働の解決策として中継輸送等が推進されている。

見直し後の高速道路料金は深夜割引を深夜走行分に限ることと、長距離逓減の拡充を柱としている。深夜割引の見直しは、深夜割増運賃や高速道路料金を荷主から十分に収受できていない現状では、トラック運転手の深夜労働や運送会社の長距離運行からの撤退を助長する恐れがある。

また、長距離逓減の拡充は、結果として、中継せずに長距離を一人の運転手が運送することを有利にする。長距離の高速道路料金が引き下げられることでモーダルシフトを鈍化させる可能性もある。

以上より、高速道路料金の見直し実施にあわせて、深夜割引適用のための時間調整や深夜労働により運転手の労働環境が悪化しないよう、標準的な運賃に基づいた適切な運送契約の締結を推進し、荷主が深夜割増運賃及び高速道路料金を支払う契約を広げていくことがより重要となる。また、高速道路料金の激変緩和措置は必要であるが、中継輸送の推進等を考慮すると、今後のトラック運送の動向も注視しつつ、長距離逓減の拡充ではなく、短距離を含めた大口・多頻度割引の更なる拡充等を検討することも必要と考えられる。

  • 国土交通省・農林水産省・経済産業省 第 3 回 持続可能な物流の実現に向けた検討会(2022 年 11 月 11 日) 資料 1 NX 総合研究所「「物流の 2024 年問題」の影響について(2)」p.1
  • 2024年3月現在。なお、割引率は何度か変更されているほか、高速自動車国道及び一部の有料道路以外の高速道路・有料道路は独自の料金となっている。
  • 国土交通省 社会資本整備審議会 道路分科会 第58回 国土幹線道路部会(2020年11月4日)資料6「これまでの料金見直しの評価」p.10
  • 国土交通省 社会資本整備審議会 道路分科会 第58回 国土幹線道路部会(2020年11月4日)資料6「これまでの料金見直しの評価」p.14
  • 東日本高速道路、中日本高速道路及び西日本高速道路、以下同じ
  • 制度上の上限距離は法定速度にメーター誤差の5km/hを加算し、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」に定めらえている4時間につき30分の休憩取得を前提とする方針が示されていることから、大型車では(90km/h+5km/h)×6.5時間=617.5kmになると考えられる(NEXCO3社(2023年11月7日)「深夜割引の見直しにおける無謀な運転の抑止策(案)」)。ただし、実際には80km/h×6.5時間=520km程度が22時~5時に大型車が走行できる距離の限界と考えられ、本稿では深夜の走行距離を500kmとした。
  • 国土交通省(2023年12月22日)「新たな高速道路料金に関する基本方針 参考資料」p.7
  • 本稿における料金・運賃等の例は特段の記載がない限り税込額とし、端数処理等は公表されている基準によった。ただし、あくまでも当社試算であり、実際の料金・運賃等を示すものではない。
  • 国土交通省(2023年12月22日)「新たな高速道路料金に関する基本方針 参考資料」p.7
  • 標準的な運賃は2024年6月1日に平均8%値上げした改正運賃が施行される。本稿では特に記載がない場合は、2024年6月1日以降の関東運輸局大型車距離制の標準的な運賃を前提として試算額を示す。
  • 国土交通省「R3年度トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」p.39
  • 国土交通省(2023年5月12日)「標準的な運賃に係る実態調査結果の概要(令和4年度)別紙」p.1
  • 所定内給与額÷所定内実労働時間数=所定内賃金(時給換算)とした。
  • 秋田県トラック協会(2023年4月21日)「高速道路の深夜割引料金見直しに関する実態調査 第二弾 アンケート調査結果」p.6
  • 全日本トラック協会(2023年8月10日)「2022 年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態(概要版抜粋)」p.9
  • 2023年6月の賃金構造基本統計調査
  • 日本高速道路保有・債務返済機構 高速道路SA・PAにおける利便性向上に関する検討会(2023年2月3日)「高速道路SA・PAにおける利便性向上の方向性 中間とりまとめ 参考資料」p.24

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