企画・公共政策

女性の正規雇用の増加
~コロナ期以降の構造変化~

主任研究員 菅沼 健司

コロナ期以降の雇用者数を男女別かつ正規・非正規別にみると、女性の正規雇用のみがはっきりと増加する特徴的な動きとなっている。本稿ではこうした女性の正規雇用増加について、年齢階級などの属性別に、その経済的・制度的背景を分析した。過去数年間、女性の正規雇用は高齢者層を除いて幅広く増加しているが、最も増加幅が大きいのは20代から30代前半の比較的若年層である。その背景には、大卒女性人数の増加と企業側の正社員ニーズ増大が合致していること、育休の活用促進が女性の正規雇用の継続につながっていることが挙げられる。年齢の上昇に沿って女性の正規雇用比率が低下する「L字カーブ」は依然存在するが、足もと増加している比較的若年層の女性正規雇用者が、今後も正規で働き続けられる環境の整備が一段と進めば、女性のキャリア形成の深化と共に、L字カーブの解消も視野に入って来よう。
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1.女性の正規雇用増加とその内訳(業種別、雇用者の年齢階級別)

ここ数年、女性の正規雇用の増加傾向が目立っている。本レポートでは、その経済的、制度的な背景を、年齢階級等の属性別に探るとともに、女性のキャリア形成の深化につながる動きかどうかを考察する。

わが国の雇用者数の動きを男女別・雇用形態別に確認すると、コロナ期以降に動きが大きく変化している《図表1》。2019年以降、男性の正規雇用はそれまでの増加トレンドから横ばいに変わる一方、女性の正規雇用は一貫して増加を続けている。一方、非正規雇用は男女ともコロナ期に大きく減少した後、2022年以降は緩やかな増加に転じたものの、足もとでもコロナ前の水準を下回っている。その結果、4形態全てで雇用者数が増加していたコロナ前(2013~19年)と比べると、コロナ以降(2019~23年)は、女性の正規雇用者数だけが明確に増加する形となっている。

次に、2019年以降の男女別の正規雇用の変化を、業種別に確認する《図表2左》。まず、コロナ以降の男性の正規雇用増加は、「医療・福祉」と「情報通信」の2業種に集中しており、前者はコロナ対応や社会の高齢化に伴うニーズ増加、後者は経済のデジタル化等が影響しているとみられる。一方、女性の正規雇用については、医療・福祉では男性同様に増加が目立つものの、その他の業種でも幅広く増加している点が。男性との大きな違いとなっている。このことは、女性の正規雇用増加には、コロナやデジタル化以外の様々な背景があることを示唆している。

また、女性について正規雇用と非正規雇用の動きを業種別に比較すると《図表2右》、「医療・福祉」「教育・学習支援」「公務」では両者とも増加、「宿泊・飲食」は両者とも減少しており、非正規から正規への目立ったシフトは観察されない。「医療・福祉」の増加は、前述のコロナ対応や構造的な人手不足対応、また「宿泊・飲食」の減少は、コロナに伴う対面型サービスの業況悪化といった、いずれもマクロ的な要因を反映していると考えられる。一方で、「製造業」や「情報通信」、「不動産・物品賃貸」といった、グラフ中央の様々な業種では、非正規雇用が微減となる一方、正規雇用は増加している。こうした業種では、一部に非正規から正規へのシフトが起きている可能性を示唆している。

これらの結果、雇用者数に占める正規雇用の割合をみると《図表3左》、男性は、図表1でみたこの間の非正規雇用の変化を映じて、コロナ期前半(2020~21年)には上昇したものの、2022年以降は低下している。一方女性は、コロナ期に大きく上昇した後、非正規雇用が回復に転じた2022年以降も上昇が続いており、対照的な形となっている。

さらに、コロナ期以降の女性の正規雇用割合の変化を年齢階級別にみると《図表3右》、65歳以上の高齢者層を除くすべての階級で正規雇用割合が上昇しているものの、詳しくみると「25~34歳」「35~44歳」「45~54歳」「55~64歳」の順で伸びが大きく、比較的若年層で上昇が顕著であることが分かる。以下では、こうした年代を中心に、女性の正規雇用が増加している属性と、各々の増加に影響していると考えられる経済的・制度的要因を考察する。

2.年代別にみた正規雇用の増加の分析

(1)20代:高学歴の女性増加と企業側のニーズ増大のマッチング

まず、20代の女性正規雇用の増加については、この世代は就業年数が短い層であることから、「女性の新卒採用において正規雇用が増加したこと」を反映していると考えられる。背景については、供給面からは、女性の高学歴化が進み、正規雇用を希望する女性が増加したこと、需要面からは、制度変更等も含め、女性の正規雇用に対する企業のニーズが増加したことがあると考えられる《図表4》。

<供給(労働者)側の状況>

まず、供給(労働者)側について、足もとの正規雇用の変化を学歴別に確認する《図表5》。女性の正規雇用は「大学卒」の増加が目立っており、増加幅は男性・正規の約2倍となっている。こうした動きは、コロナ以前にもみられており、女性の正規雇用者に占める大学・大学院卒の割合は、この10年で約10%ポイントも上昇している。高学歴化が進む中で、卒業後の就職先としても、大学・大学院で学んだ専門知識を生かせるような、正社員希望の女性が増加していると考えられる。

<需要(企業)側の状況>

次に、需要(企業)側からみると、複雑化する経済・社会へ対応するべく、男性とは異なる視点や強みを持つ可能性のある女性を正規雇用して、従業員ポートフォリオの多様化を進めるニーズの増加が考えられる。それに加えて、ここでは女性の正規雇用を一段と押し上げたと考えられる制度要因を、2点考察したい。

第1に、2016年に施行された「女性活躍推進法」は、女性が働きやすい社会の実現を目的として、企業に労働環境の整備を進めることを促し、定量的な指標の開示を義務付けている。開示項目には、例えば「管理職に占める女性割合」や「入社10年目の男女別の雇用継続割合」といった、女性の正社員の雇用が計数の改善に必須となっているものも含まれている。

施行当初は、対象は従業員301人以上の企業のみで、かつ開示項目も「職業生活に関する機会の提供(7項目)」と「職業生活と家庭生活の両立(7項目)」から1つを選択する形式だった(2020年には各1つに強化)ため、必ずしも女性の正規雇用に関連した項目を選ぶ必要がなかった。しかし、2022年に必須開示項目に追加された「男女の賃金の差異」は、全体及び雇用形態別の公表が義務化されており、この水準を改善するには、男女の正規雇用割合の差を小さくする必要がある1。また同時に、(項目の要件は大企業対比緩いものの)従業員「101~300人」の中堅企業にも、開示義務化の対象範囲が拡大された。これらの制度変更は、企業にとって女性の正社員採用のニーズを押し上げる要素となったことが示唆される。また、同じ女性活躍推進法においては、2016年には女性活躍に積極的な企業に「えるぼし」を認定する制度が開始され、2020年には最上位の「プラチナえるぼし」も新設された。こうした制度も、女性活躍の基準を示す指標として、企業における女性の正規雇用増加の動機付けとなっていると考えられる。

実際、雇用者数の変化を規模別にみると、大企業ほど女性正規雇用の増加幅が大きい《図表6》。同じ傾向は男性・正規にもみられるため、規模の違いも関係している可能性はあるが、「1,000人以上」では、女性正規の増加幅が男性正規の約2倍となっており、特に大企業で女性正社員へのニーズの強さが示唆される。

第2に、対投資家目線で「女性活躍に積極的な会社であること」を示すニーズの高まりが考えられる。近年、企業業績への影響等を理由に「投資の判断基準に女性の活躍情報を用いる」投資家が増加している《図表7》。また、有価証券報告書にも、2023年3月期から「女性の管理職比率」や「男女の賃金格差」、「男性の育休取得率」の記載が義務化された。こうした点も、女性の正規雇用の増加に繋がっていると考えられる。

(2)30~40代:育休制度の充実による正規雇用の維持

次に、30~40代の女性の正規雇用の増加については、同年齢層が主に子育て世代に当たることから、育児休業などの制度の整備が進んだことを背景に、出産後も正規雇用を継続する女性が増加したことが考えられる《図表8》。この点を、雇用が増加している属性および、制度面の変更点から確認する。

<正規雇用が増加した属性>

まず、正規雇用の変化を「配偶関係」と「世帯主との関係」から確認する《図表9》。男性は「未婚・単身世帯」の増加と「有配偶・世帯主」の減少がみられ、未婚率の上昇等によるものと推察される。女性でも「未婚・単身世帯」の増加は同様だが、一方で「有配偶・配偶者」も男性とは対照的に大幅増となっている。 

第2に、女性の正規雇用を、一般(フルタイム)労働者と短時間労働者に分けてみると《図表10》、時短正社員は正社員の5%弱に過ぎないものの、その人数はこの10年で約1.6倍にも増加している。こうした点は、以下に述べる、育休復帰後の短時間勤務制度の整備が進んだこと等が影響したと示唆される。

<制度面からの後押し>

こうした、出産後も女性の正規雇用を維持する制度としては、「育児・介護休業法」が大きな役割を果たしている。2000年代までは、半数弱の女性が出産時に退職しており、出産前から無職の女性と合わせると、7割が出産後に非就業となっていたが、足もとでは出産後も就業継続する女性は約6割に達している《図表11》。背景には、複数回の改正を経て「短時間勤務」や「看護休暇」等の制度が整備されたことで、育休取得後の職場復帰が進み、女性の育休取得割合が8割まで上昇したことが挙げられる。また、「就業を希望する非労働力人口」のうち、就業できない理由に「出産・育児」を挙げる回答も、減少幅が拡大している。

また、長らく低水準だった男性の育休取得率も、2020年度には10%を突破するなど、足もと急上昇している。2022~23年には制度が大幅に改正され、①出生児育児休業(男性版産休)の新設、②育休の分割取得の新設、③会社からの育休制度通知・促進の義務化が行われた。実際の取得日数にはまだバラつきはあるものの、こうした男性の育児参加の増加も、女性の正規雇用の継続に寄与していることが示唆される。

加えて、育休制度の整備に積極的な企業を評価する枠組みも始まっている。「次世代育成支援対策推進法」のもと、2017年に開始した「くるみん」は、「男女の育休取得率」や「女性の職場復帰率」等の基準を満たした企業を認定しており、企業にとっては「女性が出産後も働きやすい職場である」ことを外部にPRするツールとなっている。2022年の改正では、認定要件が引き上げられると同時に、入口段階として「トライくるみん」が新設された。取得済みの企業に対して、育休制度の一段の充実を促すと同時に、新たに制度の整備を講じる企業へのインセンティブとしても、女性の正規雇用の増加に繋がり得ると考えられる。

(3)50代:非正規雇用からの正規転換

図表2を使って前述したとおり、一部の業種では非正規雇用から正規雇用へのシフトや転換が生じる形で、女性の正規雇用が増加している面もあると考えられる。その中でも、同一企業内で一定期間勤務した非正規雇用者が無期転換(正規転換)するケースは、中高年の女性の労働者を主体に増加しているとみられる。以下ではその点を確認していく。

2013年施行の改正労働契約法では、「無期転換ルール」が定められた。これは、「同一使用者との有期労働契約が通算5年を超えた時に、労働者の申込みによって無期労働契約に転換される(雇用者は拒否できない)」制度であり、2018年には無期転換権を有する労働者が初めて生じた。

無期転換ルール自体は、雇用契約上の期間の変更であり、必ずしも(無期雇用の一部である)正規雇用化は要件となっていない。もっとも、同制度の施行に合わせて、優秀な人材の囲い込み等を企図して、独自の無期転換ルールを定める企業もみられ、その中には正社員への転換を制度化したものも含まれている2

際に、2018年以降に無期雇用転換した労働者の属性をみると《図表12》、性別では女性が全体の4分の3を占めている。また年齢別にみると、ルールによる無期転換者では、女性の7割近くが40~50代、とくに50代に集中している。ただし、ルールによる無期転換では、正社員への転換割合はさほど高くない。一方、人数はそこまで多くないものの、会社独自制度による無期転換者のケースでも、40~50代が約半数を占めており、そこでは男性・女性とも、正社員への転換割合は非常に高くなっている。

もう一点、正規への雇用転換を促した制度要因として、同一労働同一賃金の適用開始が挙げられる。同一労働同一賃金は、「同一の企業内で、同一の労働に従事する非正規労働者と通常の労働者の間で、賃金や待遇に不合理な差をつけることを禁止する」制度であり、「パートタイム・有期雇用労働法」の改正に伴い、2020年(中小企業のパートタイムは2021年)から適用が開始されている。

同制度自体は、非正規から正規への転換ではなく、非正規労働者の待遇を正規に揃えることを企図している。もっとも、企業にとっては、非正規を雇う大きなメリットの一つは低賃金にあったため、賃金コストが同一になることは、正規雇用の増加を促す要因となる。実際、厚生労働省も、非正規雇用を正規転換して賃金を改善させた企業に助成金を支給する「キャリアアップ助成金」の創設を通じて、非正規社員の正規転換を奨励している3。同助成金は、2021年には賃金改善の要件が+3%へと緩和されたほか、2023年11月には、助成額の大幅な引上げや雇用期間の要件緩和も行われ、正社員転換へのインセンティブとなっている。

(4)その他の要因:テレワークの進展

ここまで述べてきた背景に加え、全年代共通に女性の正規雇用増加を促進させている要因として、コロナ期以降の職場環境の大きな変化である「テレワークの進展」も挙げることができる。テレワーク率を正規・非正規別にみると、動きは似ているものの、水準では両者の間に10%ポイント程度の乖離が存在しており、テレワーク環境は正規雇用者の方が利用しやすい《図表13》。業種別にみても、情報通信や学術研究等の正規雇用の多い業種ではテレワーク率が高い一方、飲食・宿泊や生活・娯楽等の非正規比率が高い対面型サービス業では、業種の特性上、テレワーク率は低い。

テレワークが、ピーク期からは減少しつつも、新たな働き方としてある程度定着したことは、労働者の雇用形態の選択にも影響を与えたと考えられる。実際、「非正規雇用を選ぶ理由」に、「家計・育児との両立」や「通勤時間の短さ」を選ぶ労働者は、足もと減少ないし増加幅が大幅に鈍化している《図表13右》。前述した育休制度の整備のほか、テレワークの利用で仕事と育児の両立が図りやすくなったことで、女性が正規雇用を選ぶ動きが進んだことが示唆される。

3.終わりに:M字カーブとL字カーブ

最後に、女性の労働参加に関してしばしば指摘される、いわゆる「M字カーブ」と「L字カーブ」に触れつつ、近年の女性の正規雇用増加が意味することや、その将来への示唆について述べたい。

まず、女性の年齢階級別労働力率をみると《図表14》、かつては30~40代で大きく凹む「M字カーブ」を描いていたが、直近2023年には初めて「25~54才の全年齢階級で労働力率が80%を上回る」など、男性と同様のフラットな形状に近づいており、M字カーブは概ね解消しつつある。この点は、女性の労働市場進出や人口減少を補う経済成長要因として重要な変化であるが、一方でこれ以上の労働力率上昇には余地が乏しいとか、非正規雇用が中心であったため、真の意味で女性のキャリア深化や活躍に結びついていない、といった指摘もなされてきた。

他方、女性の正規雇用比率は、わが国では長らく30代以降で急速に低下する「L字カーブ」を描いてきたが、近年大きな変化が見られており、明確な上方へのシフトが生じている《図表15》。特に、L字の「始点」に当たる25~29歳の正規雇用比率が、この10年間で15%ポイントも上昇している点は重要である。現時点で「L字」の解消には至っていないものの、今後この世代が30~40代を迎えた時にも、正規の雇用形態を維持できていた場合には、正規雇用比率も男性と同様、高齢者層に到達するまではフラットな形状に近づいていくことが期待される。

もっとも、そうした状況の実現には相応の時間が必要となろう。加えて、正規雇用の増加にとどまらず、管理職や役員まで含めた、真の意味での女性のキャリア形成の進捗を評価するのも、現時点では時期尚早であろう。わが国のプライム市場上場企業における「女性の役員比率」は、2023年には13.4%まで上昇し、「女性役員のいない企業」の割合も、2013年の8割台から2023年には10%程度へと大幅に低下している4ものの、2023年の「女性版骨太の方針」で示された「2030年までに女性役員比率30%以上」の目標達成は簡単ではない。また、「女性の管理職比率」も10%前後に止まっているほか5、「管理的職業(労働力調査)」の女性も増えていない。管理職・経営層まで含めた女性の活躍については、足もと増加している正規雇用者が、今後積み重ねていくキャリアを含めて、中長期的に見ていく必要があろう。

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