企画・公共政策

コロナ禍で普及したテレワークの定着促進に向けて

上席研究員 宇田 香織

コロナ禍で普及したテレワークだが、足元では実施頻度の減少もみられる。行政は、人手不足への対応を視野に入れ、仕事と育児・介護の両立支援を推進する観点からも、多様な働き方の実現に有効なテレワークの定着促進に向け、ICTの最新動向も踏まえた形で普及啓発及びインフラ整備を図る必要がある。
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1.テレワークとは

テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方である。就労形態や就業場所によって、以下の通りに分類することができる。
<就労形態による分類>
 ・企業等に雇用されている雇用型テレワーク
 ・個人事業主のような形態の自営型テレワーク
<就業場所による分類>
 ①自宅で仕事を行う在宅勤務
 ②共同のワークスペースなどを利用して仕事を行うサテライトオフィス勤務
 ③出張時の移動中などに公共交通機関内やカフェ等で仕事を行うモバイル勤務

本稿では、雇用型テレワークを念頭に論じていく。また、モバイル勤務は外出や出張の多い営業職などを念頭に置いた形態であり、活用できる職種が限定されることから、在宅勤務とサテライトオフィス勤務を扱うこととしたい。主なメリットとデメリットは≪図表1≫の通りである。

2.両立支援策としてのテレワーク

テレワークは、通勤時間が発生しないことなどにより、仕事と育児・介護の両立のために有用なものと位置づけられてきた。政府が本年6月に策定した「こども未来戦略基本方針」においては、こども・子育て政策を抜本的に強化していく上で乗り越えるべき課題のひとつとして、子育てと両立しにくい職場環境があることを挙げ、「こどもが3歳になるまでの場合において、テレワークを事業主の努力義務の対象に追加することを検討する」ことなどが盛り込まれた。

25~44歳の女性の就業率はこの20年で約18ポイント上昇しており、第一子出産後の女性の就業継続率も上昇傾向にある。こうした現状を踏まえ、「こども未来戦略方針」で示されたテレワークの努力義務化などについては、育児・介護との両立に資する制度として、労働政策審議会雇用環境・均等分科会において制度の在り方について議論されている。

3.コロナ禍で拡大したテレワーク

テレワークは、コロナ禍を機に柔軟な働き方の一つとして、育児との両立目的だけでなく、一般的な働き方としての広がりもみられる。

日本においては、2019年まではテレワーク導入企業の割合は20.2%と必ずしも広く普及しているとは言えない状況(図表3参照)であったが、2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、出勤抑制の手段として、テレワークは都市部を中心に広く利用されるようになった。企業におけるテレワーク導入率は、2020年には前年から27ポイント上昇し、2021年には初めて5割を超え1、制度等に基づく雇用型テレワーカー2の割合も2021年には初めて2割を超えた(図表4参照)。

(1)企業の認識

企業としては、テレワークの導入について肯定的な評価をする声が多いが、テレワークの導入はあくまでも「新型コロナウイルス感染症への対応のため」とする企業が大半であり、足元では脱コロナの動きが進む中で、「今後導入予定がある」とする企業は減少傾向である。また、導入企業のうち、その形態は「在宅勤務」が9割超と圧倒的に多く、「サテライトオフィス勤務」を導入している企業は1割程度と必ずしも多くない3

なお、テレワークを導入しない主な理由は「職種として実施不可だから」「テレワークに適した仕事がないから」が挙げられ、導入していない企業に導入に当たっての課題を聞くと「テレワークに必要な端末等の整備」と回答する企業が最も多い4

(2)労働者の意識

雇用型テレワーカー5のうち、テレワークの継続意向がある者の割合は約87%と高水準であり、継続意向の主な理由は「時間の有効活用」「通勤負担の軽減」が可能であることと回答している。継続意向の雇用型テレワーカーは、9割以上が現状以上の頻度でのテレワークの実施を希望しており、テレワークを選好している状況と言える。

近年、好きな時間・場所で働くといった自由な働き方を希望する若者が増えてきており、特に20代前半の若者においてその傾向が顕著である6。また、勤め先でのテレワーク制度が廃止や制限された場合、4割前後が「働き方の変更(退職・転職を含む)を検討する」と回答したとの調査報告もある7

なお、「接客や現地作業が必要」「認められていない」といったやむを得ない事情がある場合を除いた、テレワークを実施していない労働者がテレワークをしない理由としては、「コロナ対策として不要」「通勤時間が短い、苦にならない」といった回答の他、「実施場所の環境が不十分」などが挙げられている。

ここで、「テレワーク先進国」と言われる米国における労働者の意識についても触れておく。米民間調査会社のピュー・リサーチセンターが2022年2月に発表した世論調査によると、米国において、主に自宅でできる仕事に就いている人が在宅勤務をする理由として最も多いのは「自宅での仕事を好むため」で76%を占め、「コロナウイルス感染への懸念」の42%を上回っている。また、「育児、子どもの世話」が2020年時点の調査に比べて13ポイント減少したのに対し、「職場から離れた場所への転居」が8ポイント増加しており、自ら積極的にテレワークを選択する労働者の増加が見て取れる。

(3)テレワーク実施状況等についての国際比較

日本の現状は、世界的にどのように評価できるだろうか。テレワーク実施者の比率を日米欧主要国で比較してみると、日本は19.0%とドイツに比べても20ポイント以上の差がある。テレワークに必要なデジタルツール「オンライン会議ツール」の職場での導入状況についても、日本は導入が遅れている。

こうした状況について、OECD (経済協力開発機構)は、「対日経済審査報告2021」において、日本におけるテレワーク移行の障壁として中小企業のデジタル技術導入の遅れがあるとし、新技術を普及させるための取組の必要性を指摘している。

4.現状の課題

世界的にみても、日本はテレワークの導入が遅れているが、これまで見てきた課題について、「テレワークができない業種・職種であること」、「必要な端末の整備などインフラに係る課題」、「コミュニケーションとマネジメントの課題」の3点に整理して対応の方向性を考えてみたい。

(1)テレワークができない業種・職種であること

接客や現地作業などテレワークがなじまない業務に従事する者への一定の配慮は必要だが、 昨今は、新たなテクノロジーやICTツールを徹底的に活用することにより、デスクトップ上で仮想的な職場を再現することが可能であり、オフィスワーカーであればテレワークで実施できない業務はほとんどないとされる。「食わず嫌い」を克服するために、導入の意義を訴求し続けることが重要である。

(2)必要な端末の整備などインフラに係る課題

テレワークを実施していない中小企業に対しては、導入に向けたインセンティブとして、テレワークに必要な端末の整備などインフラ整備に向けた行政からの支援が引き続き重要である。

(3)コミュニケーションとマネジメントの課題

テレワークを導入して一定期間経過後に挙げられることの多い「コミュニケーションやマネジメントの課題」についても、「オンライン会議システム」や「ビジネスチャットシステム」に加え、「バーチャルオフィス」のように、物理的なオフィスでの様々なコミュニケーションをデスクトップ上で再現するような機能を持つICTツールの活用が有効である。ICTツールには、体験を積み重ねることで有用性を実感し、利用意向が高まり、サービスの浸透につながるといった側面がある。まずは導入を進め、時間をかけて定着を図っていくことが求められる。

また、「テレワークは生産性を低下させる」という指摘も多い。テレワークの生産性への影響については様々な評価があり、断定的な結論を出すには時期尚早だが、今後の方向性を考えるに当たり、参考となる調査結果8をひとつ紹介したい。就業者に「仕事の生産性について、オフィスに出勤した時の生産性を100%としたとき、テレワークをした時の生産性がどのくらいか」を聞いたところ、全体平均で84.1%となり、「就業者はオフィスへの出勤時と比べてテレワークでは生産性の低下を実感している」とする調査結果がある。ただし、当該調査でテレワークを始めた時期別に見てみると、「コロナ対策がきっかけで初めてテレワークを行った就業者」の回答が82.2%となったのに対し、「コロナ対策以前からテレワークを行っていた就業者」の回答は89.4%となり、7ポイント程差が開いている点に注目したい。テレワークの開始時期がコロナ禍の前か後で差が出ているという結果だが、これは、就業者がテレワークに慣れるまで、すなわち、テレワークに必要なICTツール(オンライン会議システム等)を使いこなすまでに時間がかかることが要因だと推測される。

5.行政への期待

(1)政府への期待

①普及啓発

本年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類へ移行したこと等を受け、足元ではテレワークの実施頻度の減少も報告されている。しかし、災害や感染症の発生時における対策としてのみならず、人手不足への対応を視野に入れ、仕事と育児・介護の両立支援を推進する観点からも、一人ひとりのライフステージや生活スタイルに合った多様な働き方の実現に有効なテレワークの更なる普及・定着促進は引き続き重要である。こうした認識の下、政府は本年6月に新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い広く利用されるようになったテレワークの更なる拡大や確実な定着に向けて、従来の目標を見直した。

「感染拡大防止対策としてのテレワーク」というイメージが浸透していることもあり、テレワークは感染状況が改善すると実施率が下がってしまう傾向もみられることから、目標設定とあわせ不断の普及啓発が重要である。

②インフラ整備

a.物理的なインフラ整備

政府はこれまでも、テレワークに関する労務管理やICTについてワンストップで相談できる窓口の設置とあわせ、導入に当たって必要な通信機器の導入等に係る経費の助成や、地方への新たな人の流れを創出するためのサテライトオフィスの整備・利用促進等に取り組む地方公共団体への支援などを行ってきた。今後、見直した目標が画に描いた餅とならぬよう、テレワークの更なる導入・定着促進に向け、これまでの取組を継続・発展させる形で、中小企業への必要な機器の導入支援等、ICT ツールの特性や最新の技術動向も踏まえた物理的なインフラの整備の支援が求められる。

b.制度的なインフラ整備

制度的なインフラとしては、現在、検討が進められている育児・介護休業法における努力義務化だけでなく、労働基準法における「みなし労働時間制」の適用対象の拡大についても検討が必要である。

オフィスに集まらずにテレワークを実施する労働者は、必ずしも一律の時間に労働する必要がない場合も多いと考えられ、テレワークは、実際の労働時間ではなく、特定の時間を労働したとみなすことができる「みなし労働時間制」と相性がよいと言える。労働基準法における「みなし労働時間制」には「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制(専門業務型及び企画業務型)」がある。コロナ禍を経た労働者の働き方の実態に即した形で、これらの制度の適用労働者の対象拡大を図ることも必要である。

「裁量労働制」は、労働基準法等において適用対象が一部の専門職や企画業務に限定されており、実際の適用労働者も極めて限られている10。一方、「事業場外みなし労働時間制度」は法令で職種等が限定列挙されてはおらず、労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定しがたいとき、実際の労働時間ではなく、特定の時間を労働したとみなすことができる制度である。そのため、現行法令の下でも、「事業場外みなし労働時間制度」は、対象拡大の余地があると考えられるが、コロナ禍を経ても制度の適用を受ける労働者は大きくは増えていない11

「事業場外みなし労働時間制度」の適用には、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと、の要件をいずれも満たすことが必要であり、外回りの営業などの労働者に適用されることが多い。実際の運用では、例えば、要件①について、使用者の指示に労働者が即応する義務が課されている場合は条件を満たさないが、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合は①を満たすこととされている。

この要件に照らして考えると、現在、テレワークを実施している労働者の中には、「事業場外みなし労働時間制度」が適用可能な労働者が相当程度存在すると考えられる。しかし、コロナ禍以前から制度の適用対象とみなされてきた外回りの営業などの職種以外を適用対象とすることについて、法的リスクを指摘する声があり、企業としては、導入や適用対象の拡大に踏み切れない状況にあると思われる。この制度は、時間に縛られず自分のペースで仕事ができるため、労働者にとって柔軟な働き方を可能とする制度であることからも、制度の対象等について、実態に即した使いやすい制度とするための検討が求められる。

(2)自治体への期待

近年、在宅勤務のデメリットである業務に適したスペースや什器がそろってないこと、通信環境・ネット回線が不安定であること等を回避する手段として、サテライトオフィスへのニーズは高まっている。こうしたニーズの高まりを受け、東京都では、自宅以外でテレワーク環境を提供し、郊外での職住近接に資する拠点として、民間のサテライトオフィスの設置が少ない多摩地域に、最寄り駅から徒歩数分のエリアにモデル的にサテライトオフィスを設置している。

政府は、「転職なき移住」を実現し、地方への新たなひとの流れを創出するため、デジタル田園都市国家構想交付金で、サテライトオフィスの整備・利用促進等に取り組む地方公共団体を支援している。当該交付金を活用し、山口県では、県庁内にテレワークのためのモデルオフィスを設置した。あわせて、利用者の利便性を高めるため、テレワーク可能な県内施設を検索できる総合案内サイトを構築する取組を行っている。モデルオフィスの利用者からは、モデルオフィスがあることで「WEB会議に参加できて滞在期間が伸びた」「帰省中のリモートワークが可能となり、実家の両親と子が触れ合う時間が増えた」という声があがっている。東京以外の、民間の運営事業者が必ずしも多くない地域におけるインフラ整備の事例として興味深い。サテライトオフィスの開設・運営に当たっては、山口県のように自治体運営施設を整備するケースの他、自治体が民間運営施設の整備を支援するケース、自治体が既存施設の拡充・利用促進するために関連設備等の導入支援するケースなど、様々なケースが想定されるが、当該交付金では、地域の実情に応じ、いくつかのケースを柔軟に組み合わせて事業を実施することが可能となっている。

自治体には、住民ニーズを考慮しつつ、デジタル田園都市国家構想交付金等を積極的に活用し、地域の実情にあったテレワーク環境の整備を期待したい。

6.最後に

今後の日本社会において、労働者一人ひとりのライフステージや生活スタイルに合った多様な働き方の実現に有効なテレワークの普及は不可欠である。企業には、使用する労働者に対し、多様な働き方の選択肢を提供できる環境の整備が求められる。足元では揺り戻しの動きもみられるが、テレワークの定着に向けて、行政には、企業の環境整備を後押しすべく、普及啓発やインフラ整備に不退転の決意で取り組むことを期待したい。

  • 資本金規模別に見ると、10 億円以上の企業では導入率が9割を超えるのに対し、5000万円未満の企業では4割に届かず、資本金規模が小さいほど導入が進んでいない(≪図表3≫と同じ出典)
  • 制度等に基づく雇用型テレワーカーとは、勤務先にテレワーク制度等が導入されている上でテレワークを実施している人
  • 総務省「令和4年通信利用動向調査」による
  • 2023年3月に東京商工リサーチが公表した「テレワークセキュリティに係る実態調査」による(≪図表6≫と同じ出典)
  • 「雇用型テレワーカー」は、勤務先にテレワーク制度等が導入されている上で実施している「制度等に基づく雇用型テレワーカー」と、勤務先にテレワーク制度等が導入されていないが実施している「制度等なし雇用型テレワーカー」の合計
  • 2022年8月にパーソル総合研究所が発表した「働く10,000人の就業・成長定点調査」に基づく「20代社員の就業意識変化に着目した分析」によると、好きな場所で働くことを希望する人は20~30代で増加傾向にあり、特に20代前半が多い。
  • 2023年8月に公益財団法人日本生産性本部が発表した「テレワークに関する意識調査 結果概要」による
  • 2021年1月にパーソル総合研究所が発表した「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」による
  • 令和5年6月9日閣議決定「デジタル社会の実現に向けた重点計画(2023)施策集」より
  • 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、2023年の制度の適用を受ける労働者は、専門業務型裁量労働制1.1%、企画業務型裁量労働制0.2%
  • 厚生労働省「就労条件総合調査」によると、制度の適用を受ける労働者は2020年6.0%、2021年6.7%、2022年6.5%、2023年7.6%

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