コロナ禍前に戻っていない大都市の人口移動~2022年の国内人口移動におけるコロナ禍の影響②~
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1.はじめに
2020年からの新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと記す)は、リモートワークの進展と感染可能性が高い繁華街を抱える大都市を巡る国内人口移動に大きな影響を与えた。特に、2021年は東京都区部が26年ぶりに転出超過に転じ、その結果、東京都が人口減少に陥った。一方、2022年は緊急事態宣言が発令されない等、アフターコロナ・ウィズコロナの社会経済への影響が強く意識されたことから、大都市を巡る人口移動がコロナ禍前の2019年に戻ったかどうかが注目された。
そこで本稿では、総務省統計局から2023年1月に公表された住民基本台帳に基づく国内人口移動1によって、1年を通じてコロナ禍の影響がなかった2019年のデータとの比較を中心に、21大都市(政令指定都市+東京都区部。以下、大都市と記す)を巡る国内人口移動2を考察したい3。
2.大都市の多くはコロナ禍の影響を大きく受けている
2022年の大都市計の転入超過数は68,931人で、2021年の49,435人より増加したものの、2019年の139,056人の半分以下にとどまっている。大都市を個別に見ると、2021年に▲(本稿ではマイナスを表す)7,983人と、26年ぶりに転出超過に転じた東京都区部の転入超過数は、2022年は19,887人の転入超過に逆戻りしたものの、2019年の70,461人と比べればかなり低い水準である(図表1)。また、その他の大都市で2022年の転入超過数-2019年の転入超過数を見ると、プラスとなっているのは仙台市、相模原市、静岡市、浜松市、堺市、熊本市のみで、大都市圏の中心都市や地域経済の中心都市への集中傾向がコロナ禍で鈍化している。
ここで、大都市を巡る国内人口移動について転入、転出に分けて見てみよう。2022年の大都市計の転入者数は1,260,178人で、2021年より約7,000人増加したものの、2019年より約40,000人減少している(図表2)。一方、2022年の大都市計の転出者数は1,191,247人で、2021年より約12,000人減少したものの、2019年より約26,000人増加している。
次に、2022年の東京都区部を見ると、転入者が347,830人、転出者が327,943人で、2021年よりも転入者数が増えて、転出者数が減ったことにより、前年の転出超過から転入超過に転じることとなった(図表3)。ただし、2022年の東京都区部では2019年比で、転入者数が約24,000人減少し、転出者数が約27,000人増加した。転入減少と転出増加により、東京都区部から人口が分散している。
さらに、東京都区部を巡る国内人口移動を対大都市と対非大都市に分けて考察する(図表4)。2021年は対大都市、対非大都市共に転出超過であった東京都区部では、2022年は一転して対大都市が10,016人、対非大都市は9,871人と共に転入超過に転じている。また、東京都区部の2022年の転入超過数を2019年比で見ると、対大都市は約13,000人の減少、対非大都市は約38,000人の減少となっており、対非大都市でより大きく減少しているのがわかる。
東京都では1990年代後半以降、都心近くの東京都区部に人口が集中する傾向が見られたが、コロナ禍で東京都区部への人口集中がやや緩和し、非大都市を中心に分散が進んでいる。
3.東京都区部ではオフィス街が苦戦
東京都の区別の転入超過数を見ると(図表5)、ほとんどの区で2022年の転入超過数が2019年を下回っている。東京都の区別の転入超過数は総じてコロナ禍前に戻っていないといえる。
続いて、東京都の区別に転入者数と転出者数を見ると、2022年の転出者数が2019年を下回る区はないものの、転入者数では8区で2019年を上回っている。アフターコロナは転入者数の増加が見込まれるが、その兆候が東京都区部の一部で垣間見られる。この転入者数と転出者数について2022年の増減率(2019年比)を見ると(図表6)、転入者数の減少率が大きく、転出者の増加率が大きい区は、千代田区(転入者▲8.2%、転出者17.7%)、中央区(転入者▲9.7%、転出者13.1%)、品川区(転入者▲8.2%、転出13.3%)といった大きなオフィス街を抱える区である。
コロナ禍になるまで、大都市圏では「職住近接」に便利な都心エリアが人気となり、人口の都心集中が進んできた。しかし、コロナ禍でのリモートワークの進展はオフィス街と住宅街を切り離すことに成功しつつある。東京都区部のオフィス街には、高額な家賃の賃貸住宅が多い。コロナ禍でオフィス街の賃貸住宅のコストパフォーマンスの悪さが目立つようになり、転入者があまり増えない一方で、賃貸住宅に住む人がオフィス街を離れて他に住居を求めるケースが増えているのではないだろうか。また、東京都区部のベッドタウンでは転出が容易でない持ち家が多いため、コロナ禍といえども転出者の増加に直結しにくいものの、コロナ禍でオフィス街への通勤しやすさという魅力が薄まったため、転入先として選ぶ者が減っていると推察される。
4.おわりに
コロナ禍前に進んでいた大都市への人口集中、さらに大都市の中でも都心への人口集中は、「職住近接」というニーズを反映したものであった。しかし、コロナ禍におけるリモートワークの進展により、オフィス街への近さよりも「住遊近接」を重視する者が増加している。そのため、2020年や2021年において、以前は通勤圏外と考えられていたエリアが住居地として選ばれるようになった。
一方で、都心エリアはオフィス街だけでなく繁華街も抱えており、「住遊近接」で他のエリアより優位に立っている。コロナ禍では対人接触を避けるという意味合いで繁華街の人気が落ちていたが、アフターコロナでは繁華街を重視する流れが復活するであろう。また、交通、医療、教育等においても都心エリアは他のエリアより優位にたっており、都心エリアの人気は今後高まる可能性が高い。特に、オフィス街と住宅街と繁華街が適度にミックスされたエリアは人気化することが予想される。
実際に、都心3区(千代田区、中央区、港区)の中で職住遊のバランスが最も優れているとされる港区では、2022年の転入者数が2019年比で103.1%と、コロナ禍前を上回っており、また、2022年の転出者数が2019年比で102.5%と23区の中で4番目に低い。東京都区部の都心エリアではオフィス街の再開発が今後も続くと思われるが、少子高齢化による従業者数の減少とリモートワークの定着を考えると、オフィス需要の高まりに大きな期待をかけるのは難しい。これまで東京都ではオフィス街における住宅開発はあまり広がっていなかったが、今後はオフィス街、繁華街、住宅街のバランスを考えた再開発が増えていきそうだ。
さらに、アフターコロナにおいて長期的に苦戦が予想されるのはベッドタウンであろう。オフィス街への通勤できる範囲内で負担可能な家賃・住宅価格を考慮して住居を決める時代にベッドタウンは優位に立っていた。特に、都市部の人口増加時代は都心から2時間圏内にあるベッドタウンは重宝されて、巨大ニュータウンが多数建設された。しかし、ベッドタウンは「遊」において、都心エリアだけでなく、以前は通勤圏外と考えられていた、大都市圏外にある自然豊かなエリアにも見劣ってしまう。持ち家が多いため、転出者が大きく増加する状況にないものの、転入者が増えない以上、長期的にダメージを受ける可能性が高い。このような背景から、アフターコロナのベッドタウンは生き残りをかけて、「遊」以外でストロングポイントを持つ街づくりが必要になってこよう。例えば、コロナ禍において、子育てにやさしい街を標榜する自治体が大都市圏の郊外エリアで目立つのは、このようなアフターコロナの居住地選びを見据えた戦略といえよう。
- 本稿における国内人口移動のデータは、総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」による。
- 本稿では日本国内における日本人の人口移動を対象にしている。
- 東京都区部より大きなエリアである東京圏を巡る人口移動へのコロナ禍の影響については、岡田豊「東京一極集中はコロナ禍前に戻ったのか~2022年の国内人口移動におけるコロナ禍の影響①~」(2023年。SOMPOインスティチュート・プラス)に詳しい。
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