シティ・モビリティ

地域DX導入に求められる姿勢を考える ~佐賀市の事例から見えてくるもの~

主任研究員 福嶋 一太

少子高齢化が地方を中心に急速な勢いで進む中、デジタルを活用して地域課題を解決するのが、地域DXやスマートシティの基本的な考え方である。本稿は、デジタル技術の活用と地域住民の参画を掲げ、中心市街地の活性化に取り組む佐賀県佐賀市を事例として紹介し、デジタルで地域課題を解決するために必要な姿勢は何かを探っていく。
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1.佐賀市の取組み

(1)取組概要とその背景

佐賀県佐賀市は人口約23万人1の佐賀県における歴史のある中核都市である。佐賀市の人口の流出入状況を見ると、佐賀県から同市への転入超過(転入が転出を上回る)が471人ある一方で、隣県の福岡県へ392人の転出超過(転出が転入を上回る)があり、佐賀県から集まった人口が福岡市へ流れていく構造となっていることが分かる2。また、近年では新たに開通した九州新幹線と在来線特急の乗継駅である鳥栖市がその存在感を強めるなど、佐賀市を取り巻く環境は大きく変化しており、佐賀市独自の魅力を高めることが急務となっている。

このような背景の下、佐賀市では、同市の中心市街地活性化に向け「SAGAスマート街なかプロジェクト」を2021年度より発足させている。

このプロジェクトはデータ収集というハード面とシビックテック3の実践というソフト面の取組みから構成されている4。(図表1)

データ収集というハード面の取組みとして、中心市街地を訪れる来街者のニーズを把握するために、AIカメラを掲載したデジタルサイネージ5を中心市街地の大通り3か所に設置、人流データや環境データを取得する仕組みを整備している。また、ここで取得したデータはオープンソース化され、市民や民間事業者等が利用可能なデータ閲覧システムも用意される計画である。

一方、シビックテックの実践という ソフト面での取組みとして「市民参加型のワークショップの開催」、「アイデア募集フォームの実装」や、「SNS等を活用した情報発信」を行っている。特に、ワークショップには地域住民が参加し、住民自らがデータの利活用によりどのように街の課題を解決していくかを議論する場となっており、市民共創型プロジェクトとなっている点が特徴である。


佐賀市では、2024年の第78回国民スポーツ大会および第23回全国障害者スポーツ大会に向けて、佐賀駅北側にある佐賀県総合運動場や佐賀県総合体育館を中心とした「SAGAサンライズパーク」が整備され、スポーツ・文化の活動拠点としてエリア整備が進行している。また、佐賀駅の南側にある「中央通り再生エリア」の先には佐賀城跡や図書館、美術館などを中心とした「歴史・文化・藝術の拠点エリア」が展開されている。

そして、これらエリアの中間地点にある佐賀駅周辺地区は、佐賀市における南北の結節点としての利便性の高さに加え、リモートワークの普及に伴う福岡都心へのアクセスのよい有力エリアの一つとして注目を浴びている。さらには、西九州新幹線の運行開始による福岡から長崎間の人流増加の期待も高まっている。本プロジェクトは、佐賀駅を中核とした南北に存在する「各拠点エリアを有機的につなぐ街の南北軸」を本プロジェクトにより強化することで、佐賀駅を中心とした街の魅力の向上につなげる意図がある6

(2)本プロジェクトのコンセプト

佐賀市では本プロジェクト以前にも中心市街地活性化に向けた様々な施策を実施している。これをさらに加速させるためにIoTやAIといったデジタルを駆使した先端技術を活用し、 佐賀市の利便性を高めるプランとして「街なか未来技術活用モデルプラン」を策定した。その中で中心市街地活性化に向けて取り組む内容を定めたのが前述の「SAGAスマート街なかプロジェクト」である7

佐賀市によれば、この策定過程でいくつかのことが見えてきたという8。その一つが技術ありきの取組みに限界がある点だという。先行地域では防災や観光、福祉といった様々な分野での技術的な実証実験は行われているものの、分野ごとにサービスが行われ、分野を超えた横連携(サービス間連携)が限定的だという。また、先端技術を活用したサービスの地域実装場面では、サービス提供を行う事業者と、受益者である地域住民のニーズが合致せず、利用実績が上がらないといった課題を抱えていることも判明したという。

これらを踏まえ、佐賀市では先端技術実装の際には、分野横断的に活用することを前提としたデータ連携基盤の設計を行い、これにデータを蓄積することをコンセプトの一つとした。この蓄積されたデータと行政などが保有する様々なデータを分析し、中心市街地活性化に資する対策を行っていくことを企図している。また、先端技術の導入で得たデータや知見を地域住民や民間事業者と共有することも重視している。データの利活用の方向性や先端技術の利用可能性などを受益者である地域住民や民間事業者と共に考えることで、持続的な共創を生み出そうとしている。

このようなコンセプトの下、佐賀市が導入を決定したのが中心市街地活性化に向けたデジタルサイネージや住民参加型のワークショップの開催などの取組みである。佐賀市によれば、中心市街地活性化という目的を達成するため、地域課題と向き合い、地域住民や民間事業者との対話を通じて一つ一つ丁寧に積み重ねているところは本取組みの大きな特徴の一つだという。

(3)現在の到達点

本事業は2021年度に計画され、デジタルサイネージは2022年度から社会実装されており、データの収集や利活用についてはまだ定量的な成果を測定することができないのが実情だ9

しかし、コンセプトの一つを構成する地域住民や民間事業者との共創に資する取組は着実に進行している。佐賀市では地域課題をデータや先端技術でどのように解決できるかをテーマとしたワークショップを全10回開催し、それぞれ10~30名の市民の参加があったという10。ワークショップ開催にあたっては行政が主導するのではなく、地域課題解決に向けたノウハウが豊富で、地域住民との共創関係を重視するという佐賀市のコンセプトに賛同する民間事業者を活用している。この民間事業者によれば、ワークショップの際に専門用語を極力使用せず、内容以上に地域住民にとっての分かりやすさを重視して進めているという。

この他、中心市街地をどのような姿にしたいかを明確にするため、佐賀市では2022年には佐賀市中央大通りの未来ビジョンと題し、中央大通りを3つの区分に区分けし、こどもの成長に合わせた将来像を設定している。これにより市民や民間事業者、地域活動団体がそのエリアの将来像を描き、課題解決に向けた取組みをイメージしやすいような工夫を行っている。(図表3)

佐賀市によれば、中央大通り沿いの遊休不動産の割合が好転してきており、今までになかった若者向けの飲食店や洋品店が新規に開業する等、今までにない動きが生まれてきているという。また、デジタル技術などに対する意識が高い一部の市民には、先端技術の利活用と地域課題の解決に向けた意識が生まれてきているという11

2.むすび

本稿では佐賀市の事例を取り上げたが、デジタル化による地域課題解決に向けて重視すべき3つの点が浮かび上がった。まず、他の地域の真似事ではだめだということだ。佐賀市によれば地域のデジタル化は他の取組みを流用してすぐに地域課題が解決されるものではないという。何がその地域の課題かという点をしっかりと見据え、それに応じたその地域独自のデジタル化を地域住民や民間事業者と共に考えていく必要があると指摘する。

次に、デジタル化は地域課題解決の「魔法の杖」ではないことを肝に銘じることだ。

地域課題と向き合い、地域住民や民間事業者と課題解決にあたる方法は街づくりや地方創生で行われてきた対策と本質的には何ら変わらないはずである。佐賀市が取り組む中心市街地活性化のように、全国的にも長年取り組まれながら目立った成果が得られていない地域課題は少なくない。しかし、それらの地域課題の要因は多岐にわたり、それらを一気に解決してくれる「魔法の杖」はない。「デジタル」というマジックワードに惑わされることなく、これまでの取組みを踏まえ、地域課題と真摯に向き合うことが地域課題をデジタルで解決していく第一歩になるのではないだろうか。

最後に、デジタル化ありきではないということだ。

「SAGAスマート街なかプロジェクト」は、この点を当初より意識している。どのような課題をデジタルで解決していくかを検討段階から意識しなければ、単なる一つの課題への新技術導入で終わってしまう。分野横断性があり、かつ継続性のあるデジタル導入を進めるには、徹底した課題オリエンテッドで導入検討を進める姿勢が求められるだろう。

  • 佐賀市ホームページ<https://www.city.saga.lg.jp/main/86664.html>(visited in Feb,10 2023)
  • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」(コロナ禍の影響を排除するため2019年度の数値を利用している。)
  • シビックテックには明確な定義はないが、デジタル庁によれば、デジタルテクノロジーを活用して公共領域へのかかわり方を広げ、誰もが自分たちの好きな時に好きな方法で公共領域への参画ができるようする活動をシビックテックという。詳細は、<https://digital-gov.note.jp/n/n1d3a173a8393>を参照。
  • SAGA SMART MACHINAKA LABホームページ<https://smart.saga.jp/>(visited in Feb,10 2023)
  • 屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアの総称をいう。<https://digital-signage.jp/about/>(visited in Feb,10.2023)
  • 佐賀市「中央大通りにおける魅力ある土地利用リーディング事業-令和二年度からの取組について-」(令和2年8月20日)
  • 佐賀市「2021 佐賀市街なか未来技術活用モデルプラン」。
  • 同上
  • 佐賀市への取材による。
  • 同上
  • 前掲注9

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