2022年12月に発表された「GX実現に向けた基本方針(案)」において、「既設炉の運転期間の延長」や「次世代革新炉の開発・建設」といった原子力政策の転換が示された。本稿では、運転期間延長を加味した場合の設備容量の推移を試算し、2050年に想定され得る次世代革新炉の導入ポテンシャルを明らかにしつつ、その実現に向けた課題について概観する。
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1.日本の原子力政策
2022年12月に開催された第5回GX1実行会議で、政府は「GX実現に向けた基本方針(案)2」(以下、「GX基本方針」という。)を取りまとめた。GX基本方針は、徹底した省エネルギーの推進や製造業の構造転換、再生可能エネルギーの主力電源化など14の取組項目をまとめたもので、その中の一つの項目として原子力の活用も位置づけられている。その中でも「運転期間の延長」や「次世代革新炉の開発・建設」が掲げられたことが原子力政策の大きな転換点として注目を集めている。
原子力の活用にあたっては、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画3」において、2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)に向け、再生可能エネルギーの拡大を図りながら「可能な限り原発依存度を低減する」とされている。2030年の電源構成上の見通しとして原子力発電の比率は20~22%程度、その達成に向けては「安全性を大前提とした原発の再稼働」とされており、第6次エネルギー基本計画では原子力発電所の新設や建て替えについては言及されていなかった。
議論の転換点となったのは2022年8月に開催された第2回GX実行会議である。ウクライナ情勢を踏まえたエネルギーの安定確保に向け、原子力について4つの検討事項「再稼働への関係者の総力結集」「運転期間の延長」「次世代革新炉の開発・建設」「最終処分のプロセス加速化」4が明確に打ち出された。
以降、経済産業省では、原子力小委員会や革新炉ワーキンググループ等での議論を重ね(図表1)、2022年11月に開催された第34回原子力小委員会で「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン(案)5」を示した。このアクションプランは翌12月に「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)6」へと名前を変え、原子力をエネルギー供給の自己決定力7確保やGXの牽引役とするため、運転期間を原則40年、延長を認める期間を20年とした上で、東日本大震災発生後の安全規制等の変更に伴って生じた運転停止期間は運転期間に含めないこととした。すなわち、実質60年以上の運転を認める内容となっている。「次世代革新炉の開発・建設」については、第6次エネルギー基本計画で示されている「震災前と比較した依存度低減」という現在の方針も踏まえ、廃止決定炉の建て替えをまず対象とすることが明記されている。
12月に開催された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会では、省エネ推進・再エネ主力電源化等と合わせ、原子力小委員会が取りまとめた原子力の活用についても議論され、その結果がGX基本方針の中で明確に「運転期間の延長」「次世代革新炉の開発・建設」として位置づけられるに至った。現在運転している原子力発電所の中には、すでに稼働年数が一定程度経過し、現行の原子炉等規制法のもとでは2050年までに運転を終える施設もあることから(図表2のとおり)、2030年に向けた既設炉の再稼働と並行して、2050年に向けては運転期間の延長・廃炉決定炉の次世代革新炉への建て替えが打ち出されている。
2022年12月末現在、国内の原子力発電所の稼働状況について、運転可能な原子炉は33基あり、そのうち10基が再稼働済みである(運転中はそのうち玄海原子力発電所4号機を除く9基)。原子力規制委員会から設置変更許可が出たものの未稼働なものは7基あり、8基は現在審査中、残りの8基は原子力規制委員会に審査申請を行っていない。これらのほか、3基が現在建設中であり、6基が計画中となっている。
2.2030年、2050年を見据えた原子力発電の設備容量の推移
GX基本方針では、すでに稼働済みの10基に加えて、来夏・来冬に向けては設置変更許可済みの7基の再稼働、2020年代半ばまでは審査中・未申請を含んだ19基(建設中を含む8)の再稼働によって2030年の原子力発電比率20~22%を達成するとしている。このGX基本方針の前提や第6次エネルギー基本計画等の想定に基づき図表3の条件で設備容量の推移を試算し、2030年・2050年の原子力発電比率の想定に達するかを確認した。2030年以降の再稼働状況については、設置変更許可済みの7基の再稼働を実現した計17基のパターンA、審査中10基を加えた計27基のパターンB、さらに未申請9基を加えた計36基のパターンCでそれぞれ行った。なお、2050年の原子力発電比率は明示されていないため、グリーン成長戦略9に記載されている「原子力・CO2回収前提の火力発電が30~40%程度」から原子力発電分を20%と仮置きしている。
(1)運転期間60年を想定したケース
運転期間を60年で試算した結果は図表4のとおりとなる。まず2030年に着目すると、電源構成の想定とされている原子力発電の想定22%は図表3より約29.5GWとなり、この目標を達成できるのはパターンC(2030年までに計36基稼働)のみとなる。2050年については、電化+省エネが進んだ場合の電力需要を1兆3,000億kWh、原子力の電源構成を20%と仮置きした場合、必要となる設備容量は約37.1GWとなり、17基再稼働で27.1GW、27基再稼働でも18.9GW、36基再稼働で11.7GWが不足する計算となる(図表5のとおり)。
(2)運転期間60年+追加延長を想定したケース
「運転期間の延長」については、原子力小委員会が示した行動指針(案)の中で、原子力規制委員会の新規制基準適合検査による運転停止期間等は除外するとされていることから、2.(1)パターンCをベースに新規制基準適合性審査による運転停止を追加延長として加算した場合(パターンC′)についても試算を行った(図表6のとおり)。
前提条件として、設置変更許可済みの7基・審査中の10基は2025年より再稼働、未申請9基は2025年より安全審査を開始し、2030年に再稼働すると仮定した。2.(1)のケースと同様に2030年の電源構成22%、2050年の電源構成20%とした場合、パターンC′であっても2050年には約8.4GWが不足することとなっている(図表7のとおり)。60年+追加延長を想定してもなお不足する設備容量について、次世代革新炉で補っていくことがGX基本方針で掲げられており、図表3の前提を置くと、政府が想定する電源構成実現にあたり「運転期間の延長」に「次世代革新炉の開発・建設」を加えていくという政府の打ち手は妥当と言えよう。なお、2022年12月末時点で廃炉となっている原子力発電所は24基であり、このうち福島第一原発、第二原発を除き廃止措置中となっている14基の総設備容量は約8.3GWであるため、図表3の前提の場合は少なくとも廃止措置中の総設備容量と同程度の次世代革新炉が必要となる。
3.今後の展望
第6次エネルギー基本計画との整合から、原子力発電への依存は低減していく前提であることから、2050年における原子力発電の割合は2030年時点よりも低くなる可能性が高い。ただし、現在想定されている2050年の電源構成では原子力とCO2回収前提の火力を合わせて30-40%程度となっており、火力発電と原子力発電の内訳については触れられていない。政府はGX基本方針の中で原子力を活用しようとしている一方で、次世代革新炉開発のタイムラインを踏まえると(図表8のとおり)、2050年までにどれだけの次世代革新炉が稼働しているかは現時点で不透明である。現行のエネルギー基本計画に従うならば、2.で試算したように原子力の2050年電源構成が20%の想定であっても設備容量は不足するため、まずは2050年時点の電源構成のうち、原子力とCO2回収前提の火力の内訳をどのように考えるかを明確にする必要があるだろう。
次世代革新炉開発は、S+3E11のみならず、日本の産業競争力強化にも資する重要な取組ではあるが、廃止決定炉の建て替えは立地自治体の理解が大前提である。GX基本方針の中でも、廃炉の建て替えにあたっては「バックエンド問題12の進展も踏まえつつ具体化を進める」とあるが、バックエンド問題そのものへの具体的な取り組みについても現時点で不透明であることから、核廃棄物処理等の道筋をまず示すとともに、国民・立地自治体との信頼関係醸成を目的としたコミュニケーションの充実が求められるだろう。
2030年に向けては既設炉の再稼働を前提としているため、第6次エネルギー基本計画と矛盾するものではない。しかし、GX基本方針で掲げられた原子力の方向性は、2050年に向けて不足する設備容量を穴埋めするための「運転期間の延長」と「次世代革新炉の開発・建設」という点で、現行のエネルギー基本計画から踏み込んだものとなっている。今後政府には、2030年以降の電源構成の目標とその達成に向けた次世代革新炉開発の道筋について、第6次エネルギー基本計画の見直しも含め示すことを期待したい。
- グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)。カーボンニュートラル実現のための経済社会システム全体の変革を指す。
- 内閣官房 GX実行会議(第5回)「GX 実現に向けた基本方針(案)~今後 10 年を見据えたロードマップ~」(2022年12月22日)
- 資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」(2021年10月)
- 内閣官房 GX実行会議(第2回)「日本のエネルギーの安定供給の再構築」(2022年8月24日)
- 資源エネルギー庁 原子力小委員会(第34回)「今後の原子力政策の方向性と実現に向けたアクションプラン(案)」(2022年11月28日)
- 資源エネルギー庁 原子力小委員会(第35回)「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)」(2022年12月8日)
- 日本の一次エネルギーは、海外から輸入される化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど)に大きく依存している。
- 建設中のうち、新規制基準の審査中である島根原子力発電所3号機(中国電力)と大間原子力発電所(電源開発)を含む。
- 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月18日)
- 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(経済産業大臣説明資料)」(2020年12月25日)記載の「2050年電力需要(約1.3~1.5兆kWh)」を使用。
- S(Safety)+3E(Energy Security、Economic Efficiency、Environment)
- 使用済燃料の再処理や原子力施設の廃止措置、放射性廃棄物の最終処分などに関する諸問題のこと。