シティ・モビリティ

ダブル連結トラックの課題と普及に向けて

主任研究員 水上 義宣

地球温暖化防止、トラックドライバー不足からトラック運送の生産性向上策としてダブル連結トラックの普及が期待されているが、日本では一部の高速道路を中心とした走行に限られ、導入している会社数も限られている。日本に先行して導入されたオランダの事例も参照しながら、ダブル連結トラックの普及に向けた今後の課題と対策を論じる。

1. はじめに


地球温暖化防止、トラックドライバー不足からトラック運送の生産性向上が必要とされている。特に大型トラックの後ろにトレーラーを連結するダブル連結トラック≪図表1≫は自動運転のような高度な技術開発が不要で、かつ1台で従来の大型トラック2台分の荷物を運ぶことができることから日本においても利用が拡大している。

一方で、ダブル連結トラックの通行は一部の高速道路を通る場合に個別審査で許可されることとなっており、一部の事業者以外には活用されていない。また、ダブル連結トラックは、連結を外すことでトラックやセミトレーラーとしても運行できるため、従来の大型トラックとは異なる配車ノウハウも必要となる。

本稿では、ダブル連結トラックのさらなる普及に向けた課題と方向性について、先行して規制緩和を行ったオランダの事例も参照しながら論じる。

2. ダブル連結トラックの現状

(1)トラック運送を取り巻く状況

少子高齢化により働き手の確保が課題となっているが、特にトラックドライバーを含む「自動車運転の職業」の2022 年8月の有効求 人倍率は2 .38倍で全産業平均1 .18倍を大きく上回っている 2。一方 、一般労働者の年間換算の勤務時間数と給与額3は、全産業平均 2,112時間、4 89.3万円に対し道路貨物運送業2,424時間、4 46.3万円となっている。 トラックドライバーは人手不足にもかかわらず、長時間労働、低賃金であることが、働き手の確保が難しい要因となっている。

次に環境問題を見てみると、貨物自動車は日本のCO2総排出量の6.9%を占め、またトンキロあたりのCO2排出量も鉄道21g、船舶43gに対し営業用貨物車は216g4となっている。

一方で国内貨物輸送量に占める自動車の割合はトンキロベースで約5割5あり、引き続き主要な運送手段となっている。

以上の状態からトラック運送の生産性を向上し、トラックドライバーの確保とトンキロあたりのCO2排出量の減少を進めることが急務となっている。

(2)ダブル連結トラックの規制緩和

トラック運送の生産性向上を目的に、通常の大型トラックよりも多くの荷物を運ぶことができる、ダブル連結トラックに注目が集まっている。

日本において道路を走行する車両は長さ12m以内とされており、これを超える車両は「特殊車両」として道路管理者に「特殊車両通行許可」を申請しなければならない。日本ではこの許可を得られる長さが2013年に21mに緩和され、連結トラックの運行が可能となった。大型トラック2台分に相当する全長25mのダブル連結トラックについては、2017年から新東名高速道路で通行の検証が始まり、2019年1月から新東名を主なルートとする区間で許可されるようになった。以降、2019年8月に許可区間が東北自動車道北上江釣子ICから九州自動車道大宰府ICまでに拡大、2022年11月からは北陸自動車道などを加え、2019年8月比2.5倍の区間で許可されるようになった。≪図表2≫

(3)ダブル連結トラックの拡大


ダブル連結トラックの許可台数は≪図表3≫のとおり増加傾向にあるが、2019年からの3年間で許可台数が14台から205台へ約15倍になったのに対し、企業数は6社から13社と2倍弱の増加にとどまっている。

なお、2000年代に導入実験を行った欧州各国を見ると、オランダが2004年8月時点で66社100台7、ドイツが2006年1月時点で51社135台8となっており、導入規模が同程度の時点で見ると日本は台数に比して企業数が少ないのが特徴である。

(4)ダブル連結トラックの運行に関する制限と課題

ダブル連結トラックをはじめとする特殊車両の通行には「特殊車両通行許可」の申請が必要であるが、2019年度特殊車両通行許可申請数は約48万件、許可までの平均日数は28日9で、即時の運行が難しくなっていた。そのため、2022年4月から「特殊車両通行確認制度」の運用が始まり、従来のような個別審査でなく、システム上で通行可否を確認し、即時に通行が許可されるようになった。しかし、同制度は全長21m以内の車両しか使用することができずダブル連結トラックは対象外となっている。

また、ダブル連結トラックは指定された高速道路を通過する経路で、かつ高速道路以外の通行は必要最小限としなければならない。2022年11月の拡充により通行できる高速道路は約5,140kmとなったものの、日本の高速自動車国道実延長約9,050kmの約56%にとどまる。この指定は「ダブル連結トラックの運行について事業者のニーズがある」区間で、「高速本線について4車線以上であり、構造上の支障がない区間」について、「事前に物流事業者から拡充希望の経路、発着地や休憩予定箇所等の情報を収集」して行われている10。そのため、導入のために指定区間の拡充を図るには、事前に国土交通省に働きかける必要がある。

運行面でも許可区間以外での運行ができないことから、既に導入している運送会社からも「ICから営業所までの通行許可協議に応じていただけない」「都市高速の通行ができない」「通行止め等の際にう回ができない」「局所的な荷物の膨張に対しフレキシブルに入庫施設を変更できない」11といった課題が指摘されている。

車両の取得・維持コストの面では、一般的にダブル連結トラックは、車体費が大型トラック2台より高額となるが、維持費はエンジンが1台であるから安くなることが多いという12。ダブル連結トラックは高い車体費を維持費の削減で回収することになるため、長期間にわたって定期的な運行を期待できる会社でなければ導入メリットを享受しづらい。

以上の状況から、現状においては高速道路付近にある物流拠点間を往復するような運行が一般的であり、必然的に高速道路付近に拠点があり、同一区間で長期間の定期的な運行が期待できる会社が導入している。

3.オランダにおけるダブル連結トラック導入の経験

(1)導入の経緯

近年ダブル連結トラックが導入された国にオランダがある。1995年までEUでのトラックの全長は18.75m以内であったが、全長18m超車両の運行が許可されていたスウェーデンとフィンランドがEUに加盟するにあたり、1996年に全長18m超車両を認めるEU指令96/53/ECが出された。オランダでは2001年から実験的な走行が始まり、2013年には全高速道路、幹線道路と主要道路で通行が許可されるようになり、2017年には1,800台近くが登録されている13

導入までに≪図表4≫のとおりオランダは3段階の実験を行った。

(2)導入車両と利用例

EU指令では、Europe Module Systemと呼ばれる標準車体の組み合わせにより連結トラックを組成することとされ、オランダでは≪図表5≫の5種類の構成が採用された。

オランダ運輸公共事業水利省の報告書によると、フェーズ2実験まではD構成が多かったと報告されている。ちなみに日本で運行されているダブル連結トラックはすべてC又はD構成である。しかし、オランダの場合、フェーズ3実験ではB構成の使用が増加したことが報告されている。これは、拠点間の運送においてはB構成とD構成に違いはないが、ダブル連結トラックの走行が許可されない市街地への配送に用いる場合、物流拠点で前後に解結する必要があるためである。D構成でも解結することは可能であるが、この場合、後部セミトレーラーを前部トラックに連結するのに使用するドーリーを解結場所で保管する必要があること、前方車両はトラック、後方車両はセミトレーラーとなり別々の車種を運用する必要があることから、解結後に前後ともにセミトレーラーとして扱え、汎用性が高いB構成に人気が出たという。

現在、日本ではB構成のダブル連結トラックは登場していないが、ダブル連結許可区間外へ運行するため解結する運用は存在しており、今後B構成の導入も期待される。一方、D構成の場合、解結すれば前方車両の運転手は大型免許でかまわないが、B構成の場合前後ともにけん引免許を要すること、前方車両もトラクターとセミトレーラーの2台分の車検等が必要15であることは課題となる。

4.ダブル連結トラックと隊列走行、自動運転

(1)隊列走行、自動運転の動き

短期のトラック運送の生産性向上として本稿で取り上げるダブル連結トラックが実用化されているが、中長期では隊列走行や自動運転も検討されている。

高速道路におけるトラックの隊列走行について、政府の「未来投資戦略2017」では、「早ければ 2022 年に商業化することを目指し、2020 年に高速道路(新東名)での後続無人での隊列走行を実現」とされ、経済産業省及び国土交通省から実証実験を受託した豊田通商株式会社が2021年2月に新東名での後続無人の隊列走行を実現した16。一方で、同実験のオンライン発表会において経済産業省は「商業化の具体的な出口は現時点では決まっていないと思っております」17とした。また、2022年8月に発表された政府の「デジタルを活用した交通社会の未来2022」の「ロードマップ「自動運転・運転支援(2)」」では、隊列走行の商業化は2022年~2025年、高速道路でのトラック自動運転(レベル4) の実現は2025年以降とされている。

(2)インフラ整備の必要性

ダブル連結トラックの本格導入及び将来の隊列走行実現に向けた必要なインフラ整備を検討するため、国土交通省は「新しい物流システムに対応した高速道路インフラの活用に関する検討会」を設置し、2019年8月に中間とりまとめが発表された。とりまとめでは、隊列走行実現のために必要なインフラ整備として「走行空間(専用レーン)」「分合流部での錯綜対策」「隊列形成・分離スペースの確保」「休憩スペースの確保」「交通マネジメント・交通安全施設」「隊列車両運行管理システム」を挙げているが、このうち「走行空間(専用レーン)」「分合流部の錯綜対策」「形成・分離スペース」「休憩スペース」はダブル連結トラックでも課題となっている事項である。

ダブル連結トラックの場合、「追い越しの禁止」「一番左側の車線の走行」「21m超車両が連続して縦列に走行しないこと」を条件とすることで、「走行空間」「分合流部の錯綜対策」を実現しているほか、許可する高速道路を指定することにより「休憩スペースの整備」が行われているが、今後台数が増えればダブル連結トラックが2台連続で走行した場合の分合流対策などが必要となるであろう。2021年に豊田通商株式会社が実現したトラック隊列走行は長さ12mの大型トラック3台が車間距離10mで走行するため、車列の全長は12m+10m+12m+10m+12mの約56mだった。将来的にダブル連結トラックが隊列で走行する場合には同じく車間距離10mとすると25m+10m+25mの約60mとなり、分合流部の錯綜対策としてはほぼ同規模になると予測できる。

「形成・分離スペース」についても、現在は各物流会社が高速道路に近い拠点を活用することにより実現しているが、利用を拡大するためには高速道路IC周辺にトラックターミナルの整備等が必要と考えられる。また、高速道路における自動運転(レベル4)を無人で行う場合には、一般道との境界で運転手が乗降する必要があり、隊列形成・分離と同様の課題があると考えられる。2022年2月に三菱地所株式会社が新名神高速道路に直結する物流拠点の整備を発表19したが、今後はこのような物流拠点の整備が加速すると考えられる。

一方、将来自動運転車両が増加すれば、トラックドライバーが休憩する必要がなくなるので高速道路のSA/PAの需要は減少する。しかし、短期的には、自動運転に先行してダブル連結トラックや隊列走行の普及が進むと想定され、一時的にSA/PAの駐車スペースの整備・拡充が課題となる。そのため、こうしたSA/PAの需要の伸縮に合わせて長期的にはSA/PA施設を高速道路直結の物流拠点などに転換する必要性があることも指摘されている20

5.おわりに

トラックドライバー不足や環境問題への対策として、ダブル連結トラックの導入によるトラック運送の生産性向上が期待されるが、現在は特殊車両通行許可が個別審査となっていることや、運用方法として高速道路付近の拠点間を往復する運送が主体となっているため、利用会社数は13社にとどまっている。また、導入されている車両もトラックとトレーラーを連結するものに限られているが、今後はセミトレーラーを2両連結したものなど解結した場合の汎用性が高い構成の導入も考えられる。

今後の普及に向けては、現在のように事業者のニーズがある区間について個別に検討する方式から、特殊車両通行確認制度に移行することが必要であろう。また、そのためには台数の増加に対応した休憩施設や分合流部の錯綜対策などのインフラ整備を進めるとともに、高速道路に直結した物流拠点などの増加も必要と考えられる。こうしたインフラの整備は将来の隊列走行や高速道路での自動運転(レベル4)の普及にもつながるものと期待される。

  • いすゞ自動車株式会社「いすゞ、「ジャパントラックショー2022」に小型トラック「エルフEVモニター車」などを出展」(2022年4月27日)
  • 厚生労働省職業安定業務統計一般職業紹介状況令和4年8月
  • 厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査より、「勤務時間数=(所定内実労働時間数+超過労働時間数)×12」「給与額=きまって支給する給与額×12+年間賞与その他特別給与額」とした。
  • 国土交通省「運輸における二酸化炭素排出量」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html(最終更新日:2022年7月5日)
  • 経済産業省第1回持続可能な物流の実現に向けた検討会資料2p.4(2022年9月2日)
  • 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第22回物流小委員会資料3-1 p.2、p.6(2022年9月15日)
  • オランダ運輸公共事業水利省The Ministry of Transport, Public Works and Water Management (2010.3)” Longer and Heavier Vehicles in the Netherlands Facts, figures and experiences in the period 1995-2010”p.7
    なお、オランダのダブル連結トラック導入の経過については3.で詳述。
  • 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第12回物流小委員会資料3 p.3(2016年3月9日)
  • 国土交通省「特殊車両の通行許可・取締実績」https://www.mlit.go.jp/road/tokusya/pdf/kyoka-jisseki.pdf(最終閲覧日:2022年10月21日)
  • 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第22回物流小委員会資料3-1 p.5(2022年9月15日)
  • 国土交通省社会資本整備審議会道路分科会第22回物流小委員会資料1 pp.6-7、資料2 pp.7-8(2022年9月15日)
  • 当社によるトレーラーメーカーヒアリング
  • 渡部大輔(2021.7)「欧州における大容量貨物車の現状と我が国のダブル連結トラックの普及への示唆」『交通工学論文集 第7巻』pp.20-27
  • オランダ公共事業水利省The Ministry of Transport, Public Works and Water Management (2010.3) ”Longer and Heavier Vehicles in the Netherlands Facts, figures and experiences in the period 1995-2010”(以下「オランダ運輸公共事業水利省」出典は特段注記のない限り同様)
  • オランダにおいても大型(C)と大型けん引(CE)は免許が異なること、トレーラーにも車検(APK)が必要であることは日本と同様(オランダ道路交通法” Wegenverkeerswet 1994”及びEU指令2006/126/EC)
  • 豊田通商株式会社「高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現」(2021年3月5日)
  • Car Watch「豊田通商、大型トラックで実現した「高速道路 後続無人隊列技術」オンライン説明会」(2021年3月5日)
  • 自動運転(レベル4)は、「特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。」(国土交通省「主要なASV技術の概要及び自動運転関連用語の概説を公表~自動運転レベル3以降の車両の呼称も策定~」(2020年12月11日))
  • 三菱地所株式会社「~完全自動運転トラックなど次世代モビリティ受け入れを視野に入れた中核物流拠点~ 日本初、高速道路 IC 直結「次世代基幹物流施設」開発計画始動」(2022年2月3日)
  • 兵藤哲郎、後藤孝夫、根本敏則、味水佑毅、坂井孝典、平田輝満、渡部大輔、森北一光、山本隆(2022.3)「ダブル連結トラックおよび貨物車隊列走行を考慮した道路インフラに関する技術研究開発 研究状況報告書」国土交通省『令和3年度中間評価・革新的研究調査(FS)評価結果2020-4』

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