シティ・モビリティ

航空法改正とドローン活用の展望

主任研究員 水上 義宣

航空法の改正により、ドローンを有人地帯で、目視外まで飛ばすことが2023年以降可能となる見込みであり、物流・医療、インフラ・プラント点検等といった分野を中心として一層活用が進むとみられる。
本稿では、改正法のポイントや期待される活用例、今後の課題等について概説する。

1.はじめに

2021年6月11日に航空法が改正され、2023年以降、飛行経路下への第三者の立入りを管理せずに操縦者から目の届かない距離までドローン1を飛行させる「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)2の飛行が可能となる見込みとなった。これにより、ドローンを目視外まで飛ばす、物流・医療、インフラ・プラント点検等といった分野での利用が活発になると考えられる。「空の産業革命に向けたロードマップ20223」においても、これらの分野での社会実装を促進していくことが示されている。

本稿では、航空法改正のポイントをドローンの機体・重量等に照らして整理し、今後のドローン活用の可能性について概説する。

2.ドローンの飛行に関わる制度

(1)制度の概要

ドローンの飛行にあたっては、「航空機の航行の安全」及び「地上又は水上の人又は物件の安全」を確保することが求められ、これらに危害を及ぼすおそれのある飛行が規制又は禁止されている。

現行の航空法では、規制されている「空港周辺」「高度150m以上」「人口密集地帯上空」の3つの空域を飛行する場合は国土交通大臣の許可、「夜間」「操縦者の目視外」「第三者又は第三者の物件から30m以内」「催し場所の上」「危険物の輸送」「物件の投下」の6種類の飛行方法をとる場合は国土交通大臣の承認が必要である。その要件は「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領4」で公表されている。「第三者の上空」の飛行は、審査要領4-3-1(1)等により禁止されている。

2022年内の施行が予定されている改正航空法の下では、ドローンによる飛行は、リスクの低いほうから「カテゴリーⅠ」「カテゴリーⅡB」「カテゴリーⅡA」「カテゴリーⅢ」の4つにわけられ「機体」「操縦者」「運航管理」のそれぞれについて資格やルールが定められる予定である《図表1》。従来許可・承認が必要であった飛行は「カテゴリーⅡB」及び「カテゴリーⅡA」とされている。

最大離陸重量が25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行については、カテゴリーⅡBに分類され、定められた資格やルールを満たせば、原則として個別の許可・承認は不要となる(《図表1》青枠部分)。

「第三者の上空」(レベル4)の飛行は、許可・承認のための資格とルールが新しく定められるカテゴリーⅢに分類され、新たに飛行が可能とされた(《図表1》赤枠部分)。

(2)第三者上空の飛行と立入管理

物流等でドローンを使う場合、一般的には操縦者から機体を直接見ることができない「目視外」まで飛ばす必要がある。また、集落や道路を横断すれば「第三者の上空」を飛ぶ可能性がある。現行の航空法では「第三者の上空」の飛行は禁止されているので、第三者がドローンの下に入らないよう管理する必要がある。

立入管理方法としては、まず補助者を置く方法があり、「飛行経路全体を見渡せる位置に、無人航空機の飛行状況及び周囲の気象状況の変化等を常に監視できる補助者を配置し」、「飛行経路の直下及びその周辺に第三者が立ち入らないよう注意喚起を行う」と定められている(審査要領5-4(3)b)。

また2018年10月には、補助者の代わりに立入管理区画を設ける「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行が認められた。立入管理区画は、ドローンが落下する恐れのある範囲に「立看板等を設置するとともに、インターネットやポスター等により、問い合わせ先を明示した上で上空を無人航空機が飛行することを第三者に対して周知する等、当該立入管理区画の性質に応じて、飛行中に第三者が立ち入らないための対策を行う」と定められている(審査要領5-4(3)cカ等)。

今回改正では、立入管理区画も設けない「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行が解禁となり、立看板の設置やそのほかの周知といった立入管理に関する準備の手間や費用が削減され、飛行経路の設定がより簡便、低費用になり、飛行開始までの期間も短縮されることが期待される。

3.ドローンの機体・重量

ドローンに関する規制では、リスク要因として機体重量も重視される。機体本体と燃料やバッテリー、荷物等をすべて合計した重量を「離陸重量」といい、運用上最大のものを「最大離陸重量」という。最大離陸重量を重くすれば、より重いものを、より遠くへ飛ばすことができるが、慣性力が大きいため回避にかかる時間や距離が大きくなり、万が一の墜落・衝突時の衝撃も大きくなる。そのため《図表1》のとおり、最大離陸重量25kgを境に規制に差が設けられている。また、最大離陸重量が150kg以上の機体は製造、修理等について航空機と定められている7ため、ドローンとして扱える機体は最大離陸重量150kg未満となる。

適用される規制が最大離陸重量により異なることから、主な機体は最大離陸重量25kg及び150kgを上限として開発される傾向にある。現在の主な機体とその最大離陸重量、積載量等は《図表2》のとおり。

ドローンの積載量は最大離陸重量25kg未満の機体では5kg程度、最大離陸重量25kg以上の機体では30~50kg程度となる。現在宅配便の重量制限は概ね25~30kg以内で、宅配便相当の荷物をすべてドローンで運ぼうとすると、最大離陸重量25kg以上の機体が必要となる。

国土交通省では避難所等への物資輸送を目的とした機体として、最大離陸重量150kg未満、積載量50kg、航続50kmを開発すべき性能仕様としている9

一方、最大離陸重量25kg未満である株式会社ACSLのAirTruckは、搭載できる荷物を三辺合計80cm、重さ5kgまでとしているが、このサイズは、セイノーホールディングス株式会社との相談で「日本の宅配物の50%はこのサイズでカバーできる10」ということで決まったという。

4.期待される活用例

航空法改正により解禁となる「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行と、許可・承認が原則不要になる最大離陸重量25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行においては、これから特にドローンの活用が進むことが期待される。

ただし、レベル4飛行に必要な機体の「第一種認証」について、国土交通省の検討会では「まずは山間部等の比較的人口密度の低いエリア(比較的リスクが低い)での運用に係る安全基準の策定を優先」としており11、レベル4飛行については、当面の間は、山間部等の人口密度の低いエリアに限られる見込みである。

本章では、現在のドローンの利用例から、改正後一層のドローン活用が見込まれる領域を概説する。

(1)目視外、補助者なし、立入管理なしのケース~山梨県小菅村の事例から~


山梨県小菅村は人口約700人、最寄りのスーパーまで自動車で40分ほどかかる。買い物利便性の向上等のため、株式会社エアロネクスト等とドローン配送に取り組んでいる。使われている機体は最大離陸重量25kg未満、積載量5kgのAirTruckで、村内に「SkyHub」という物流拠点を設置し、在庫している商品を注文に応じてドローンで運ぶ。あわせて、スーパー等の商品を自動車で届ける「お買い物代行」事業も行っている。2022年2月末時点でドローン配送230件、お買い物代行454件の実績がある13

2022年6月時点では「車での配送と比較してドローン配送の方がコスト負担が大きい14」とのことだが、「緊急で配送して欲しい、買ってすぐ入手したいといった時間的価値の高いものを運ぶ15」、「ドローンが飛べない条件の場合に、クルマで商品が届けられることになっている16」と、ドローンと自動車を使い分け、最大離陸重量25kg未満の機体で利便性の高い配送サービスを提供している。

この事例のような場合、レベル4飛行が可能となれば立入管理が不要となる。現在、ドローンの飛行経路を追加するには、飛行経路を設定してから立看板等の設置場所を調整して設置するとともに、ポスター等で立入管理区画を周知する必要があるが、立入管理が不要となれば、こうした手間と費用を削減できる。費用削減とサービスエリアの柔軟な追加が可能になるのではないかと考えられる。

(2)目視外、補助者なし立入管理ありのケース~私有地内物流と設備点検の事例から~

①みかん農園での活用

小田原市のみかん畑、矢郷農園では、慶應義塾大学等がドローンによるみかんの出荷実験を行った。ドローンが定められた収穫ポイント上空でホバリングして静止、収穫したみかんの入ったかごをワイヤーで巻きあげ、トラックの待機する集荷場所まで自動で往復する。また、収穫ポイントは複数設定することができる。みかんの栽培は急傾斜地で行われているため、従来集荷は、人が運ぶかモノレールを敷設する必要があった。矢郷農園の矢郷代表によれば、モノレールは移設できず、車体だけでなくレールの保守も必要であるが、ドローンは収穫ポイントからの運搬が可能であり、機体の貸し借りもできるなどドローンのメリットや利用可能性が認識されている17

使用する機体は実験ごとに変えており、最大離陸重量25kg未満の機体18と最大離陸重量25kg以上の機体19の両方が試されている。この事例のような場合、改正航空法の下では、最大離陸重量25kg未満であれば、原則個別の許可・承認は不要となる。最大離陸重量を大きくすれば一度に運べるみかんの量を増やすことができるが、農園の事情に応じて、規制や機体の価格等の費用と、運搬する量のバランスを検討することが重要と考えられる。

②ドローンによる太陽光発電所点検

グリーン電力会社の株式会社afterFITは、栃木県内の太陽光発電所の点検を東京本社から遠隔操縦するドローンで行っている。ドローンは、人間が2時間かかる太陽光パネルの点検を10分ほどで行う。充電等も自動で行われるため、山間部の発電所を往復する必要もなく、急な故障や侵入者等に対しても、現場をすぐに確認できるようになった。使われている機体は最大離陸重量25kg未満となっている20

警備や設備点検で使用する場合、大きな積載量を必要としないため最大離陸重量25kg未満の機体ですむ可能性は高い。この場合、改正航空法の下では原則として許可・承認が不要となるため、機体の認証等が進めばドローン導入までの期間や費用が削減されることが期待される。

5.おわりに

航空法改正により、「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行が解禁され、また最大離陸重量25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行については個別の許可・承認が不要となることから、ドローン活用のさらなる拡大が期待される。ただし、レベル4飛行に必要な機体の第一種認証については、当面の間、人口密度の低い地域等に限られる見通しである。

ドローンを社会実装していくためには、経済合理性を確保していくという課題もある。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発表した「地域特性・拡張性を考慮した運航管理システムの実証事業」の研究成果資料21によると、ドローンの運航コストの69%は人件費となっている。同資料では人件費を削減する方法として、①申請作業の簡素化、②飛行中の補助者の削減、③1人のオペレーターによる複数のドローンの一斉飛行、が挙げられているが、今回の航空法改正では1人のオペレーターによる複数のドローンの一斉飛行はまだ実現しない。「空の産業革命に向けたロードマップ2022」では、多数機同時運航を実現する機体・システムの要素技術を開発・実証していくことを掲げており、今後の進展が期待される。

また、手続きや費用面では、大型の機体を運用すれば運用の幅が広がるものの、同時に運航コストも上昇する。ドローンの活用にあたっては地域の需要や解決したい課題を吟味し、制度や費用等に照らして適切な機体や運航方法を検討することが重要と考えられる。

  • ここでは「ドローン」とは航空法第2条第22項の「無人航空機」の定義に準じ「航空の用に供することができる機器で、構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」とする。
  • ドローンの飛行レベルは、首相官邸 小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会「「空の産業革命に向けたロードマップ 2018 ~小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備~」補足資料」(2018年9月27日)において定義されている。
  • 首相官邸 小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会「空の産業革命に向けたロードマップ2022」(2022年8月3日)
  • 国土交通省「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」(2022年6月4日)
  • (注1)最大離陸重量25kg以上の機体では、基本的な安全基準に追加して「(1)想定される全ての運用に耐え得る堅牢性を有すること、(2)機体を整備することにより 100 時間以上の飛行に耐え得る耐久性を有すること、(3)機体と操縦装置との間の通信は、他の機器に悪影響を与えないこと、(4)発動機、モーター又はプロペラ(ローター)が故障した後、これらの破損した部品が飛散するおそれができる限り少ない構造であること、(5)事故発生時にその原因調査をするための飛行諸元を記録できる機能を有すること、(6)想定される不具合モードに対し、適切なフェールセーフ機能を有すること」の6項目が要求される。
    (注2)最大離陸重量25kg未満の機体の第二種認証では注1と同等の6項目がないほか、「機体構造の制限寿命を設定し、試験による実証すること(疲労試験)及び最大総重量を少なくとも5%超える状態で計画外飛行又は制御不能が生じないことを実証(制限の検証)」の適用がされない。
    (注3)二等無人航空機操縦士は学科試験について一等無人航空機操縦士の試験から「無人航空機の飛行性能」及び「飛行性能の基本的な計算」並びに「カテゴリーⅢにおけるリスク評価」の3項目が除外される。
    (注4)一等無人航空機操縦士(重量制限なし)の身体検査は「指定航空身体検査医での受検」が検討されている。なお、二等無人航空機操縦士と一等無人航空機操縦士(最大離陸重量25kg未満)の身体検査は「運転免許証等有効な公的書類の提示」等の方法が検討されている。
    (注5)カテゴリーⅢの運航管理は「無人航空機を飛行させる者は、第三者上空飛行にあたり想定されるリスクの分析と評価を行い、非常時の対処方針や緊急着陸場所の設定等のリスク低減措置を講じることとし、国は許可・承認に際してこれを審査する。」ことが検討されている。
  • 国土交通省「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」(2022年6月4日)、同省「無人航空機の型式認証等における安全基準及び均一性基準に対する検査要領」の制定」(2022年5月31日)、同省「「航空法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係告示及び通達の制定について」に対する意見の募集について」(2022年7月25日)、同省「無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン」(2022年6月20日)
  • 航空機製造事業法施行令第一条
  • (注1)改正航空法では無人航空機は「マルチローター」「ヘリコプター」「飛行機」の3種類に区分けされ、無人航空機操縦士の資格は種類ごととなっている。Wingcopter198は、離着陸時はマルチローター、水平飛行時は飛行機となるため、操縦者は「マルチローター」及び「飛行機」の2種類の無人航空機操縦士資格が必要。
    (注2)積載量は航続性能が公表されているもののうち最大とした。なお、i-Gryphoneのみ積載量に燃料を含む。
    (注3)航続性能は公表されているうち最大の積載量を搭載した場合。なお、( )内の数値は、公表されている航続時間または距離と、飛行速度から筆者が換算したもので、各社が公表した数値ではない。
  • 国土交通省 行政ニーズに対応した汎用性の高いドローンの利活用等に係る技術検討会資料 (第1回;2021年10月21日)
  • KDDI株式会社「ドローンを飛ばしたから見えてきた過疎地の物流の課題と可能性」
    https://kddi.smartdrone.co.jp/solution/column/column-001.html>(2022年8月5日閲覧)
  • 国土交通省「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会とりまとめ」(2022年4月)
  • 内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議(第5回;2022年3月15日) 山梨県小菅村提出資料(資料5)「山梨県小菅村におけるドローンを活用した新スマート物流の取組み」
  • 同上
  • PC-Webzine「空飛ぶ宅配便 山梨県小菅村と東京都中央区におけるドローン配送事例を紹介」
    https://www.pc-webzine.com/entry/2022/06/post-499.html>(2022年8月10日閲覧)
  • 株式会社エアロネクスト「ドローン物流「社会実装」に向けてテイクオフ – セイノーHDと小菅村で目指す世界」
    https://aeronext.co.jp/2021/04/drone-delivery-takeoff/>(2022年8月24日閲覧)
  • ドローンジャーナル「小菅村のドローン配送サービスの仕組みで実現した“空からのクリスマスプレゼント”」
    https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1184002-3.html> (2022年8月10日閲覧)
  • DroneTribune「慶大、ドローンを着陸させずにミカンを運搬 小田原の農園で実証実験 
    https://dronetribune.jp/articles/20792/>(2022年8月19日閲覧)
  • 内閣官房・国土交通省「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.3.0」(2022年3月)
  • ブルーイノベーション株式会社「ドローン定期便、第二弾は「空飛ぶみかん」自動運搬実用化に向け、急傾斜地で実証実験」(2021年1月18日)
  • 株式会社afterFIT「再エネ低コスト化へ全自動ドローン運用開始、多発する銅線盗難にも対応」(2022年2月18日)
  • NEDO「運航管理システムを使ったドローン運航ビジネスの姿」(2021年度P17004;2022年2月24日)

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