IoTを駆使した今日のインターネット上の様々なサービスは、クラウドの利用を念頭におき構築されるケースが多い。しかし、ネットワークを介して利用するというクラウドの特性上、①データ転送遅延②セキュリティ③通信料、クラウドでのデータ保管・利用料増加④ネットワーク障害時のクラウド接続不可、といった課題も存在する。これらクラウドの弱点を補完する技術として「エッジコンピューティング」(以下エッジ)、「フォグコンピューティグ」(以下フォグ)が注目されている。
エッジ&フォグコンピューティング~私たちの生活を変える新技術~
1.はじめに
技術革新により、カメラやセンサーなどのIoT機器の利用が容易となった。IoT機器、およびそこから生成されるリアルデータ1は今後飛躍的に増加すると予想され、機器数は2025年に世界で416億台となり、データ量は79.4ゼタバイト2になるという予測もある3。
2.「エッジコンピューティング」「フォグコンピューティング」
(1)IoTで利用される「エッジコンピューティング」「フォグコンピューティング」
(2)「エッジ」「フォグ」の使われ方
エッジ・フォグの定義は様々である。前者はヒト・モノ・現場により近い場所で分散してデータを取得・処理する技術、後者はクラウドの裾に漂う霧(フォグ)のように位置し、クラウドからエッジ側の処理を切り離し、フォグでも協調しながら、データの取得・管理・処理を分散して行う技術4と言えよう(図表1参照)。5
IoT機器から生み出された莫大なリアルデータがクラウドへと向かう経路において、データの集中度合、データ処理に必要とされるレスポンスなどは異なり、それぞれを実現するための機器性能も異なる。一般的にエッジはリアルデータの源であるIoT機器と隣接している。複雑・高速な処理ができるエッジを多く設置するのが理想ではあるが、その場合高コストとなってしまう。
これを避けるため、例えば、特に高速なレスポンスが必要な処理はエッジ、ビル内など現場で完了させたい処理はフォグ、その他の処理はクラウドといった階層構造でシステムを構築することは妥当な設計と言えるであろう。
3.生活を変えるエッジ・フォグの活用事例
今後IoTの利用が期待されている分野は、工場、住宅、病院等様々だが、以下では自動車の運転、特に今後利用が期待されている自動運転技術でのエッジ・フォグ活用シーンについて論じる。
(1)運転中の危険回避
自動運転では周囲を走る車や歩行者などの情報をリアルタイムで把握し安全な運行を実現する必要があり、反応速度にはミリ秒単位のレスポンスが要求される。この処理には車両に取り付けられたカメラや位置・距離情報を把握するセンサーから得られたデータが活用されるが、処理をクラウド経由とした場合、ミリ秒単位のレスポンスを常時実現することは困難である。このため、車両に取り付けられたエッジが判断し、ブレーキやハンドル操作などを自律的に処理することが求められている6。
(2)カメラ・センサーが取得するデータ
地図情報や渋滞情報の作成・更新をクラウドで実施する場合、車載カメラやセンサーの活用が期待されている。ただし、一般的にカメラやセンサーから取得されるデータは莫大な量になり、その全量をクラウドに転送した場合、通信料金やクラウドでのデータ保管・利用料の増加が考えられる。
しかし、カメラやセンサーから取得されたデータのうち、本来必要な情報はデータの一部、例えばカメラで写された画像全部ではなく、その輪郭情報で十分な場合や、色情報が不要なケースも考えられる。この場合、エッジ・フォグを活用し、本来必要な情報のみを抽出しデータを減らすことで、効率的なクラウドへのデータ転送、保管が可能となる(図表2参照)。
またカメラで取得された人物画像において、プライバシー(セキュリティ)の観点でデータの一部を削除することや、マスキングすることが求められるケースも出てくるであろう。このような場合もエッジ・フォグでデータ処理しクラウド等の外部へ転送するのが効果的である。
4.おわりに
2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」の中で、データはデジタル新時代における価値の源泉と位置付けられており、その経済的価値が注目されている7。また、第四次産業革命において国際的な競争力を維持・向上していくことや、急激な少子高齢化が進む我が国においてセルフサービス的な社会を実現していくには、リアルデータを利用したIoTは必要不可欠と考えられる。
本稿では自動運転の事例のみにとどめたが、「エッジコンピューティング」「フォグコンピューティング」の活用は今後益々増加していくことが予想される。
我々の身の回りにも着実に新しいテクノロジーの活用が広まっていることは最低限理解しておくべきであり、また利用者として新しい技術のリテラシーが求められる日もそう遠くないのかもしれない。
- 経済産業省「第4次産業革命における産業構造の将来像について(案)」によれば、バーチャルデータはWeb(検索等)、SNSなどのネット空間での活動から生じるデータ、リアルデータは走行データ、健康情報、製品の稼働状況等や個人・企業の実世界での活動についてセンサー等により取得されるデータとしている。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shinsangyo_kozo/pdf/006_04_04.pdf
(visited Sep. 18, 2019) - 1ゼタバイトは1ギガバイトの1兆倍。
https://www.seagate.com/files/www-content/our-story/trends/files/idc-seagate-dataage-whitepaper.pdf
7ページ(visited Sep. 25, 2019) - The Growth in Connected IoT Devices Is Expected to Generate 79.4ZB of Data in 2025, According to a New IDC Forecast
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS45213219
(visited Sep. 3, 2019) - industrial internet consortium(IIC)によるエッジ・フォグの定義。
https://www.iiconsortium.org/IIC-OF-faq.htm
(visited Sep. 18, 2019) - コンピュータの処理能力を高めるために追加するCPU等のハードウェアやソフトウェアの総称。
- クラウドのレスポンスは国内の場合、平均で約0.1秒程度といわれており、時速60キロの車は約1.7メートル進む。車内設置のエッジのレスポンスは0.001秒程度であり、この間に進む距離は0.017メートル(1.7センチメートル)となる。エッジの活用により危険回避が早くできることで安全性向上につながると考えられる。
https://www.ntt-f.co.jp/column/0104.html
(visited Oct. 11, 2019) - マッキンゼーは、IoTが生み出す経済効果は2015年の3.9兆ドルから2025年は11.1兆ドルとなり、世界のGDPの約11%を占めると予測している。
https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-digital/our-insights/the-internet-of-things-the-value-of-digitizing-the-physical-world
(visited Sep. 15, 2019)
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